迷いの中に未来の重要なヒントがある
明けましておめでとうございます。
皆さまのご多幸と、戦争の無い世界、社会の平安を心よりお祈りいたします。
能登半島地震はじめ全国の豪雨災害など被災地の一日も早い復旧を願い、また可能な限りの支援をしたいと考えています。
■古民家ホテル「Onsen & Garden 七菜」の開業
ニューチャーネットワークスのグループ会社において2024年4月末、金沢駅から車で約20分の石川県金沢市の山間に、奥飛騨にあった築約200年の古民家を移築し、「Onsen & Garden 七菜」を開業しました。金沢市七曲地域の皆さまの温かいご支援があって実現した新事業です。
七曲という地名は七回蛇行する浅野川に由来します。七菜は、その川沿いの田園を望む高台に位置し、敷地内からは温泉が自然湧出。「有りの儘(ありのまま)」がコンセプトの3室だけの小さなデザインホテルで、お客様に「癒しと安らぎの休息の時間」をお過ごしいただくことを目指しています。
「経営・事業のコンサルティング会社がなぜ古民家ホテル?」と不思議に思われたでしょうか。この七菜を開業した最大の理由は、私が以前から主張している「経験価値の創造」を自ら実践、開発するためなのです。
2023年に私は、「顧客経験価値を創造する商品開発入門」と題する書籍を出版させていただきました。しかし、顧客経験価値は感覚、感情、思考などに基づく主観的なもので、言語化・データ化して分析するといった客観的・論理的なアプローチからの理解には限界があります。また、そもそも顧客経験価値とは、サービスが一方的に提供され消費されるところにはけっして生まれず、サービス提供者と顧客との関わりの中から創造されるものです。顧客経験価値の追求を主張するならば、「まずは自らそれを実践、開発してみよう」という思いから七菜をスタートさせたのでした。
七菜は環境にも徹底配慮しています。太陽光発電、太陽温熱による給湯、薪ボイラーによる床暖房、マイクロ水力、電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)のバッテリーに蓄えた電力を家庭内で利用するシステムV2H(Vehicle to Home)などを導入し、再生可能エネルギーを徹底利用する設計としました。真の顧客経験価値とは、環境に負荷をかけないことを前提とすべきと考えたからです。
皆さまも機会があればぜひ「Onsen & Garden 七菜」にお泊りいただき、「有りの儘」に過ごす「癒しと安らぎの休息の時間」を経験してみてください。
【2024年4月18日 プレスリリース】
築200年の古民家ホテル「Onsen&Garden七菜」が待望の正式オープン!石川県金沢市に、200年の歴史と自然の風景が息づく究極の癒しスポット誕生
■生成AIが一般に普及する時代、人に求められるものとは
2023年後半から生成AIが急速に普及しました。一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)「注目分野に関する動向調査2023」によれば、生成AI市場は2030年まで年平均53.3%の速さで成長し、約2110億ドル(約32兆円*)に達する見込みとのこと。わずか7年で約20倍の市場規模に拡大するというのです。これはインターネットやSNSの普及時よりも速いスピードではないでしょうか。(*2024年4月の為替レート1ドル=約152円で換算)
今、「生成AIは人の仕事を奪う」という意見と、「生成AIは人がやるべき新たな仕事を創造する」という両極の意見があります。こうした考え方の対立は産業革命以来、新しいテクノロジーが普及する過程で常に起こってきたもので、インターネットが一般に普及し始めたときも同様でした。私は、人類が経済合理性を追求する限り、一定期間「生成AIが人の仕事を奪う」時期はあるものの、同時に生成AIによる新たな仕事も創造されていくのだろうと推測します。
ここでのポイントは、「人類が経済合理性を追求する限り」という部分です。経済合理性とは、有体に言えば、なるべく少ない労力でなるべくたくさん稼ぐことですが、そこに人としての生きがいや働きがい、心の豊かさといったものがどの程度含まれるのか? いまだに拡大を続ける環境破壊の防止については、どの程度考慮されるべきなのか? 人間以外の生物多様性の維持についてはどうか? これからそうした議論がさらに重要になってくると思います。
これまでの資本主義においては、法律さえ守っていれば負担すべき社会コストを無視して利益を上げることも許されてきました。しかし、そうした資本主義のあり方を継続するならば、少なくとも人類と現代文明が危機的な状況に陥ることは間違いないでしょう。国や地域のリーダーを決める選挙でフェイク情報が氾濫し、その背後にある米国の巨大情報プラットフォームにカネと権力が集まるような社会に、明るい未来はありません。
生成AIと共存する社会において重視すべきは、「私たちのリアリティ」ではないでしょうか。「リアリティ」重視の生き方とは、自分自身の感覚・感情・思考を持ち、それに基づいて行動し、他人と共感しようとする意識を持ち続けること。すなわち経験価値重視の生き方のことです。
私たちは誰かの都合に合わせて意図的につくられた虚構に操作されることなく、常に「私たちのリアリティ」に基づいて最終的な意思決定をすべきです。地域や国家の分断、その果てに今起きている戦争は、行き過ぎた所有権・利権意識から「敵」をつくりだし、その命まで奪う行為です。そこには「私たちのリアリティ」が決定的に欠落していると思えてなりません。
