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いまもっとも効果的な新事業開発法は何か

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

 みなさんの会社でも、新規事業開発に取り組んでいると思います。しかし、簡単には事業は立ち上がりません。製造業ですと技術開発から始めれば10年近くの歳月がかかることも珍しくはありません。そこで一時期、経営者は社内での新事業開発よりもM&Aに注力しました。しかし会社はM&Aだけでは活性化しません。内部の自発的な成長が企業には必須です。最近では社内ベンチャー制度などに取り組む会社も増えてきましたが、大きな事業になりにくいようで、一過性のブームに終わる危険性もあります。
 そこで当社が強く進めているのが、異業種連携による新事業開発です。昨年末から今年にかけてかなりの数の異業種連携アイデアソンや事業構想などを行ってきましたが、新規性、価値の革新性、開発スピードなど、どれをとっても画期的と言える成果が出ています。

■なぜ大企業異業種連携での新事業開発が効果的なのか

 ではなぜ異業種連携での新事業開発が効果的なのでしょうか。理由は大きく3つ挙げられます。
 1つ目は、現代の新規事業開発は、単体の製品・サービスでは事業継続は難しく、エコシステム・ビジネスモデル開発に挑戦しなければならないからです。エコシステム・ビジネスモデル開発とはすなわち異業種間連携であり、企画の初期段階から異業種連携で行うことが有効だからです。
 2つ目は、連携する企業は歴史ある大企業がほとんどで、成熟した極めて強いコア技術、コアコンピタンス、つまり強みがそれぞれの企業内に既に存在しています。異業種連携とはそれらの強いコア技術、コンピタンスを連携させることで、これまでより2倍、3倍以上の顧客価値創造が可能です。

 

 

 3つ目は、各社の経営トップを説得しやすいためです。日本企業の経営トップの多くは「石橋を叩いて渡らない」「他社の様子を見てから検討する」「投資をしないでリターンを得たい」といった様に、かなり慎重です。異業種連携ではこの点を、逆転の発想で活用します。「業界No.1の●●会社さんがこの異業種連携に参加します」「異業種連携ですから単独で投資するよりリスクが少ないのです」などと、慎重な経営トップを比較的説得しやすい材料がそろっています。

■異業種連携での新事業開発導入部「異業種連携アイデアソン」の成功のポイント

 以前もコラムで書きましたが、異業種連携での新事業開発の導入には「異業種連携アイデアソン」が大変効果的です。しかし、一日または半日で実施するアイデア出しのみで終わるアイデアソンとは、考え方も進め方も全く異なります。新事業開発を狙った大企業が参加するアイデアソンには、以下の様な成功のポイントがあります。

成功ポイント1:フェーズを3つに区切ること

 アイデアソンへの参加がそのまま新事業開発に直結することはあり得ません。異業種連携であっても試行錯誤が伴いますし、参加企業が変わってくることもあり得ます。弊社では異業種連携による新事業開発を少なくとも3つのフェーズに分けています。第1フェーズはアイデアソンフェーズ、第2フェーズは事業構想フェーズ、第3フェーズは事業計画、契約フェーズです。第1フェーズは基本的に機密保持契約なしで行いますが、第2フェーズ以降は互いに機密保持契約を結ぶことになります。異業種連携アイデアソンはこの第1フェーズに相当するもので、1日または半日のセッションを3回から5回実施します。
 このように3つのフェーズで構成する事業化までの全体像を示し、異業種連携アイデアソンの参加を呼びかけることが大切です。

成功のポイント2:アイデアを断片的に出すのではなく、事業としての構造化を意識すること

 この数年間でアイデアソンが流行していますが、半日や1日の時間でアイデアを自由に発散させることが目的であれば、従来の社内でのやり方で十分だと思います。しかし、将来、本格的にアライアンス事業を行うことを念頭に置いたアイデアソンを行うのであれば、アイデアソンのやり方は大きく異なります。短時間で自由にたくさんのアイデアを出すことは、通常のアイデアソンと大して変わりはありません。しかしその個々のアイデア出しのテーマや視点をつなげると、「製品・サービスコンセプト」や「ビジネスモデル」などの事業構造にならなければなりません。そのための最終アウトプットのフォーマットや個別のアイデアソンのテーマ設定を相当練り上げ、準備しておかなければ議論がスタックしてしまいます。
 またそれらを構造化するためには、アイデアソンのファシリテーターの他に、事業開発の経験を積んだコンサルタントの高度なサポートが必要です。各社の強みや特性を背景にしたアイデアを事業構造にするための骨格を示したり、議論の方向の修正を行ったりするのがコンサルタントの役割です。

