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新価値創造のためのデジタル異業種連携戦略とは

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

新価値創造のためのデジタル異業種連携戦略とは

 いま市場で起こっているイノベーションの本質、その背景には「デジタル化、ネット化の本格普及があり、これまでの既存業界がいかに破壊的参入によって浸食されるリスクが高いかをコラム等で述べてきました。そこで既存企業の生き残り、さらなる発展に必要となるのは、既存企業などとの異業種連携による破壊的な新事業創造です。新価値創造のためのデジタル異業種連携戦略とはどのようなものなのでしょうか。5つの定義をご紹介したいと思います。

定義①AI、IoT、さらにはシンギュラリティなどのデジタル化、ネット化の本格普及で、技術は飛躍的に発達し、その結果社会も大きく、しかも加速度的に変化することを直観的に認識すること

 デジタル異業種連携戦略の第一歩は、将来の社会、ビジネスの変化に対する基本的な価値基準、いわゆるパラダイムをしっかり持つことです。デジタル化、ネット化以前の技術やスキルの発展はそれぞれの分野で閉じていたといってもよいと思います。電子工学、通信工学、自動車工学、生理学、医学などアカデミックな工学分類体系が基本となり、その細部を深く追求していました。細分化された個別技術は進化するのですが、デジタル化、ネット化が本格的に進展してきた結果、そういった個別の専門分野の知識同士が加速度的に結びつき、次々と新たな分野が生まれてきました。
 つまり簡単に言えば、技術は我々の意図しないところで加速度的に増殖する時代に入ってしまっていて、その結果技術に影響を受ける社会、ビジネスなども大きく変化する、という事実をしっかり認識することが大事です。それを頭で、理屈で理解するのではなく、自分の身近にあるシェアリングサービスなどで実感し、直観的に考え、機動的な思考ができるまでになっておくことが大事です。

 

 

定義②デジタル化、ネット化を脅威と捉えるのではなく、歴史的な絶好の機会と捉え、そのための価値観、行動様式に自己を変革し、その機会をキャッチできるようにすること

 伝統的な既存の業界の人・組織は、デジタル化、ネット化、最近で言えばAIやIoT化に関して、自社とは遠いところ、時に「しばらく影響は限定的」と楽観的に解釈し、時には「脅威であるが自社では対応が難しい」と悲観的になってしまいます。デシタル化、ネット化を止めることは出来ません。我々はすでにそれらを基盤にした社会で生活しています。
 デジタル化、ネット化の進展は、サイバーの中だけでは完結しません。むしろフィジカル(物理的、物質的)な世界との関係の中で爆発的な価値を生むと考えられます。デジタル、ネットの人たちは簡単にはフィジカルな領域には入って来られません。米国イーロン・マスク率いる電気自動車のテスラでさえ、自動車というモノづくりで苦戦をしています。、またアマゾンは、反対に難易度の高い物流システムというフィジカルなインフラを、長年赤字を出し続けてまでして先行して構築し、その結果としてECビジネスで世界をリードすることができました。
 そう考えると本格的デジタル化、ネット化は既存業界にとって大きなチャンスといえます。しかもその利用コストも限りなく低くなっていきます。

定義③業界や企業の垣根を越えて、専門性の高い技術、技能、人材、仕組み、顧客などの経営資源を、デジタル化、ネット化の基盤を活用し、組み合わせることでこれまでにない全く新しい破壊的な価値を創造すること

 既存企業、特に大企業には、多くの経営資源が存在しますが、それが限られた、しかも成熟した業界の特定の領域に投入され、専門性は高く、素晴らしいものであることが多いのですが、決して生産性、経済性が高いとはいえません。そこで経営資源、特に専門性の高い技術、スキルを異業種で連携させることで、これまでにない全く新しい、既成の概念を打ち壊す“破壊的”な価値を創造すること目指します。その際、デジタル化、ネット化は、連携のベースであり、顧客価値提供の重要なツール、さらにはエコシステム・ビジネスモデル構築の基盤となります。

 

 

定義④異業種連携によってつくられるエコシステム・ビジネスモデルは、デジタル化、ネット化の基盤によってオープンなプラットフォームにする必要があります。オープンなプラットフォームにすることで無数の企業、組織、個人が参加し、指数関数的(エクスポネンシャル・exponential)な成長をめざすこと

 異業種でつくり出されたエコシステム・ビジネスモデルは、ビジネスプラットフォーム、ITプラットフォームなどの多層なプラットフォームでその基盤が支えられなければなりません。プラットフォームは戦略的にオープンにするべきところとクローズにするところを分け、参加者が加速度的に増殖し、同時に参加メンバーが受け取る価値が増えるような仕組みにしておかなければなりません。

定義 ⑤異業種連携の組織を、各社からは独立した意思決定、権限システムのガバナンスにしておくこと。そしてベンチャーに負けないスピード、機動性、柔軟性を持たせるように組織上の工夫をすること

 既存の大企業の弱点は、意思決定のスピードが遅いことや組織が固定的で、柔軟性がないことなどいわゆる“大企業病的”なことです。これはどの業界の既存事業でも同じようなものです。これをいくら論じても前に進みません。だからこそ異業種連携のガバナンスは大企業と切り離した形で、ベンチャーのように自由にやらせないといけません。そういう意味ではコーポーレート・ベンチャー・キャピタルのような形、つまり出資はするけれどあまり口を出さないようにして、経営資源面での支援をし、価値向上を狙うようにするべきです。
 以上まとめるとデジタル異業種連携戦略とは下記になります。

 

 

 

 

 

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