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チームの中での役割意識を持つ(帰属意識と役割) ブレークスループロジェクトを組織化するための条件(3)
ブレークスループロジェクトを組織化するための条件に関するコラムの3回目は「チームの中での役割意識を持つ(帰属意識と役割)」です。
■成功したプロジェクトには「役者」が揃っている
会社組織やブレークスループロジェクトのようなチーム組織の運営において、そのメンバー構成はどうあるべきでしょうか? どのような考えでメンバーに役割を割り振り、メンバー間の関係はどのようなものとすべきでしょうか?
チームメンバーの「役割」について考える上で、黒澤明監督の映画『七人の侍』(1954年公開)がとても参考になります。登場する7人がそれぞれ担う役割と、お互いの関係性に大変興味深いものがあるからです。
まず、ごく簡単に映画の筋を解説しておきましょう。戦国時代の末期、野武士集団に毎年食料や人を略奪されて困り果てたある農村の民が、街に出て浪人侍の島田勘兵衛と出会い、野武士退治を懇願。百姓の窮状に心を揺さぶられた勘兵衛は、村を救うことを決意します。勘兵衛の下には勘兵衛を慕う者、その使命感に共感する者6人が結集。勘兵衛自身を含めわずか7人で40騎の野武士集団に挑むことになりました。彼らは村人の助けを借りながら綿密に情報を収集し、奇策を練り、善戦します。途中、野武士の逆襲にあい、7人中4人が命を落とすも、最後に野武士集団は全滅、村を救うことができたという物語です。
命がけで戦う中で、侍としての本来の信念を貫き、各人が強い意識を持って才能を存分に発揮できたこと、また、厳しい戦闘を通じて7人が互いの存在の尊さを深く認識したこと、それらが戦いの強いパワーとなっていく様が描かれています。
映画『七人の侍』における各人の役割を簡単に整理すると以下のようになります。
- リーダーである島田勘兵衛(しまだかんべえ):ある村を野武士から守ることを約束し、一緒に戦うメンバーとなる侍を集める。この仕事を引き受けた裏には、村を守るため自分の命を懸けて戦うという武士本来の信念がある。
- 菊千代(きくちよ):勘兵衛に憧れてついてきたが、大言壮語で失敗が多い。しかし様々な失敗の末、次第にリーダーとしての頭角を現す。激戦の中で討ち死にするも村を救う結果を生む。
- 岡本勝四郎(おかもとかつしろう):裕福な家庭育ちだが、浪人に憧れ、勘兵衛についてくる。武士としてはいささか弱々しいが、若い敏感な直観を活かし伝令役を務める。
- 片山五郎兵衛(かたやまごろべえ):勘兵衛を尊敬する知性派。相手の動きをだれよりも早く察知し、知性あふれる策を練る。勘兵衛の参謀役。
- 七郎次(しちろうじ):勘兵衛の旧友で、その友情からこの戦いに参加。地味だが情熱家。村人や仲間の侍を励まし、戦いにおける重要な任務を守り続ける。
- 林田平八(はやしだへいはち):剣術のレベルは高くないが、7人のチームが苦境に陥ったときのムードメーカー。チームの旗をつくり組織を盛り上げる。
- 久蔵(きゅうぞう):修行の旅を続ける凄腕の剣客。黙々と自分の役目をこなし、危険な仕事も率先して引き受け成果を挙げる。
ここで注目すべきことは、この7人は軍事集団でありながら一般の軍事集団とはかなり違った特徴を持つことです。一般的な軍事集団は明確な目標を持ち、その達成のための機能的な役割が組織上位者から各メンバーに与えられます。目標の多くは敵を倒し領地を拡大するといった量的なもので、兵隊はその手段の一部にすぎません。
しかし、『七人の侍』においては、島田勘兵衛の武士本来の生き方や信念、いわばパーパスに惹きつけられたメンバーが、各々自発的にチームに参加しています。各人の役割は勘兵衛から与えられたものではありません。様々な場面でそれぞれが個性と強みを発揮するうち、メンバーの相互関係の中で各人の役割が自然と認識され、できあがっていくのです。
7人はみな、人としての弱さ・未熟さを持つ一方、強烈で野性的な個性の持ち主でもあります。メンバー同士の関係は、個性むき出し、自由気まま、そして不安定です。そこにヒエラルキー的なものはほとんどなく、その意味で統率はとれていません。また、一般の侍の軍事集団と比べて戦い方のスキルも標準化されていません。しかしこの7人は、刻々変化する危機的状況を多様な視点で捉えることができ、極めて柔軟な発想ができます。なにより、一般の武士のように上からの命令を待つのではなく、自分で状況を見て判断し、パワフルに行動できるのです。
■ブレークスループロジェクトでの個性と強みを意識した役割
『七人の侍』の舞台設定ほどの困難さはなくても、ブレークスループロジェクトのテーマもまた、取り組み方が全く分からない、過去使われてきた手法が通用しない、など難しいものがほとんどです。そこでまず大事なのは、魅力的なパーパスとそれに共感するメンバーの強い自発性。これがチーム作りの大前提となります。