過度な欲望を抑制し、自分らしい日常の暮らし方・働き方を深めていく。自然を大切にし、四季を味わい、毎日の食生活に気を配る。仕事や職場での人とのふれあい、気づき、学び、そして協力を楽しむ。こうしたことすべてが「私のリアリティ」を形づくるのです。
利便性やスピードばかりが重視される中、私たちはついついスマートフォンをはじめとする情報機器に過度に依存してしまいます。私たちは常に、そんな「リアリティ」を希薄にさせる環境に取り囲まれているのです。そこをよく認識し、注意しなければなりません。特に成長期の子どもの教育は、今後ますます課題が大きくなるように思います。どこのどんな環境で、どんな人たちと、どんな関わり方をしながら学ぶのか。今以上に熟考が求められるでしょう。
■「現場のフロントラインワーカー」の尊重と成長支援の重要性
「私たちのリアリティ」という意味でも、弊社は創業以来、「現場のフロントラインワーカー」の尊重と成長支援を重視し、コンサルティングサービスの柱のひとつとしてきました。それが、20年以上にわたり提供している「ブレークスループロジェクト(BTP)」という現場の活性化活動です。いわば「仕事のリアリティ」の追求です。
ブレークスループロジェクト展開の裏には、1990年代後半から2010年代に起こった、M&Aをはじめとする「構造改革」ブームへの危機感があります。振り返ってみれば、当時実行された「構造改革」の多くは、日本企業の強みであったフロントラインワーカーの実力と可能性を軽視したものでした。その内実はポートフォリオ経営による事業の売却・買収など「価値の移転」が中心であり、肝心の価値そのものの新規創造は少なかったように思います。
ブレークスループロジェクトはフロントラインワーカーの自発性、仲間意識やチームワーク、職場改善力を引き出し、ビジネスの成果に結びつけるものです。中央集権的な上からの一方的な改革ではなく、組織のトップやミドルと現場のフロントラインワーカーが価値を共創することで、活気ある創発的な組織づくりを目指します。
弊社が2002年より国内外で1000件以上実施してきたこのブレークスループロジェクトが、ここ数年大変注目されてきています。その理由は明々白々。少子高齢化で、業界に関わらずフロントラインワーカーが不足し、仕事の受注さえままならない状況になってきているからです。加えて、様々な点で転職しやすい環境の形成が進み、離職率も増加しています。
このような労働環境を背景に、現場のキャパシティを無視して本社がつくった計画ありきの業務は、ことごとく挫折してきました。その結果、ようやくフロントラインワーカーに目が向けられるようになったのです。さらには自社だけでなくパートナー企業、協力企業のフロントラインワーカーにも意識が向けられるようになってきました。
ブレークスループロジェクトでは、フロントラインワーカーが現場で高い問題意識をもってリアルに感じること、考えることを重視します。そして、それを見える化し、試行錯誤を繰り返しながら組織トップやミドルと共創して、独自の解決策を見つけ出す。いわば組織全体が学習し進化していく仕組みをつくりあげます。その特徴は、従来の論理的な課題解決テクニックも活用しつつ、フロントラインワーカーの感覚やモチベーション、行動力、チームワーク、共感力といった人間的側面をフルに引き出すこと。すなわち現場の「仕事のリアリティ」を大切にすることです。仕事を機械のように命令と実行の連鎖と考えるのではなく、フロントラインワーカー自身が権限と主体性を持って組織活動するのです。
弊社は今後ますます、ブレークスループロジェクトのような活動を通じて、職場の仲間への誇りや一緒に働く喜び、気づきと成長の実感を持てる場をつくり、そうした場を通じて若い人材を育成することを、さまざまな組織に風土として根付かせていくことに注力します。これも「私たちのリアリティ」と「仕事のリアリティ」を育てていく活動だと考えています。
■迷いの中に未来の重要なヒントがある
「失われた30年」と言われてきた日本。確かに我が国は、経済社会のグローバル化、デジタル化が進むなかで90年代初頭の勢いを失い、企業・組織も、そこで働く個人も、様々な失敗や犠牲で苦しんできました。しかし幸い日本では、熾烈な経済競争の中でも、おカネ以外の価値観――人の気持ちのやさしさ、思いやり、さらにはおもてなし――を大事にしてきたところがあります。今、多くの外国人が日本を訪れ、すばらしいと評価してくれていることは、その証明ではないでしょうか。インバウンドの隆盛は、単なる円安だけが理由ではないはずです。
これまで仕事上で「人の気持ちを大切にする」行動をとってきた人は、多くの場合、それは非効率だとか時代遅れだと言われ、悩みながら物事を進めてきたのだろうと思います。競争のなかで立ち止まり、「ちょっと待てよ、これは果たして人として正しいことなのだろうか?」と躊躇することが悩みの正体です。
私は多くの人が悩み躊躇してきたところにこそ、日本、さらには世界の未来を考えるヒントが潜んでいると思います。それは例えば、ある業務が生成AIによって高速かつ低コストで処理できるようになったとき、それで仕事を失う人を次にどう活かすか?と考えることであり、フロントラインワーカーの知恵や技能を生成AIで再現し、人手不足解消や個人の負担軽減につなげる、といったことです。
つまり、「私たちのリアリティ」を基軸にして、悩みつつもテクノロジーを慎重に、しかし確実に活用していく。それが、私たちが未来に向けてとるべき態度ではないでしょうか。