第10回「メンバー」の立場からみたブレークスループロジェクト:他部門の人と協力して仕事をするとこんなにも学びが多いとわかった 人が集まり、互いが成長する組織 ~人・組織への投資と、学習・成長の仕掛けによる戦略~
これまで「経営者」と「リーダー」の立場から見たブレークスループロジェクトについてお話ししてきました。今回は「プロジェクトメンバー」の立場からはどう見えるかについてご紹介します。
初めて参加する人にとってブレークスループロジェクトは未知の世界。最初は「通常業務と両立できるだろうか」「知識やスキルがなく、ついていけないのではないか」「リーダーやメンバーとの人間関係がうまくいかなかったらどうしよう」といった不安でいっぱいになりがちです。こうした不安を少しでも軽減するために、事前にプロジェクトの進め方についてスポンサーやリーダー、さらに我々コンサルタントからていねいに説明し、プロジェクト期間中の徹底的なサポートを約束することは有効でしょう。
それでもメンバーの不安はゼロにはなりません。「他部署とのコラボレーションなんて初めて」「これまで同じ仕事を同じ人たちの中でやってきたのに、いきなり新しい業務なんて……」といった心配の声はよく聞かれます。でもその一方で、「ずっと新しいことをやってみたかった」「ようやくこういうチャンスが巡ってきた」といった期待の声も少なからず聞こえてくるものです。こうしてブレークスループロジェクトは、メンバーの期待と不安が入り混じった中でスタートします。その期待と不安という「刺激」こそが、メンバー自身の成長の源なのです。
ブレークスループロジェクトでは、中間報告と最終報告の際、メンバー全員の気づきや感想を一人一人プレゼンしていただくようにしています。その内容は実に様々ですが、どれも聞く側、特に経営者や管理職にとってハッとさせられるものばかりです。以下、これまでに聞いた中から特に印象的なものを整理してご紹介します。
経験からの気づき①:未経験のこともやってみると意外にできて、大変勉強になった
一般的に、管理職が社員に新しい業務を追加依頼するには、相当な労力をかけて説得する必要があります。単に「〇〇さん、今度新しくこれをやってくれませんか?」とお願いしただけでは、「ええと、自分は今の業務で精いっぱいでこれ以上無理です…」といったやり取りになってしまい、苦労している管理職の方も多いのではないでしょうか。たとえその新たな業務に社員が興味を持っていたとしても、あるいは以前からやりたいと思っていた仕事であっても、いったん引き受けると毎回上司からのチェックを受けることになりますし、さらにその仕事量は次第に増加していくかもしれない。そう予想して社員は「NO」と言いたくなってしまうのです。
それに対してブレークスループロジェクトでは、期間が90日間と限定されていることや、スポンサーやリーダーが職制上の上司ではないことから、新しい業務であってもかなり気楽に引き受けることができます。だから、業務量が多少増えても面白そうな仕事であれば積極的に取り組みたいと思う人が多いのです。その結果、プロジェクトの半ばを過ぎる頃には、「未経験のこともやってみると意外にできて、大変勉強になった」という声がたくさん聞かれるようになります。
そもそも人は本能の一部として、ある程度は未経験のことをやってみたいという「好奇心」を持っているものです。しかし、多くの人が通常業務ではその本能を発揮できていません。なぜなら、いくら面白そうでも前に述べたような上司のチェックと業務量の増加を大きな負担と感じるからです。しかし、期間も組織も限定されているブレークスループロジェクトなら、「無理な負担感なく、好奇心を発揮できる場」としてプロジェクトメンバーに認識されます。
未経験の物事への適度なチャレンジは「学習」のプロセスを起動します。「学習」とは新たな経験を通じて、感覚、感情、思考、行動などが変わること、つまり「行動変容」することです。一般的に、人は学習によって社会の中で生き延びる自信を増大させ、将来に対する不安を軽減させるので、そうした学習経験自体に満足します。こうして社員個々人が学習することは職場の能力アップ、ひいては会社全体の業績アップにつながります。
経験からの気づき②:みんなと協力して仕事をするのがとても楽しく充実した時間だった
