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「商品」の定義がまちがっていないか?

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

■まず「商品」の定義を変えよう

 日本の大手既存企業のほとんどは10年たっても売上、利益ともにそれほど変化はありません。ROIやROEなどの資産効率は確かに上がったものの、それも大きく改善されてはいません。しかし国内外の新興ベンチャーは毎年数倍の成長を遂げています。日本企業低迷の原因の一つに「『商品』の定義を変えていない」ということがあります。多くの既存企業の経営者、管理職の「商品」の定義は、メーカーの場合「モノ」であり、サービス業の場合、今提供している限られた範囲の物理的な情報やサービス、いわゆる「モノ的サービス」です。
 しかし顧客から見れば、企業の「商品の定義」は全く意味がありません。顧客は自分なりの人生、生活、仕事においてしっかりとした目的を持った「価値」を購入しているからです。例えば激安のディスカウントストアに買い物に行く顧客は、低価格品を購入するだけでなく、節約したお金で自分にとって大切なサービスや商品を購入します。この場合、顧客価値は「低価格商品+自分にとって大切なサービスや商品の購入とその経験」となります。既存企業は、このような顧客の現実の実態の一部を切り出し、限定して顧客をとらえ、商品の範囲を一方的に定義してしまっています。
 このような認識論だけでなく、組織構造や組織を動かす制度も「商品」の定義を非現実的なものにしています。例えば多くのメーカーの商品開発部門の仕事は、ハードの企画に限定されています。顧客への情報提供やサービスはハード企画、開発がほぼ終わった後に、営業企画部門などが考えるケースがほとんどです。情報提供やサービスも商品開発の仕事に組み込むべきですが、営業系とは組織が別々で、権限範囲も異なります。このようなことは時折問題提起されることがあっても、現在の組織体制を維持する力が働き、組織構造を変える、権限を変えるまでに行かないことがほとんどです。
 さらには「業界」という単位の存在も、「商品」の定義をゆがめる原因になっています。「業界」とは古い産業であれば第二次世界大戦前に政府が産業の統制のために区分した定義です。日本の多くの産業は、この国の産業の定義をベースにし、各省庁が担当する業界単位の法律、規制をベースに区分され、管理されています。その区分が自由な企業経営のノイズとなり、顧客の変化に追いつかない原因ともなっています。実際日本ではIoT、AI時代になっても、日常生活の情報を医療に反映させる動きはほとんど見られず、医療業界の規制はほとんど変化ありません。しかし医療費は年間40兆円を超えています。
 大学や研究機関、コンサルタント会社も、専門別、業界別で区分され、その区分で仕事をしていることがほとんどですから、そのような専門家の「商品」の定義も過去のものである可能性が高いと言えます。
 一方、大した業界知識もないベンチャー企業が、急成長するのはなぜでしょうか。最近成長しているシェアリングエコノミーやサブスクリプションモデルで活躍するベンチャー企業は、既存の業界の常識の定義にとらわれず、顧客視点で自由で効果的な商品の定義を行っているからではないでしょうか。グローバルに展開する民泊サイト「エアビーアンドビー」は、2人の創業者チェスキーとゲビアがロードアイランド州の美術大学の学生であった頃、サンフランシスコでロフトの家賃を払えず、3名が泊まれるエアマットレスを備え自家製の朝食を提供することで、居間を小さな民宿にしたことから始まりました。
 最近トレンドとなっているDX(デジタルトランスフォーメーション)も、既存の商品の定義、バリューチェーン、エコシステム・ビジネスモデルの範囲で、デジタル化を試みているケースが多く、DXの本質とはかけ離れた議論をしていることが多いように感じます。
 しかし既存企業が商品の定義を変えないのは、企業の経営者、管理職が顧客や事業環境の変化に気が付いていないからではありません。多くの経営者、管理職は、インターネットが世界中に普及し、さらにIoT、AIが実用化されている現在、自社が製造し販売するモノにかかわる情報提供やサービスを充実させないといけないことに危機感を持っていると思います。しかし商品の定義の変更やそのためのビジネスモデルを変革するリスクをとれないでいるためです。なぜなら商品の定義を変え、その実現ためのビジネスモデルを変革することは、自社の既存ビジネスを破壊する可能性のある“リスクテイク”することそのものだからです。

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