第9回「リーダー」の立場からみたブレークスループロジェクト:やってみると全く気づかなかったことがたくさんあった 人が集まり、互いが成長する組織 ~人・組織への投資と、学習・成長の仕掛けによる戦略~
前回の「経営者の視点」に続いて、今回は「プロジェクトリーダーの視点」から見たブレークスループロジェクトについてお話しします。
ブレークスループロジェクトに限らず、必要に応じて組織される「プロジェクト」のリーダーには、部長・課長・係長など職制の管理職とは違う知識やスキル、それにマインドセットが求められるものです。それらは読書や研修受講だけでは習得できず、実際のリーダー経験を通してのみ身につけられる部分が少なくありません。以下、ブレークスループロジェクトでリーダーを務めた方々がその経験から何を得たかをご紹介しましょう。ここからも本プロジェクトの特徴がおわかりいただけると思います。
経験からの気づき①:不安や問題をストレートに共有してもみんなよく理解してくれた
ブレークスループロジェクトは、単に目標を達成することだけでなく、人材を育成し、組織を変革・発展させることを重視します。したがって、そのリーダーを決めるにあたっては多くの場合、職制や業務経験よりもマインドや行動力、発想力などのポテンシャルが高いかどうかで判断します。つまり、管理職もプロジェクトリーダーも務めた経験のない人がリーダーに選ばれるケースが多いのです。
そうした人は、以下のような不安に直面します。
- リーダー経験のない自分にメンバーは本当についてきてくれるのだろうか?
- 目標を達成しなかったら、リーダーの自分が責められるのではないか?
- メンバー同士はチームワークよくやってくれるだろうか?
実際、ブレークスループロジェクトのリーダーは、通常業務だけに従事しているときと比べ、2倍ぐらい負担感が増えると思います。
ブレークスループロジェクトの期間は90日間です。最初の3分の1、つまりプロジェクト開始後30日くらいまでは、たとえ進捗が思わしくなくても、リーダーはメンバーとの関係をそれほどギクシャクさせることなく、プロジェクトの体裁を保つことが可能でしょう。
しかし、それ以降、45日目の中間報告を意識する時期になると、リーダーの緊張感は次第に高まってきます。「中間報告の際の達成レベルは?」「いったいこの30日間は何をやってきたのか?」など、リーダーの重圧をずっしり感じるようになるのです。その結果ついつい感情的になって、「みんなちゃんと決めたことやってくださいよ」「〇〇さん、やることわかっているのですか?」など厳しい言葉を吐いてしまうことも少なくありません。
ところが、実際に現場を見ていると、意外にも、そうした言葉が原因で大きなトラブルになることはまずありません。むしろ、みんなが指摘を素直に受けとめ、かえってチームの結束力が増すことが多いようです。その理由は、ブレークスループロジェクトでは「危機感の共有」「危機的な状況を楽しむ」「すべてのプロジェクトはドラマである」などといった言葉によって、「途中で必ず訪れる危機をむしろ機会として捉える」ことを、プロジェクト開始当初にみんなで確認しているからです。
メンバー全員がその認識をしっかり共有しているからこそ、リーダーが多少きつい言葉を発しても素直に受け入れてくれる。リーダーの役割を担った人は、それを実体験として理解できるのです。
経験からの気づき②:みんなが自発的にリーダーシップをとってくれた
ブレークスループロジェクトの期間中は、様々なタイプの危機的状況と遭遇します。そして、その中にはリーダー自身に知識やスキル、情報が不足しているため明確な指示ができない問題も数多く存在します。
リーダーはたいてい、初めのうちは自分で何とかしようとしますが、そのうちそれが不可能だとわかってくると、次のような行動をとります。
状況に応じてその問題を解決できる人をプロジェクトメンバーの中から見つけ出し、そのメンバーにリーダーの役割の一部を切り離して渡し、任せるのです。任されたメンバーは、この特定の問題解決にあたっては自分こそが主体、つまりリーダーであることを理解し、自身のプライドにかけて真剣に取り組み、責任をもって実行します。これが繰り返されるうち、気がつくと複数のメンバーが同時にリーダーとなって、自発的に全力で取り組んでいる状態になります。
このように状況に応じてメンバーがリーダーになることで、各人の自発性が存分に発揮され、プロジェクトチーム全体のパワーは最大化します。チームがこの状態になると、互いに刺激し合う中でモチベーションが高まり、メンバー間の「相乗効果」が生まれ、それが継続します。結果としてブレークスループロジェクトは、全員がリーダーとなり、最初のリーダーはリーダーの中のリーダーとなります。
経験からの気づき③:未知のことでも挑戦すれば何とかなると思えるようになった
総務、経理、人事、開発、営業・・・こうした職務の多くは少し前まで、やる仕事がだいたい決まっているものでした。しかし、近年の劇的な環境変化を受けて、今ではどんな職務においても仕事のおおよそ30%は、過去やったことがないものとなっているのではないでしょうか。その30%の新しい仕事について「ああ大変だ、疲れる」と感じる人と、「よし、また新しいことに挑戦できるチャンスだ。楽しんでやろう」と思う人とでは、成長の度合いが全く異なります。
ブレークスループロジェクトは、前者の「大変だ、疲れる」タイプの人を、後者の「新しいことに挑戦してやろう」タイプの人へと変身させるパワーがあります。なぜならブレークスループロジェクトは、「大変だ、疲れる」と感じる暇を与えず行動を促し続け、それによって意識と思考を変えていくからです。
意識や思考は、それそのものを変えようと思っても変わりません。毎日行動を積み重ねることでのみ変わっていくのです。ひとたび変化が起これば、異なる状況下でも意識と思考が作動し、適切な行動ができるようになります。
では、なぜ行動することで意識と思考が変わるのでしょうか。その理由は「人の学習特性」にあります。
「毎日小さく行動する→小さな結果が出る→小さな達成感を感じる→これを1週間続け、振り返るとそこそこの成果となっている→一回り大きい達成感を感じる」
このサイクルを繰り返すことで物事に対する意識と思考、つまり認識が変わり、さらに行動が変わっていく「学習モード」が定着します。そしてプロジェクトも終盤になると、リーダーもメンバーも「初めはわからない・できないと思っていたことも挑戦すればなんとかなると思えるようになった」と言えるようになるのです。
リーダーシップを育むには、書籍を読んだりリーダー育成研修を受けたりするのも大事ですが、「真の学習」はブレークスループロジェクトのような「場」(状況)を実際に経験することによってのみ進むのだ、ということがおわかりいただけるかと思います。