「部分の立場で顧客の経営・事業戦略に影響を与える」デジタルB2Bマーケティング 第10回
■変化は部分から始まる
部分と全体は相互に影響を与え合いながら生成変化するものです。このことは第8回「部分だが全体との相互関係を持たせる」でも述べました。
私たちの身の回りを見ても、全体が一気に変化することはほとんどありません。あったとしても部分の変化が潜在的に進行していたが表に出なかっただけです。B2Bのマーケティングでも同じことが言えます。部分が周りと相互に影響を与え合いながら全体が生成変化し、最終的には全体を変えることがあり得るのです。昔の話になりますが、携帯電話で写真を撮り送るようになったのは日本の京セラが始めた写メールが最初でした。その後スマートフォン時代になってSNSが登場し、世界中の人がフェイスブックや、インスタグラムなどで写真や動画を送るようになりました。それによりスキャンダルが暴露されたり、取材、発信の源であったマスコミが一般市民の投稿を活用したりするようになりました。こういったこともすべては部分から始まっています。
このような考え方からもB2Bマーケティングにおいて、素材、部材などの部分が全体を大きく変容させる可能性が十分ありえるし、むしろそれが現実なのです。
■部分の立場で顧客の経営・事業戦略に影響を与える
B2Bのマーケティングで最も大事なことは、顧客のエコシステムやビジネスを先回りして想定することです。ただし起点は、自社の製品・サービスです。自社の製品・サービスが、最終受益者にこれまで以上の価値(ベネフィットに対するコスト)をもたらすものにつながっていること、そのためには、自社の製品・サービスを採用することが重要であること、また他のパートナーとの連携、共創が重要であることを訴求します。上から目線の戦略の提案ではなく、顧客と顧客のパートナーにうまく影響を与え、また彼らの要求を自社の製品・サービスに吸収し、エコシステム・ビジネスを創発してくことです。
■B2Bマーケティングとは部分がエコシステム・ビジネスを変革する異業種連携プロセス
B2Bのマーケッターに必要なのは、顧客の現在のエコシステム・ビジネスモデルを理解し、自社の製品・サービスを起点にしてそのエコシステム・ビジネスモデルを変革することです。
最も重要なことは、顧客のエコシステム・ビジネスモデルをデザインする力でしょう。部分でありながら全体をデザインし、変容させていく想像力と行動力です。
そのためには、最終受益者の魅力的な価値をイメージし、その実現のためのエコシステム・ビジネスを企画することになります。自社の製品・サービスはそのための重要なプレイヤーとして位置付いていなければならないし、パートナーとの連携、共創もシナリオの中に入れる必要があります。
B2Bのマーケッターには、自社以外の業界、会社を超えた異業種連携力が求められます。
■障害になるのは、自社と製品・サービスが変化しないこと
デジタルがベースの社会で生き残る条件は、常に変化し続けることです。B2Bマーケティングを実行する上で、自社の製品・サービスが、そして会社自体が、周りの変化を吸収し、進化できるかが生き残りの条件になってきます。特に製造業は、自社で製造することにこだわるあまり、リスクを顧みず莫大な設備投資を行うことがままあります。その設備投資の回収をするために、低価格で受注し、開発部門に無理をさせ、製造には無理なコストダウンを行わせ、エコシステム・ビジネスモデルの変化にあらがうのです。製造業であっても発想を変えれば、ソフトウェア会社の様に変化できます。開発設計に特化したファブレス業態や、さらには設計+シミュレーションサービスなどいくらでも方法はあります。市場や顧客への変化対応が前提であって、自社の設備や組織を守ることが前提ではないのです。