成功ポイント3:各社のコア技術、コアコンピタンスを互いに理解し、それを繋ぐこと

 ネットやデジタルを武器に既存のカテゴリーを破壊しながら参入する企業を「デジタル・ディスラプター」と呼んでいて、既存事業の最大の脅威になっています。異業種での新事業開発は、大企業同士が連携し、このデジタル・ディスラプターになるという戦略です。そのためには各企業が保有する既存事業のコア技術、コアコンピタンスをお互いの会社が理解し、客観的に評価し、外部の目でその活用方法を発想します。
 多くの企業は、自社の既存事業を支えているコア技術、コアコンピタンスを当たり前と認識してしまい、それが強みなのかどうか分からなくなっています。しかし新たな市場分野や他社から見ると、それは簡単に手に入らないものなのです。
 異業種連携による新事業開発は、このコア技術、コアコンピタンスをネットワークさせることにより、純粋なスタートアップとは比べものにならない程の、スピードと成功確率で新事業が出来ます。
 コア技術、コアコンピタンスとは、各企業の中核事業の基盤になるもので、多くの人材、知識、スキル、ノウハウが常に蓄積され、そこでつくられた製品・サービスが顧客に利用され、その結果がフィードバックさることでより強くなるものを指します。大企業は本業で蓄積されたコア技術、コアコンピタンスを新事業に展開し、そこからも強いフィードバックを受け、益々強力になります。

成功ポイント4:目的、理念を明確にさせた上で、事務局や中心となる企業がある程度の仮説を持っておくこと

 異業種連携アイデアソンでは、事務局やプロジェクトの中心となる企業が、プロジェクトの目的、理念を明確にさせた上で、ある程度の仮説を持っていることが前提となります。しかし、その仮説は少し伏せておいて、アイデアソンでの意見交換を通じて検証し、また仮説をパワーアップさせることが大切です。もしかしたら仮説とは全くことなるものになるかもしれません。しかし最初に掲げた目的、理念に合致するならば、そのアイデアを採用します。アイデアソンの議論を活発化させるためには、プロジェクトを牽引するメンバーが仮説を持ち、議論をうまくリードすることが重要です。目的や理念も、仮説も無く出たとこ勝負では、議論は活性化しません。

成功ポイント5:アイデアソンフェーズであってもビジネスモデルやビジネスプラットフォームまでの企画をすること

 異業種アイデアソンの必要性とは、これまで通り製品・サービスを単につくって売るという垂直型で一方向のビジネスモデルを突破するところにあります。つまり、顧客やビジネスに参加するプレイヤーとの双方向の関係から新しい価値を生み出す、ビジネスモデルやそれを支えるビジネスプラットフォームを企画創造することが中心になります。またそういった議論が異業種だからこそ可能になると思います。いつものサプライヤーと顧客という関係では、ビジネスモデルやプラットフォーム戦略の話にはなりにくいと思います。
 アイデアソンのファシリテーションも、ビジネスモデル、プラットフォーム戦略を意識したものでなければなりません。

 

 

 ビジネスモデル、ビジネスプラットフォームの議論では主に
① これまでの水準を遙かに超えた高い顧客提供価値
② 各社のコア技術、コアコンピタンスのネットワークによる新たな強みの創造
③ 市場の参加者が2倍に増えるなど革新的な市場イノベーション
が実現できる大きな視点でのシステムが企画されていなければなりません。

 以上、5つのアイデアソンの成功ポイントを挙げましたが、異業種連携戦略は、まだまだ未知の部分が多く、手法の開発余地もあると思います。私自身、実践する中で試行錯誤を繰り返しながら、あるレベルの手法を開発していきたいと思います。みなさんも小さなものでもよいので、是非チャレンジしてみてください。

 

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