ほとんどの産業で国内市場が縮小傾向にあるせいか、多くの企業で「業務効率化」を重視する傾向が強くなりました。ここ20年以上続く「デジタル化」も、さらなる効率化を目的として推進されているケースが多いのではないでしょうか。
その結果、何が起きたかというと、一人で仕事をする人が増えたのです。今、多くの会社では、ほとんどの人がパソコンに向かって「一人」で仕事をしています。コロナで在宅勤務が可能だったのも、もともと「一人」でする仕事が多かったからだとも言えるでしょう。個人で仕事が進められるのは必ずしも悪いことではありません。しかしその裏で、「多くの人と協力し、組織で仕事をする楽しみ」を経験するという大切な機会が減少してしまっているのです。
ブレークスループロジェクトにおいては、一個人では達成できないテーマや目標に向かって、専門分野も背景も、所属部門も多様なメンバーがチームとなって取り組みます。タスクは簡単に分業できませんので、個人の役割・責任を確認しつつも常にチームで議論しながら進まなければなりません。目標が明確なだけに、メンバーが置かれる環境はけっして生ぬるいものではなく、メンバー間の意見の違いも表面化しやすくなります。しかも期日が決まっているため、メンバー間でアイデアを交換し、ときにそれらを組み合わせて新たなアイデアを創造し、協力して実行していかなければなりません。その結果、一人ではなし得かったことが達成できるのです。
効率化のための分業が進み、一人仕事に慣れてしまった私たちは、ブレークスループロジェクトを通じて、組織で仕事することのダイナミズム(躍動感)に新鮮な感動を覚えます。事実、プロジェクト終了後には「みんなと協力して仕事をするのがとても楽しく充実した時間だった」という感想が多く聞かれます。これは、ブレークスループロジェクトを通して「組織の仕事の楽しさとは何か」を再認識できたことの証左ではないでしょうか。
経験からの気づき③:他の部門の上司が自分のことを知ってくれてうれしかった
一定クラス以上の管理職の方々は、複数の部門や拠点の間を移動しながら仕事をすることが多いので、多様な組織・人と協業する経験を積むことができます。しかし、ほとんどの一般社員は決められた一つの部門・拠点しか知らない状況にあります。部門間の人事異動も実際にはそう簡単ではないので、「上司も10年間同じ」ということが珍しくありません。
ブレークスループロジェクトでは、スポンサーやリーダーが、メンバーの所属する部門の上司と異なる場合がほとんどです。我々コンサルタントはブレークスループロジェクトの提供開始当初、メンバーは自分と違う組織のスポンサーやリーダーを嫌うのではないかと想像していました。しかし、実際にやってみると反応はまったく違い、むしろ生き生きと取り組む人が多いことがわかっています。このことについてプロジェクトメンバーに聞いてみると、次のような本音の意見を確認できました。
- 今の上司は私の実力を知らない。ブレークスループロジェクトを通じて他の部門の上司にそれをわかってもらえてよかった。
- ブレークスループロジェクトを通じて、自分でも気づいていない能力をスポンサーやリーダーに引き出してもらえたので、自分の成長の可能性を感じた。
- 通常業務では経験できない、新鮮で良い時間が過ごせた。仕事でありながら良い息抜きとなったし、スポンサーやリーダーともほぼ対等に議論できて楽しかった。
通常業務とは異なるブレークスループロジェクトという場があることで、社員がどれだけ救われているか。これらの意見を見ればおわかりでしょう。「他の部門の上司が自分のことを知ってくれてうれしかった」という言葉には重みがあります。
コストダウン、効率化、そのための徹底した分業とKPIによる管理……。たしかに大切なことばかりですが、さて、それらによって「組織で仕事をすることの楽しみ」、その経験を通した「人の成長」は期待できるでしょうか? あなたの会社に、入社してから一度も他部署の人と仕事をしたことがない社員はどのくらいいますか? ブレークスループロジェクトを経験した社員が「他部門の人と協力して仕事をするとこんなにも学びが多いとわかった」と語るのは、その企業の現在の仕事のあり方そのものに対する厳しい問題提起のようにも思われます。