
頻繁なコミュニケーションと協働(高い接触頻度)② ブレークスループロジェクトを組織化するための条件(5)
■コミュニケーションのリテラシーとは
雑談の達人になる方法など、コミュニケーションのテクニック面を紹介した書籍は既にたくさん出版されています。テクニックはもちろん有用であり、私もそれらの本に目を通して勉強するようにしています。ただ、テクニックを十分活かすためには前提条件があるように思えてなりません。それはまず、コミュニケーションのリテラシー(基盤・基礎)を身に着けることです。
リテラシーを養う具体的な方法には、大まかに以下の3つがあると考えられます。
①相手の「ものの考え方・見方」を知る
「ものの考え方・見方」とは価値観や信条とも言い換えられます。組織や立場、地域、文化が変われば価値観は異なります。コミュニケーションする相手の「ものの考え方・見方」を知るためには、普段から様々な価値観を持つ人と交流し、相互に理解する訓練が重要です。そのためには旅行をする、異業種交流会や地域の集まり、ボランティア活動に参加する、といった身近な機会を使って、積極的に多様な価値観に触れるとよいでしょう。
また、コミュニケーションする中で相手の「ものの考え方・見方」がにじみ出る話が出たときは、それを尊重し、好奇心を持ち、積極的に耳を傾けるようにしたいものです。例えば、相手から「自宅で発生する生ゴミをたい肥として利用している」と聞いたら、「環境意識が高く、それを実践されているとはすばらしいですね。環境面で他にはどのようなことをされていますか」と質問を深めていくのです。
②相手が組織に参加する意図・目的を知る
自分と同じ組織に属する相手とのコミュニケーションでは、相手がどのような目的でこの組織に参加しているのか、きちんと把握しておくことが大切になります。
組織に参加する目的は一つとは限らず、むしろ多層的であることが多いはずです。最上位には「組織のパーパスやビジョンへの共感、それに貢献したいという気持ち」があり、自己実現的なレベルでは「自身の知識・スキルの向上」、さらに実利的な面、例えば職場であれば待遇や働きやすさなど条件面の理由もあるでしょう。
相手や状況によりますが、一般的には上位の目的から確認するのがよいと思います。①の例と同じ相手を想定した質問例なら、「この組織に参加されたのは、やはり環境改善へのご関心が強いからですよね?」など。その後に話が弾んでくれば、「私はこの組織で資源回収の議論をして、それを大学院の論文にしようと考えているのですが、〇〇さんは具体的なご意見は何かおありですか?」といった流れでコミュニケーションしていけば、お互いの目的理解に役立ちます。
③相手の状況を把握する
ここで言う「相手の状況」とは、相手の能力(知識・スキルなど)、人・組織との関係、抱えている問題・課題などです。これらを把握したうえで、相手がより良い方向に進むことができるよう、自分の持つ知識やスキル、人脈などを活かす方法はないか考えてみましょう。
ただし、状況によっては相手のプライバシーに関わる部分もありますので、慎重かつ段階を踏んだコミュニケーションが求められることに留意してください。相手の状況を把握すると言っても、ただ単刀直入な質問を並べるのではなく、何かしら相手に貢献する意識を持ち、ていねいな問いを重ねるようにします。特に、経済的状況や家族関係などプライバシーに踏み込んだ内容は避けなければなりません。相手の気持ちを最優先に、社会的な良識やルールに沿ったコミュニケーションが大切です。
■ブレークスループロジェクトなどでのコミュニケーションの実践
ここまで述べた、コミュケーションに関する基本的な理解をベースに、ブレークスループロジェクトのようなチームにおけるリーダーとしてのコミュニケーションに関して説明します。
リーダーがメンバーに対して最初に伝えるべきは、チームの「パーパスとビジョン」、そしてそれらを実現できたときの成果である「ゴール」です。この2つを、背景や問題意識などを含めしっかりとメンバーに共有します。
このとき、ただ一方的に伝えるだけでなく、同時にメンバーからも多様な意見を聞き、議論することが大切です。その結果、パーパス・ビジョンの発展的な解釈が生まれてもいいでしょう。そうした積極的なコミュケーションを通じて、メンバー全員にパーパス・ビジョン・ゴールを自分のものとして捉えてもらう必要があります。その次にプロジェクトの課題や各メンバーの役割、お互いの状況や関係、そして各個人がプロジェクトを通じて達成したいことを相互に確認します。
プロジェクトの開始前、あるいは開始直後に、こうしたコミュケーションをとことん深めておけば、どうなるでしょうか? 早い段階でチームの基盤が固まりますから、その後多少の困難があったとしても比較的容易に乗り越えることができます。しかし、いったんプロジェクトが始まり、トラブルが発生してしまってからだと、コミュニケーションを深めるのは各段に難しくなります。だからこそ、プロジェクト開始前あるいは開始直後の段階で、コミュニケーションに投資することは大変重要なのです。
また、リーダーのコミュニケーションには一種のマーケティング戦略のような方策が必要となります。具体的には、コミュニケーションの「手段・ミックス」「タイミング」「フロー」「資源配分」についてよく検討することです。
- 手段・ミックス:口頭、メール、ビデオ、オンライン、対面など適切な手段を考え、それらを組み合わせる
- タイミング:相手が最も理解しやすいと思われる効果的なタイミングを計る
- フロー:誰から誰に伝わるかというコミュニケーションの流れを設計する(流れ方によって内容の解釈が異なるため)
- 資源配分:自分の時間のどれぐらいをコミュニケーションに投入するか考える
このようなマーケティング戦略的方策を検討するのは、チームにとってコミュニケーションは最も重要なアクションだからです。