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第7回 これからのブレークスループロジェクト 人が集まり、互いが成長する組織 ~人・組織への投資と、学習・成長の仕掛けによる戦略~

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

新旧の価値観の対立を乗り越える

現在の企業や組織が抱える問題のほとんどは、突き詰めていけば、以前の高度成長期の資本主義のやり方をいまだに無理やり押し通そうとしていることに起因すると思われます。ブラックな働き方や下請けいじめ、品質改ざん、従業員の生活習慣病や精神疾患の増加といった問題から、数々の環境破壊、地球温暖化にいたるまで、それらの元凶となっているのは、大量生産・大量消費を前提とした工業化社会時代の「行き過ぎた資本主義」です。そして、この行き過ぎた資本主義による問題が発生しているのは製造業だけに限りません。IT企業やスタートアップ企業でも同じことが起きています。

企業や組織の内部では今、一種の「分断」が発生しています。その背景にあるのが、大量生産・大量消費型経済に慣れた世代と、それを知らない若い世代との間の価値観ギャップではないでしょうか。1990年代前半までの「行き過ぎた資本主義」的なものに対し、そういった過去の価値観を乗り越えたいと思う「脱・資本主義」的な感覚。少々極端な言い方をすれば、イデオロギーの対立が起きていると思います。

こういった「分断」を前にしたとき、私たちは評論家ではなく当事者としてその解消に努めるべきです。何とか工夫して自力で乗り越えていかなければなりません。その実践方法として開発してきたのがブレークスループロジェクトなのです。

振り返ってみると、そのブレークスループロジェクトも、導入当初は「昔の資本主義」のやり方を押し通すトップダウン型経営の延長線上にあったように思えます。しかし、実践していくうちに、多様な個の重要性はもとより、ボトムアップ&トップダウンによる創発型組織運営の楽しさ・スピード感・革新性などの魅力を次々と発見。その創発型経営の考え方を取り込むことで、ブレークスループロジェクトは大きなパラダイムシフトを遂げました。

一方、ブレークスループロジェクトを様々な企業・組織で実践していく中で、「行き過ぎた資本主義」に基づく価値観や行動様式も一元的ではないことがわかりました。ミドル・シニア世代の中にも慣れ親しんだはずの「行き過ぎた資本主義」に矛盾を感じる人や、個性重視の新しい業務運営を期待して若い世代を支援する人は少なくありません。また、そのようなミドル・シニアは高度成長期の恵まれた環境下で豊富な経験を積んでいる人が多く、経験に基づくノウハウを若い世代に伝授しようと人材育成に注力する人もいます。経済合理性の追求という「資本主義の良さ」も、行き過ぎない限り、社会の重要な一要素として活用すべきであり、そのためにも幅広い世代の積極的なプロジェクト参加が望ましいと言えるでしょう。

そういった個々人が持つ多様な価値観や経験、ノウハウを、ブレークスループロジェクトを通じて今後さらに生かしやすくしていきたいと考えています。

今後は個人レベルにもフォーカス

このように時代に応じて進化させてきたブレークスループロジェクトですが、これからさらに取り組みを強化していきたい分野が3つあります。

1.大組織における構成員の能力開発、権限移譲を促進する

一つ目は企業や行政など大きな組織の構成員の能力を開発し、その権限を拡大して、もっと自由に仕事ができる環境をつくることです。

すでに何回か述べている通り、ネット社会が成熟した現代では、世界中で起こる個別の事象が瞬時に伝わり、相互につながって、短期間にコトがつくられていきます。価値の創発は現場で行なわれているのです。だからこそ、組織経営はその現場に近いところにいる人たち(社員やパートタイマーはじめ、業務委託先など社外の人・組織も含む仲間のネットワーク)を中心としたものへ進化させていく必要があります。

ネットコンテンツビジネスなどに見られるように、商品・サービスの提供者側の人や組織とそれを需要する顧客との関係は、ますます深化していくと同時に、両者の垣根がだんだん低くなっていきます。したがって、今よりもっと現場に近い社員に権限を持たせた経営が主流になっていくはずです。経営トップと一部の限られた企画スタッフが戦略を考え、計画に落とし、実行を指示する経営では、市場の変化についていけず、また発想も限られてくるので、進化発展に限界が生じます。

今後、企業活動のデータ化が進めば、判断や意思決定をする際の選択肢はAIが自動で提出してくれるようになります。選択肢を考案するという仕事における現場社員と経営トップの差がなくなり、両者はもっとフラットな関係になっていくでしょう。そこで大切なのは、AIが考えた選択肢を前に、企業側がどういう人間的な判断や意思決定をするか、それに対して顧客側がどういう人間的な反応をするか、ということ。つまり、企業の構成員がその立場に関係なく、極めて人間的な発想やアクションを起こせるかどうかが、顧客経験価値を創発する上で重要になるのです。

2.フリーランスや小規模事業者をパワーアップする

二つ目は、会社や組織に属さないフリーランス(個人事業主)および小規模事業者を、ブレークスループロジェクトを使ってパワーアップさせることです。

私自身は30歳で会社を辞め、事業開発・研究開発戦略のコンサルタントとして一人で事業を始めました。現在は数名の社員がいますが、かっこよく言えば私も社員も「プロフェッショナルな個人」として仕事をしており、会社はその個人の集合体。別な言い方をすると固定的な仕事がない不安定なフリーランスの集団です。上司部下の関係は一般の企業と比較して極めて薄く、必要以外の指示も一切しません。いわば、個人責任の放任主義。みんな自分でやりたい仕事を自分で決めて、営業し、実践します。我々のようなコンサルタント以外にも、デザイナーやアーティスト、大学の研究者なども同様の働き方をしている人が多いのではないでしょうか。

