第4回 人が集まり互いが成長する組織とは 人が集まり、互いが成長する組織 ~人・組織への投資と、学習・成長の仕掛けによる戦略~
あなたは本当の実力の何パーセントの力を出していますか?
「あなたは仕事をする際に、何パーセントの力を出していますか? 正直に答えてください」と質問されたらどう答えますか? 60%、40%、人によっては15%、いや80%、もしかしたら100%という人もいるかもしれません。正式にデータをとったわけではありませんが、平均的には60%程度という回答が多いのではないでしょうか。
しかし、この60%という数字にも疑問の余地があります。最高値の100%の定義があいまいだからです。その100%とは時間的なコミットメントのことなのか、実力と時間を掛け合わせたものなのか、また仕事環境を変えたらどうなのか? 多くの人はこの質問に対し、今、与えられた仕事環境を前提として、仕事に費やしている時間と自分が出している実力の平均を掛け合わせて回答したのではないかと思います。
別の質問で、「あなたが過去最高の結果を出した際、実力の何パーセントを発揮できましたか?」と聞いたらどうなるでしょうか。「偶然も重なり普段の2倍以上の実力が出せた。」「まわりの思わぬ協力も得て、実力の150%以上は出せたと思う」などと答える人が少なくないと思います。
この「普段の仕事の力」と「過去最高の結果を出した際の力」の差はいったい何なのでしょうか。そこには以下のような仕事の性質・環境の違いがあると考えられます。
是非みなさんに想像してみてほしいのです。もしも今の仕事の前提条件とまったく違う、やらないと後がない仕事、やればすごくエキサイティングな仕事が目の前にあったとしたら? その仕事をするにあたっては過去のやり方に捉われることなく、役職・部門・社内外すべて関係なくコラボレーションできて、挑戦できる環境があったとしたら? みなさんはどれぐらい力を発揮できるでしょうか。
もうおわかりだと思いますが、私たちの本当の実力とは「過去最高の結果を出した際の力」であり、環境設定とマインドセット次第では、その実力は信じられないぐらいもっと伸びる可能性があります。そして、そうした人々が組織化されチームとなったときのパワーは計り知れないものとなります。
みなさんがこの「本当の実力」をいかんなく発揮できる場をつくることこそ「人や組織中心の経営」です。それは、個人・チーム・組織が「やりたくなる」「やらないといけない」「偶然かもしれないが予想以上にできた」という経験ができるシーン・環境を用意する経営なのです。
一方、「普段の力」だけで仕事をこなす場になってしまいがちなのが「トップ主導の経営」です。そこでは組織構造改革や新たな制度施行、徹底した合理化がトップダウンで行われ、人や組織はその戦略実行の手段としてしか活用されていません。
「人が集まり互いが成長する組織」とは
トップ主導の経営がすべて良くないとはいえません。会社が存続の危機に陥った緊急的状況の場合は強力なトップ主導の経営が必要かもしれません。また、一見ワンマン経営に見えても、大きなパーパスや方針、ビジョンを打ち出して現場の意欲を最大限に引き出している経営トップもおられます。
しかし、前にも述べたように、規模・機能・コストだけを追求する「トップ主導の経営」は、経済が成熟した今日、顧客の価値観や心理まで考えたプレミアムが求められる時代には通用しにくくなっています。そのプレミアムを発想し、創造し、実践する人が集まる「人や組織中心の経営」への切り替えが必要です。
本コラムでは、この「人や組織中心の経営」がなされている組織のことを「人が集まり互いが成長する組織」と表現しています。その「人が集まり互いが成長する組織」とは具体的にどのようなものでしょうか。
まず対象となる組織については、状態の如何を問いません。前に述べた「トップ主導の経営」であっても、業績が悪化していても、人が次々と辞めていく会社でも構いません。また規模も問いません。上場していてもしていなくても関係ありません。極端な話、一人で起業したばかりの会社でも構いません。組織形態も関係なく、NPO法人や非公式のサークル活動のようなものも対象になると思います。つまり、組織の規模や形態にかかわらず、またその組織の今の状態がどうであれ、「人や組織中心の経営」で大切なのは、みなさんがこれから「人が集まり互いに成長する組織」に変えていく意志があるかどうかです。
ここで「人が集まり互いが成長する組織」の定義をまとめておきましょう。
- 社会や顧客の課題解決(他者への貢献)への強い意識を持ち、魅力的で独自のパーパス(理念)やビジョンを掲げ、周囲と共感し、積極的にかかわりをつくる組織
- そのパーパスやビジョンの達成を、各々が「私がやりたいこと」「私がやるべき使命」と強く捉え、その実現のために「過去にはありえないこと」を発想し、挑戦する組織
- 自分たちが楽しみながら挑戦をするために、個人や組織が自由に発想し試行することが可能な環境、および失敗が許される「心理的安全性」が確保されている組織
- パーパスやビジョンの達成に必要な知識・スキルの習得・訓練を通じて個人が成長する場がある組織
- パーパスやビジョンの達成に向けて、組織上の立場、過去の実績、経験の違いを超えて強い「個」がネットワークし、独自の解決策を生み出す組織
- たとえ困難な状況に陥っても、すべては成長・発展のジャーニー(旅路)の一部であると認識できる組織
- すべてはパーパスを追求するための「プロセス」であり、期間を区切ったゴールの達成はその途上にあると認識し、常に努力し続けることができる組織
みなさんが所属している組織の状況がどうであれ、重要なカギは、
- みなさん自身がどのような社会・顧客の課題解決への意識やパーパスを持っているか
- いかに個人的に強い動機付けができているか
- そのような人と人が関わり影響し合う組織文化をつくれるかどうか
という点にあります。つまり、みなさんは「人が集まり互いが成長する組織」に「参加」するのではありません。みなさん一人ひとりがそのような組織をつくっていくのです。