第6回 弊社のブレークスループロジェクトができるまで 人が集まり、互いが成長する組織 ~人・組織への投資と、学習・成長の仕掛けによる戦略~
きっかけは、とある本との出会い
私がブレークスループロジェクトという言葉を知ったのは、2005年に弊社で翻訳・出版した『The GE Work-Out』(邦題:『GE式ワークアウト』日経BP社)という本との出会いがきっかけです。その本の著者が所属する米国のコンサルティング会社シェーファーアンドアソシエイツ( https://schafferconsulting.com/ )のCEOで経営心理学の博士号を持つロバート・シェーファー氏を日本に招聘し、勉強会を実施しました。その際に、GE式ワークアウト(米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチ前会長らが作り上げた風土変革メソッド)のベースになっているのが「ブレークスループロジェクト」だと知り、それについて学ぶ機会を得たのです。
勉強会でシェーファー氏はブレークスループロジェクトについて、「人や組織が”行動して結果を出す“環境を作ることでケイパビリティを向上させるプロジェクト」だと説明し、「人の達成感がモチベーションの源泉である」と強調しました。また、勉強会終了後には「あなたたちもブレークスループロジェクトを体験してみてほしい。今日、今からやってみよう。今すぐ何でもいいから目標を書き出してみて。私が毎週メールで進捗をチェックしてあげるから」と言ってくださいました。そこで、さっそく私自身、仕事上のテーマを設定してブレークスループロジェクトを試してみたところ、その効果を身をもって理解することができたのです(さすがに米国から毎週チェックは受けませんでしたが)。
それから私は、ブレークスループロジェクトの日本での導入を目指し、シェーファー氏の承諾を得てプログラムを改良していきました。具体的には、多数の企業の方が参加する異業種研修を企画し、模擬テーマでブレークスループロジェクトを実施してもらったり、いくつかの問題意識の高いお客様のところでテスト導入していただいたりなどしました。
多くの日本企業の「改革」に疑問
当時(2006年頃)は、日本でもMBA式の経営が流行し、多くの企業で「選択と集中」「ポートフォリオ改革」「構造改革」といった欧米流の「経営変革」「経営改革」が行われていました。確かに当時の多くの日本企業がこのような「改革」を必要としていたと思います。しかし、「改革」が行なわれた後も、多くの企業では依然として、役員と一部の企画スタッフや経営コンサルタントなど限定されたメンバーのみで経営を進めているという状況に、私は疑問を持ち始めました。
この頃はすでにインターネットが普及しており、市場の変化スピードは加速化していました。コモデティよりも付加価値ビジネスが重視される今の時代には、一部のトップが戦略をつくって現場に実行を指示すれば業績が上がるなど、もはやあり得ないのではないか。それより社員の自発性や行動力、スピード、クリエイティビティが最も重要な成功要因になるはずだ、と考えたのです。
そのとき私が注目したのが、「共創(Co-Creation)」「創発(Emergence)」というキーワードでした。そして、多様な人や組織がパーパスを共有し、異なる意見をぶつけ合うことで、あらたな解決策を創造する活動が必要だと考え、関心をもつ日本企業を十数社集めて創発型経営研究会を立ち上げ、2年間ほど活動しました。このときご指導いただいたのが、当時、東京大学人工物工学研究センター長を務めておられた上田完次先生です。
ここで議論した「共創」「創発」の考え方を、私はブレークスループロジェクトにも取り入れました。具体的には、プロジェクトメンバーには多様なバックグラウンドを持つ人を集めること、それらメンバーの自発性を重視すること、トップは大きな方向性を示し心理的安全性を確保すること、利害関係者をポジティブに巻き込むこと、トップダウン&ボトムアップを短期で繰り返すこと、トライ&エラーを重視することなどです。
実践を通じて進化を続ける
そうして2008年頃には今のブレークスループロジェクトの原型ができあがり、それ以降、経営・事業戦略はじめ弊社のコンサルティングプロジェクトにはブレークスループロジェクトを常にセットして、実行までフォローするようにしました。
また、多数の海外拠点を持つ商社の現地法人社員を対象にブレークスループロジェクトを大規模に実施する機会を得たこともあります。このときは、このアプローチがインド、北京、上海、タイ、シンガポール、ベトナムなど日本以外でも有効であることを確認できました。自分がやりたいこと・やらなければいけないと思うことをテーマに掲げ、最長90日で達成すべきブレークスルーゴールを立て、ポジティブフィードバックをかけながら小さな目標を毎日達成していく。言葉や文化は異なっても、これを続けることでどの地域でもモチベーションがアップし、行動量が多くなり、最終的にほとんどのチームが目標を達成しました。期日までに達成できなかったチームもその後1か月以内にゴールに到達できたのです。
GE式ワークアウトの翻訳・出版から始まり、米国のコンサルタント、シェーファー氏との交流、東京大学人工物工学研究センター上田教授のアドバイス、大手企業にも参画いただいた創発型経営研究会での議論、国内外多くのコンサルティング、ワークショップ、研修などでの実践を経て、ブレークスループロジェクトは進化を続けてきました。最近ではコーチングやアジャイル開発などの要素も取り入れています。正確に数えていませんが、これまで弊社が関係したプロジェクトは、1,000以上に上ると思われます。