次に重要なのは、メンバーの個性と強みをベースとした役割の決定です。そのためには、リーダーを含めたメンバー間の関係がオープンで対等でなければなりません。そして、一方的な指示命令ではなく、対話に時間をかけて互いの役割の認識を深めることが大切です。
ブレークスループロジェクトのメンバーの主な役割は以下のようになります。
- リーダー・ファシリテーター(牽引役、まとめ役)
スポンサーの要望を受け、プロジェクトのパーパスを設定し、メンバーの強みを生かしてアイデア・意見を引き出し、プロジェクトを牽引する。ゴール達成に責任を持つ。
- イノベーター(変革者)
ゴール達成のために振り切ったアイデアを出す、またはメンバーから引き出す。誰よりも最初に行動して試す。
- プロモーター(支援・推進者)
自分の意見を通すよりも、サポート役に徹する。リーダーやイノベーターのアイデアを支援し、みなに呼びかけてプロジェクトを推進する。
- レポーター(状況認識・報告・プレゼン担当)
プロジェクトの置かれた環境や目標の達成状況を報告する。アイデアやその実行アクションの正しさを証明し、権威付ける、または修正を促す。それをプロジェクト内外に発信し、コミュニケーションを管理する。
- プロダクション(実行・つくりこみ担当)
実行役の中心人物。プロジェクトのやるべきことを確実に実行し、形にする。現場で実践する上での技と知恵を持つ。
ブレークスループロジェクトにおける役割のアサインは、上記の5つを意識して、メンバーの強みや個性をベースにプロジェクト初期の段階で行われるのが理想です。ただ、実際はプロジェクトを進めるうち互いの強みや個性がわかってくる、というケースがほとんどでしょう。『七人の侍』で言えば、7人が野武士と激しく戦う中で、徐々に各人の個性と強みが判明し、それに合った役割を互いに認識してチームとしてパワーアップしていく、という流れです。
■私たちはどのような考えで組織やプロジェクトチームをつくっているか?
ここでもう一度考えてみましょう。私たちは普段の仕事の中で、どのような考えに基づき組織やプロジェクトチームを形成しているでしょうか。
ほとんどの組織は機能別の集団に分かれており、各集団は共通の均一的な専門知識・スキルを持つメンバーで構成されています。こうした機能別組織の中での人の「能力の高さ」とは、その機能を果たすのに必要な専門知識・スキルの高さを意味しますから、経験者のほうが絶対に有利です。経験の少ない若い人が活躍の場を得るまでには時間がかかるので、リーダーに指名されるのはたいてい経験豊富な年長者ということになります。そして、メンバー各々の個性や強みはあまり考慮されることなく、確立された手法を機械的に展開できるような分業体制がとられます。
達成すべき目標が明確で、そのために必要な知識・スキルもはっきりしている場合ならば、このような機能別組織が有利でしょう。しかし、現在多くの組織が置かれている状況はそうではありません。まず何を課題として設定すればいいのか、そもそも自分たちのあるべき姿とは何か、というような、「Why(何のため)・What(何を)」の議論から始めなければならない場合が多いのではないでしょうか。そうしたケースに対処するとき、機能別組織はとても不利です。均一な見方になりがちで、多面的に議論することが難しいからです。
Why(何のため)・What(何を)から議論を始めるプロジェクトで必要なのが、『七人の侍』の例で述べたような、プロジェクトテーマに関するパーパスの共有とメンバーの強い自発性です。メンバー各人が自分の個性や強みを生かしつつ、当事者意識を持って臨み、主観的判断も交えながらテーマに対する理解を深め、メンバー相互の対話によって解決策を探っていく。そのようなチームこそ必要なのです。このような組織を共創型組織と呼びます。
まとめましょう。機能別組織はメンバーに対し、定量的な目標の理解と、その達成に向けた決められた手法の実行、それに必要な均一な知識・スキルを求めます。一方の共創型組織はメンバーに対し、組織パーパスの共有、自分の個性と強みを発揮する自発性、組織内外との対話を通した解決策の創発を求めます。
ちなみに、ブレークスループロジェクトで取り組むテーマは、こうした「共創」が必須のものばかりです。したがってチームは同じ部門組織のメンバーではなく、部門も入社年次も経験内容も異なる多様なメンバーで構成することがポイントです。そして、前述のとおりプロジェクト進行とともにメンバーの強みや個性が相互に理解され、自然に各々の役割が見えてくるのが理想でしょう。
さて、あなたは今、どのような考えで組織やプロジェクトチームをつくっていますか? 決まった答えのない複雑なテーマに対し、機能別組織で取り組もうとしていませんか? 価値観の共有や意識・行動変革など「意味の相互理解」が重視されるべきことに対し、「量と機能」の力づくのアプローチで取り組もうとしていませんか? 今、自分の組織やチームに求められているものは何か、私たちは常に慎重に考えなければならないと思います。