「デザインシンキングとは実際何をするのか?」顧客経験価値のための商品企画開発の実践 第16回
しばらく前からデザインシンキングが注目されています。デザインシンキングに対する言葉はロジカンルシンキングで、ロジカンルシンキングだけでは出てこない発想をする際に、デザインシンキングは効果的であると言われています。デザインシンキングとは、グラフィックデザイン、インダストリアルデザインなどのいわゆるデザイナーが行うデザイン作業をすることではなく、感覚、感情、イメージなどをつかって新たなものごとを創り出すことです。デザインシンキングを説明する際に以下の図を使って説明します。
1つの商品を作るためには複数の技術を精緻なロジカルで組み合わせて行きます。それを選択する顧客は、製品の機能を利用するだけでなく設置方法や修理やメンテンナンスなどを求めます。このあたりまではロジカルシンキングの範囲です。しかしだんだん感覚、感情、人間関係、評判といったロジカルでない要素が選択条件に入ってきます。実際そうやってロジカルでない選択方法で商品が選ばれることが多いと思います。左はロジカルシンキングで構成された技術の世界、右が実際の商品の選択の方法です。右側はとロジカルではありません。デザインシンキングとは簡単にいえば右の方の人の感覚、感情、イメージを想定し明確にする作業で、ロジカルシンキングでは出ない答えを導き出す思考方法です。
デザインシンキングの目指すことは、人や社会にとって「意味」をデザインすることです。意味とは、時間の経過を伴なった人の感覚、感情、思考、行動、共感などの一連の経験であり、それは文脈的なものです。そういった経験は、人の身体を1つの媒体または制約としたもので、個人的、主観的なものになります。一方ロジカンルなものは、共通の原理、法則をベースした、人の身体から離れ言語化、数値化され、客観化されたもので展開していきます。
ロジカンルシンキングは、客観的で、知識や見識さえあれば誰でも共有しやすいのですが、過去にない新しい発想を生み出しにくい側面もあります。過去にない新しいものとは、ロジカンルな思考過程を飛ばして、ありたい姿をイメージすることにあります。ありたい姿ですから何をイメージしても自由です。自由にイメージするところにデザインシンキングの面白さがあります。
デザインシンキングは流行しましたが、多くが概念の説明だけで具体的にどうやって実践するかをうまく説明しているものは少ないと思います。デザインシンキングは、論理的な文章化、数値化はしてはいけません。そうするとどうやって思考し、表見するかといえば、主に以下のような方法になってくると思います。
①コラージュ:写真や絵の切り貼り、組み合わせによるイメージジング
②絵やスケッチ
③段ボール、クレイモデルなどのモックアップ(試作品)
④動画
⑤音楽(作曲、歌)
⑥ダンス
⑦詩
⑧キャッチコピー(短い言葉)
⑨物語
などです。こういったものをつくりながらありたい姿をイメージとして表現することになります。
デザインシンキングは、何も思考しない訳ではありませんが、感覚、感情、動作することなどの身体をつかってイメージングしていきます。従って感覚、感情、動作などの身体力を鍛えておく必要があります。同時にそれを表現するスキルも重要です。スケッチ、写真、詩、音楽、工作など表現する方法を身につけておくことが大事です。
これまでの学校教育は、記憶することと分析、決まった解を見つけ出すためのロジカンルシンキングの面が強かったと思います。当然ロジカンルシンキングも大事ですが、独自の発想を生み出すロジカンルシンキングだけでなくデザインシンキングも重要になってきています。
さて我々は仕事や生活の中でデザインシンキングをどれくらいしているのでしょうか。
もちろん人によって違いますが、業績数値、市場分析、戦略計画、報告文書など多くの作業がロジカンルシンキング的なものになってしまっているかも知れません。自由に雑談をしたり、心を開いて対話したり、自分の感覚や感情を元に気軽に発言したり、絵を書いたり、写真をとったりする時間はどれぐらいあるのでしょうか?クリエイティビティを上げたいのならこうした遊びの時間をとるべきです。またマインドフルネスなどで心を静め、発想しやすい環境でユニークなものを発想するワークショップなどを、戦略的に行うことも大事です。