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行動指針を持つ(明確な行動規範)② ブレークスループロジェクトを組織化するための条件(4)

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

行動することでマインドセット・認識を変える

個人でも組織でも、行き詰まりや停滞を感じるときがあります。それは、周囲の環境の変化に自身のマインドセットあるいは認識が追い付いていないという「ズレ」に起因する場合が多いと思われます。ここでのマインドセット・認識とは、社会や市場をどう捉えるかという思考のパターンであり、パラダイムとも言います。

例えば「日本の地方では過疎化が進み、限界集落が急増する」というのもひとつの認識です。でもそれを、「日本の地方では人口が減少し、自然環境と共生できる時代になる」という認識に変え、それを前提にパーパスを設定したらどうでしょう。課題への取り組みはまったく違ったものになります。

マインドセット・認識は、行動することによってさらに変わります。地方の人口減少の例でいうと、例えば、「青森、秋田、岩手の東北三県を2週間かけて視察し、地域の人と実際に話してみる」といった行動をとることで、マインドセット・認識は大きく変わるはずです。

このように上位概念であるパーパスを意識しつつ、行動を通してそれを実感することで、マインドセット・認識が大きく変化し、これが物事を進展させます。流れで示せば、「パーパスを理解する(思考で理解)→行動指針の一つを実行する→パーパスと成果を実感する→マインドセット・認識が変わる→さらに行動する→さらにパーパスと成果を実感する」といったように、人や組織は加速度的に変化・進化していくのです。繰り返せば、行動指針とは、実際の行動を通じてマインドセット・認識を変化させ、強化するためのものです。

思考だけでなく「行動すること」を通じてマインドセット・認識を変えることの効果はけっして小さくありません。よく「まず行動してみよう」「行動すれば自然と変わっていく」などと言われるのはそういうことです。

■行動指針を「実行」するコツ

しかしながら現実を振り返ると、「パーパスも行動指針もわかった気はするが実感できない」とか、「毎朝、会社のパーパスや行動指針を唱和しているが、唱和の後、むしろ雰囲気がどんよりしてしまう」といったようなことが起こり得ます。これらはパーパスや行動指針を単なる「概念」として扱ってしまっているために起こる現象です。

抽象的な概念のままではなく、今、取り組んでいるプロジェクトに置き換える、今日の仕事に置き換える、午前の仕事に置き換える、朝の最初の15分の仕事に置き換える、など目の前の具体的な仕事に落とし込むこと。そしてすぐ実行すること。実際に「行動」をしない限り、マインドセット・認識は変わりません。

そこでリーダーは、パーパスや行動指針そのものを概念的に提示するのではなく、それを具体的なプロジェクト活動、今日の仕事、午前の仕事に落とし込んだらどうなるかていねいに説明し、メンバーのやる気を引き出さなければいけません。パーパスや行動指針の表す「意味」を、目の前の仕事にどう置き換えるかが重要なのです。

メンバーにとっても、今、自分の起こす行動がプロジェクトのパーパス実現の小さな一歩であることを確認できれば、お互いの「仕事の意味」が有機的に結びつき、刺激し合いながらプロジェクトが盛り上がっていくことを実感できるでしょう。簡単に言えば「ノリ」とか「シンクロ」といった状態を生むのです。

■行動で視野を広げる

ビジネスの世界でも行政の仕事でも多くの課題が発生しますが、共通する原因のひとつは、人や組織の「視野の狭さ」ではないでしょうか。会社組織であれば、ひとつの部門の中で閉じた発想では、会社全体・産業全体に発生する問題の解決策を導きだすことはできません。また社会課題と言われるものも、行政の管轄内だけで解決できるものは少ないのが現実です。

そういった視野狭窄は、「専門」という名のもとに概念や理論だけで考えてしまうことに起因するケースが少なくありません。専門知識も専門家も実務上とても重要ですが、課題を正しく把握しようとする際、その「専門」が逆に視野を狭めてしまう可能性があるのです。そうした「専門」に起因する視野狭窄を防ぐ方法が「行動し、感じることで視野を広げて認識してみること」です。

ブレークスループロジェクトなどでも、リーダーやメンバーの視野の狭さによってプロジェクトが停滞することがあります。そうしたケースに共通する傾向として、①議論が長い、②行動が少ない、③行動による共通の体験が少ない、などが挙げられます。

この問題を解決するには、チーム全員で一緒に行動し、経験する「現場」を設定することです。現場とは「議論する場」ではありません。「行って、見て、聞いて、作業してみる場」です。

「現場で起こる現象」を一緒に体験することで、問題の本質がメンバー間で理解・共有されます。そして「現場で起こる現象」を起点に考えられるようになり、自身の「専門」から少し離れ、異なる「専門」同士をつなぎ合わせていく思考が始まります。その結果、各人と組織全体の視野が広がっていくのです。 

■行動が「良い相互関係」をつくり、課題解決につながる

 前に例を挙げた「地方の人口減少」といった社会課題のほとんどは、一つ二つの手法を一方的に適用する対症療法的なやり方では解決しません。それらの手法に対するリアクションが、また新たな課題を発生させるということがあるためです。

こういった複雑な課題に取り組むプロジェクトでは、解決すべき課題の当事者(上記の例でいえば地方の住民)がプラスの方向に進めるようにプロジェクトメンバーがまず行動し、「良い相互関係」をつくることが効果的です。プロジェクトメンバーの行動が、課題の当事者やその関係者の新たな行動を引き出し、その効果がさらに周囲の多くの人の行動を促す。それを繰り返して次第に大きな相互関係ができ上がっていく、といったイメージです。初めは小さな行動でも、相互関係を増幅させることで効果的なインパクトが生まれ、徐々に全体を変えていくのです。

「行動すること」がすべての起点。忘れないようにしましょう。

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『顧客経験価値を創造する商品開発入門』
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『デジタル異業種連携戦略』
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『技術マーケティング戦略』
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『勝ち抜く戦略実践のための競合分析手法』
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2015年1月20日発行
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