完全な転換期に入った大企業の組織マネジメント ~「見える化&徹底管理パラダイム」一辺倒では若手に見放される(2)
デジタルの進化で部族(トライブ)単位の人・組織マネジメントが復活する
ここ数十年で急速に情報化・デジタル化が進んでいます。いまやツルツルしたガラスのパネルをタッチするだけで、お金・モノ・人、何でも動かせる時代になりました。まだまだ発展途上とはいえ、今後、多くの産業が自動化・情報化されていくのは時間の問題です。
このまま行けば、これまで人間が多くの人手をかけて行ってきた作業や判断の多くを、AIを含む機械がやってくれるようになります。それはつまり、組織は必ずしも大きくなくてよくなる、ということを意味します。きわめて楽観的かつ単純化して言えば、企業組織は、人が数百万年かけて身につけた「5名~最大15名程度の部族(トライブ)」単位の組織マネジメントに戻ることができる、ということです。
今後、大きな組織に固執する企業・産業は、AIなどデジタル化・自動化が進む企業・産業にとって替わられ、徐々に衰退する可能性があります。今なぜ多くの既存大企業が悩みを抱えているかと言えば、そうした大規模組織の在り方自体が過渡期にあるからに他なりません。これからの大企業は、従来の組織マネジメントをある程度維持しながらも、その中でAIなどをうまくとり入れ、新しい人・組織マネジメント、つまり「部族(トライブ)」単位のマネジメントに転換していかなければならないのです。
「見える化&徹底管理パラダイム」一辺倒では若手に見放される
そのような中でまず必要なのは、大規模組織だけで通用する「人・組織パラダイム」一本やりから抜け出すこと。そして小さな人・組織に関する考え方を理解し、うまく活用することです。具体的には以下のようになります。
- 大規模・機能別組織から、相互に協力し合う小規模なコミュニティ組織へ転換する
- すべてを標準化・無個性化するのではなく、個別性を認め個性を重視する
- 生産性や効率性だけではなく、人の心の豊かさも大切にする
- KPIや業績結果だけでなく、成果が出るまでの仕事のプロセス・過程も重視する
- 技術や機能だけでなく、人の経験価値・創造性も尊重する
これまでの大企業経営は、「見える化」と称して数値化を進め、その数字を徹底管理することに重きを置いてきました。90年代半ば以降、多くの日本企業がグローバル競争で苦境に立った際、既存事業の経営のKPI化、つまり「見える化」による徹底管理で生き残ってきたのは事実です。現在の役員や幹部の多くは、この「見える化&徹底管理パラダイム」でサバイブしてきた有能な戦士たちだと言えるでしょう。
しかしながら昨今、この「見える化&徹底管理パラダイム」を押し付けたり、ちらつかせたりしただけで、今の若手は黙ってしまいます。ある会社で若手社員の一人に、「なぜだれも上司に質問しないの?」と聞いたことがあります。答えは、「質問した瞬間にすごい量の業務が槍のように降ってきて、その直後から数値管理されるから」というものでした。
若い人は直観的に、「見える化&徹底管理パラダイム」一辺倒では自分も組織も先がないとわかっています。彼らが上司に質問しないのは、「先が見えない付加価値の低い仕事に巻き込まれ疲弊するのはごめんだ」という、ある種の訴えでしょう。もちろん、彼らとて「見える化」や「徹底管理」が不要だとは思っていません。ただ、それだけを拠り所として仕事に励むのは無理だと言っているのです。
したがって、職場の管理職やリーダーには、KPIや業績結果、責任と権限、計画と管理などの「見える」世界だけでなく、感情、夢、思い、個人的経験、親しさ、友人関係、信条、価値観など見えにくい世界も重視したマネジメントが求められます。この2つのタイプの組織マネジメントは相矛盾する性格を有しますが、うまく使い分けていくしかありません。
最も親しい5人の「部族(トライブ)」をつくろう
ほとんどの企業は、いまだに縦割りのピラミット構造のままです。現行の大規模生産、経済性・効率性重視のビジネスを続ける限り、この組織構造が適しているからです。しかし、前述のように人・組織の在り方は現在大きな転換期にあり、大企業は異なるタイプの組織マネジメントを使い分けていく必要が高まっています。そんな中で指向すべきはどのようなトランスフォーメーションでしょうか。
その一例を下の図に示しました。大規模組織を維持するための定型的な仕事は従来の「官僚的」組織でこなしながら、それとは別に、各部署から集めた人材5人程度のチームを機動的に形成し、そのメンバーを常に入れ替えていく、という考え方です。これが具体的にどのような場面で有効なのか説明しましょう。
顧客経験価値(CX=カスタマーエクスペリエンス)が重視されるようになった現在、市場では競合他社にないユニークなアイデア、独自性の高いコンセプトが求められています。それらイノベーションを生み出すために最適なのは、異なるバックグラウンドを持った多様な人が、それぞれの個性をベースに自発的に議論し、行動し、コラボレーションする「共創・創発環境」です。そして、この環境を作るのに最適なチームのサイズは、メンバー全員が当事者でなくてはならない5人ほど、と言われています。これこそまさに、狩猟採集時代の中心的組織単位であり、『「組織と人数」の絶対法則』を著したトレイシー・カイレッリらが言う「部族(トライブ)」そのものではありませんか。
下図のような組織運営を行うことで期待できることは2つ。まず、各組織から集められた「最も親しい5人の部族(トライブ)」が新しいパラダイムで協働することで、顧客経験価値の高いイノベーティブな仕事が期待できます。さらに、常にそのメンバーを入れ替えることにより、組織メンバー全員が、従来の経済性・合理性重視の仕事と、共創・創発型の仕事との両方で力を発揮する「二刀流」になれる可能性があるのです。