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完全な転換期に入った大企業の組織マネジメント ~「見える化&徹底管理パラダイム」一辺倒では若手に見放される(1)

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

これまでビジネススクールや企業内のリーダー研修などで教えられる組織論の内容は、組織構造のデザイン、職務設計、責任と権限、業績評価制度、人事制度など、大企業を対象にしたものが中心でした。それらに加えて近年では、クロスファンクションプロジェクト、変革のリーダーシップ、サーバントリーダーシップ、コーチングなど、従来の大企業の「官僚的」組織運営とは異なる手法も頻繁に紹介されるようになっています。しかし、私から見ると、それらの手法は新しいとはいえ大企業組織論のマイナーチェンジに留まっており、「何かが違う・・・」という違和感を禁じ得ません。

KPIなどによる終わりのない業績目標追求、ジョブ制はじめとした機械的分業、利益獲得のための組織のフラット化、給与の成果配分制度など、これまでの組織論で是とされてきたことに今、多くの人が悩まされています。本当にこれで人や組織をリードできるのかと。上述したような新手法も、これらの悩みを完全に解決してくれるものではありません。ここ20年以上、既存の大企業と比べてスタートアップ企業の成長性が著しく高いこともあり、「大企業の組織マネジメント手法、組織の在り方自体が完全に転換期に入ったのでは?」と感じる人が増えているのではないでしょうか。

組織規模の拡大は人間の心身の限界を超えている

実際、多くの大企業の組織規模は私たち人間の心身の限界を超えていると思われます。近年のデジタル化、いわゆるDXの進展も、人間の創造性発揮に結びつくところが多々ある一方、これまで以上に組織や人が少しの無駄もなく機械のように働く、究極の効率化へと私たちを向かわせているようです。

人類は、600万年前からチンパンジーと別の道を歩み始めました。ホモ属の出現は250万年前、私たち現生人類であるホモ・サピエンスの出現は20万年前と言われています。多くの人手を必要とする農耕が始まったのは1万年~数千年前で、その後に都市や国家という大規模な組織が誕生しました。つまり、大規模組織の歴史は長く見積もってもたかだか1万年ほどなのです。さらに、現在のような大企業が生まれ、多くの人がそこで、あるいはそれに関連する企業で働くようになったのは、産業革命を経て工業化時代に入ってから。すなわち過去300年足らずの話に過ぎません。

私たちの感情、思考、行動など人としての特性は、農耕開始以前、数百万年間続いた狩猟採集時代に形成されたものだと言われています。大企業という組織形態が生まれ、その組織マネジメント手法が開発導入されたのは、ここ300年という、人類の長い歴史の中で見ればごく最近のことです。数百万年もの間DNAに刻み込まれた私たちの特性は、工業化やデジタル化など技術・文明が進化してもそう大きくは変わりません。今、発生している多くの問題は、この「人の特性と技術・文明との間に開いた大きな溝」に原因があると言えるでしょう。ストレスによる生活習慣病や精神疾患などの増加は、その代表例です。

  

人の関係性の原則は古代から変わらない

「組織と人数」の絶対法則:人間関係を支配する「ダンバー数」のすごい力』(トレイシー・カイレッリ他著/東洋経済新報社)によると、インターネット、特にSNSが普及した現在も、人の関係性の原則は古代から変わらないという分析結果が示されています。つまり、親密な関係を結べる相手の数は1.5人、最も親しい友人は5人。親友と呼べる人は15人、良好な人間関係だと思える人は50人、友人は150人。自分自身を振り返っても周りを見ても納得する数値ではないでしょうか。

さらに著者は、人間関係が150人以上になると、私たちは人数の多さにストレスを感じてしまうと述べています。企業で言えば、50人を超えたあたりから「佐藤さん」といった個人ではなく「販売部門の方」といういわば無機質な機械の部品のような名称となり、人と接するというより、情報を処理する思考となってしまうのです。そうでもしなければ、私たちの感覚も感情も思考も耐えきれないからです。大企業の経営が論理的で機械的であるのも無理はありません。このことは、人類にとって、狩猟採集時代には5人から15人程度の家族や部族(トライブ)単位で行動することが効果的でかつ現実的であったことと関連しています。

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