ブレークスループロジェクトを組織化するための条件(6)

新しい試みや遊びを取り入れる(行動変容と学習)①
■意外なことで楽しく仕事が進む
日常生活の中で、何かがうまくいったときのことを思い出してみてください。会社の仕事でも学校の勉強でも構いません。「会社や学校の規則に従って、ただその通りやったら成功した」というケースは少ないと思います。むしろ「自分の好きなことだからできた」「気は進まなかったけど、一緒に取り組む仲間がいて、楽しかったからうまくいった」「上司と趣味が一緒で、趣味の話から入っていったら仕事もスムーズにいった」など、意外なことがきっかけになっているのではないでしょうか。
なかなか行動に踏み切れないことは誰でもありますし、その原因は様々です。過去の失敗が脳裏をよぎる、初めての挑戦で失敗のリスクが怖い、取り組むまでに膨大な学習が必要で尻込みしてしまう、など。あるいは、単に今やっていることに追われて余裕がないというときもあるでしょう。
しかし、いったん始めてしまえば、「思ったよりスムーズに進んだ」というケースは多いはずです。何事もまずは取り組み始めること、小さな行動から起こしてみることが大事だということは、「ブレークスループロジェクトを組織化するための条件(4)行動指針を持つ(明確な行動規範)」でも述べた通りです。そうであれば、いかに行動するきっかけをつくるかが重要になってきます。
冒頭に述べたように、自分にとって「意外なこと」が行動のきっかけになることはよくあります。それは、自分自身がその「意外なこと」を直観的に「楽しそう」「面白そう」と感じるからです。つまり行動のきっかけづくりとは、自分やメンバーが興味を持ち、楽しんで取り組める「新しい試みや遊び」のようなものを取り入れることなのです。
■経験価値の階段の「感覚」「感情」を刺激することで、「思考」「行動」「共感」を誘発する
顧客経験価値とは、コロンビア・ビジネススクールのバーンド・H・シュミット教授が提唱した概念で、「感覚」「感情」「思考」「行動」「共感」の5つの要素で構成されています。外部からの何らかの刺激によって、時間の経過とともに各要素が相互に影響しながら顧客の内的経験として生成・変化していくとされます。この5要素で構成される経験価値の概念は、商品・サービスの需要側である顧客だけでなく、提供側である企業や組織で働く人にも適用できます。いわば「社員経験価値」です。
ブレークスループロジェクトとは、チームメンバー、そしてリーダー、さらにはスポンサーまでもがプロジェクトを通じて学習し、成長する「社員経験価値」を得るプロセスに他なりません。
90日間集中して行動することで目標を達成し、最後はチーム内や周りの人とその喜びを共感するわけですが、その一連の「社員経験価値」プロセスの入口は「感覚」「感情」です。つまり、その「感覚」「感情」をうまく刺激するために、新しい試みや遊びを取り入れるのです。
■新たな試みや遊びで大事なこと
「感覚」「感情」をうまく刺激するための新しい試みや遊びも、仕掛け方を間違えると失敗します。失敗を避けるには、次のようなことに注意してください。
- 価値観や育ってきた年代の違いから、リーダーの視点で楽しいと思う新たな試みや遊びがメンバーにとっても同様に楽しいとは限らない。
- たとえ楽しいと思える新たな試みや遊びでも、リーダーから強要されると楽しくなくなる可能性がある。
- 必要な行動とその先の目標のプレッシャーによって、楽しいと思える新たな試みや遊びも心の底から楽しめない可能性がある。
つまり大切なのは、現場のメンバーが自然に、自発的に、心から楽しいと思えるような環境づくりです。そのためにリーダーは、普段から気軽な雑談やジョークなどを交えた楽しいコミュニケーションを心がけ、どんな話がメンバーにうけるのか、またメンバーの心境はどんな状態かを把握しておくことが重要です(参考:「ブレークスループロジェクトを組織化するための条件(5)頻繁なコミュニケーションと協働(高い接触頻度)」)。
さらに、そういった環境づくりをリーダー自身が心から楽しめていないといけません。リーダー自身がやらされ感一杯で「新しい試みや遊びを楽しもう」などと、いくら言っても逆効果でしょう。