最近では大きな企業でも副業が可能となり、日中はサラリーマンをしながら終業後や休日など空いた時間を使って自分の好きな仕事で稼ぐ人もちらほら出てきています。配偶者を専従にして不動産業を始めたり、友人と共同でバーや学習塾を開いたり、規模は小さくても夢いっぱいの話をよく聞くようになりました。とても良いことだと思います。

私は、そういった個人や小さな企業を対象にブレークスループロジェクトを実施することで、経済的成功というよりも、本人はもちろん関係者全員にとって本当に意味のある「質の高い成長」を成し遂げてもらいたいと考えています。なぜなら、副業も含めた個人事業主や小規模事業者は「自分のやりたいことで食っていきたい」という夢と強いモチベーションがあるからです。「自発的」という点においては、やらされ感の強いサラリーマンと比べて強烈なパワーを持ちます。少しぐらい辛いことがあっても簡単にはあきらめないし、常に前向きでいることの大切さも理解している。仕事や生活そのものがすでにブレークスループロジェクト的なので、親和性はより高いと言えるでしょう。

3.将来に不安を感じる学生を支援する

取り組みたいことの三つ目は、自分が何に向いているかつかみきれず、将来の夢や目標が見えないまま不安を感じている学生・生徒さんをブレークスループロジェクトで支援することです。下は小学生から上は大学生までを対象に考えていますが、特に大学生ともなれば就職を控えて自分の進路が見い出せず焦る人も多いでしょう。

そういった学生さんも、ブレークスループロジェクトの考えを活用し、自分なりの小さな目標をセットして行動を始めれば、道がどんどん開けていくはず。その繰り返しでおのずとやりたいことが見えてくると思うのです。

今の社会はあまりにも選択肢が多いため、20~30年前と比較して、調べたり考えたりすることは増えても、実際に行動して物事を感じ取る機会は圧倒的に少なくなっていると思います。自分の適性を知るには、小さな行動を起こし、それを通じて心身で学んでいく以外にありません。そうやって自分の好きなことを見つけたら、それにこだわることで周囲も協力してくれるようになりますし、つながりも広がります。

私は大学の非常勤の教員を15年務めており、これまで多くの学生のキャリア相談に乗ってきました。私がいつも学生さんに質問するのは、「時間を忘れてしまうくらい好きなことって何?」「何をやってもいいって言われたら何したい?」「これまでの人生の中でもっとも充実していたと感じるのは何をしていたとき?」といったことです。人は問いかけられると考え始めます。そして、話しやすい環境を作れば多少自信がなくても何かを答え始めます。その答えをブレークスループロジェクト的に一歩だけ進められるようアドバイスします。例えば、「自分はアニメや絵が好きで、デザイン的なことを仕事にできればいいと思っている」と答えた学生がいれば、「デザインに関する簡単な本を一冊選んで、来週までに読んで私に教えて」と伝えます。翌週、本を読んだ学生が「もっとデザインのことが知りたくなりました」と答えたりすれば、すかさず「今週、企業の工業デザイナーの人と食事するので参加する?」といって次のステップに押し進めます。そうやって、まわりの支援を得ながらちょっとした関心事を熱中できるものに仕上げていくコツ、のようなものを伝えるようにしています。

また授業中には、些細なことでも学生の良いところを見つけて徹底的に褒めるようにしています。そうすると、「先生、私〇〇に挑戦します!」という学生が何人か出てきます。そこでその夢と関係する小さな目標を立ててもらい、短期間で実行して結果を私にチャットアプリで報告してもらうようにすると、いつの間にかびっくりするほど成長していることがよくあります。「米国の大学に交換留学で1年行ってきました」「ダブルスクールでデザイナースクールに行きました」「スタートアップ企業を設立しました」などはその一例です。

以上のとおり、企業や行政など大きな組織で進化してきたブレークスループロジェクトの次のステップは、「個人」や「小さな組織」にも焦点を当てていくことです。その理由は、前にも述べたとおり社会・産業構造が変化してきているからです。

今の世の中は、かつてのような大資本(資金)を集め、大規模な設備投資を行い、多くの人を雇用して大規模に生産する工業化社会の「戦略計画」時代とは違います。いまや個人や組織がネットワークでつながり、個々の自由度は保ちつつも変化に対応しながらより創造的な仕事をしていく「戦略創発型」時代に変化しているのです。それに合わせてブレークスループロジェクトも、会社の業績のためだけではなく、むしろ個人やチームのやりたいこと・夢・目標の達成にかけるウエイトを増やしていかなければなりません。なぜなら、そういった生き生きとした個人やチームこそが付加価値の高い仕事をし、経済的にも繁栄する時代になったと思うからです。

これからは、企業・組織としてはもちろん個人のレベルでも、機能とコスト中心の経済価値だけを追求する時代から、人やチームとしての幸せを求め、成長する充実感を味わい、そのプロセスを楽しむ時代へと変わっていくということです。

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