「『他社並み』『人並み』からは世界観・ビジョンは生まれない」顧客経験価値のための商品企画開発の実践 第43回
商品開発、事業開発で多くの人、企業が悩んでいるのが、独自の世界観、ビジョンを創れないことです。なぜ創れないのか?多くの産業、企業が、またそこで働く人が、市場に向かって標準化を狙うからだと思います。確かに市場で標準レベルのものを創れば安定して売れますが、一方それはコモディティ化、そして低下価格化への線路に乗ることでもあります。顧客経験価値重視の商品開発は、一旦この市場化を否定して、本当に自社、自分がやるべきことを深く考え、体験し続けることから始めなければなりません。それは「売れない」「受けない」という恐怖との戦いなのかも知れません。そういった戦いの結果生まれるのが世界観なのだと思います。
世界観とは一体何か?
世界観とは、事業の最終的な目的、理念です。その目的、理念が、他にない独自のものでなければなりません。目的、理念とは主に以下の3つを示します。
- この事業は社会の過去の歴史をどう考え、未来をどのように考えるのか(時代感、社会の未来感)
- 社会でどのような役割を果たすのか?(役割、使命)
- 社会にどのような善いことをもたらすのか?(提供すべき善)
この3つにおいて独自性を示すのです。多くの企業の経営理念で、「豊かな社会に貢献する・・・・」といった言葉がよく使われていますが、どのような社会なのか、また未来をどのように見ているかが示されておらず、独自性がなく、ほとんど印象に残らないものが多いのが現実です。バランスが良いことば、誰にでも当てはまる言葉を意識しすぎて、意味が感じられないものになっているのだと思います。このような平均的なワーディングは、大量生産の標準化を志向している、むしろ事業の独自性を打ち消す方向に無意識に進んでいるのだと思われます。そして市場には代わり映えのしない商品が多く出回るという結果を生んでいるのだと思います。
ビジョンとは
ビジョンとは、おおよそ10年以上先のありたい姿を示すことです。顧客経験価値重視の商品開発では、10年以上先の顧客経験価値のありたい姿となります。そこで示される「経験」がこれまで味わったことの無い未知の経験であり、期待に満ちたものでなければなりません。
これらのことはすべて今現実に在るものではなく、人間が想像、構想したありたい姿です。いかに独自の世界を想像、構想するかが勝負なのです。しかし多くのビジネスパーソンは構想することに時間をかけておらず、目の前の問題や課題を処理することに没頭していることが多く、いざ独自の世界観、ビジョンを示せと言われても、なかなか出てこないのです。
世界観やビジョンを構想することは、抽象的思考となり、なかなか目に見えた結果は出ません。しかし事業に多くの人や組織を巻き込むには、インパクトの高い独自の意味を創り出し、「人の心に火をつける」ことが必要なのです。そのためには、徹底して独自性、他との違いを多面的に考え、普段からその独自の概念を試して見て、自らが体感し、周りと対話をし続けることが必要なのだと思います。世界観やビジョンは概念をつくることではありますが、その概念はまさに経験的なのです。繰り返しになりますが、経験とは感覚、感情、思考、行動、共感といった人間が本来持つ本能から生まれるものです。そういったものを自らの経験を通じて、見いだされた独自のもだから説得力が出るのだと思います。提供者側の独自の経験、体験の積み重ねこそ誰も真似できない独自の概念を生み出します。
従って抽象概念である世界観やビジョンは、それを実現させる具体的な技術、事業、商品、それに刺激されて実際生まれる顧客経験価値で、現実性も示されて初めてエキサイティングさが生まれます。その具体性は、事業構想書で示されることになります。