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「愛すべき自社商品の経験は人と共有したくなる」顧客経験価値のための商品企画開発の実践 第40回

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

自社の主力商品の経験価値が語れない

商品開発のための顧客経験価値のPoCの最初のフェーズでは、外部の顧客よりも社員を被験者にしたPoCをお勧めします。理由は簡単です。顧客が経験する前に社員が経験しておき、その良さを提供者側としてしっかり理解しておくべきだからです。

現実的に、多くの社員は、自社の主力製品の経験価値を理解していないことが多いと思います。「ああ、アレねっ」という冷めた感じになることが多いのです。確かに定番品で、自分の入社前からある商品は、「またあれか」と知っているつもりになりがちです。また自分の担当でなければ、その商品にそれほど時間を割くことはできず、いまどんな広告を打っているのか、売り場ではどのようなプロモーションをやっているのかなど、詳しくは知らないと思います。

また、自社の主力商品を家族や友人に積極的に薦めることもないという企業もあります。こういった状況を打破するためにも、社員を被験者にしたPoCを通じて、商品と向き合う時間をとり、商品を通じた顧客としての経験価値を実感してほしいのです。

自己のペルソナを分析する

社員を被験者にしたPoCでは、まず参加する社員は各人、自分のペルソナを分析します。あらかじめ商品の対象となるペルソナを5つぐらい用意しておき、1つか2つ選んでもらいます。これは意外に楽しい作業で、自分はどのタイプなのか、もしくはどのタイプを目指しているのかを考えることは自分自身の価値観、生き方を見つめ直すよい機会になります。それを仲間と交流することで、互いが分かり合えます。

商品を使った際に自分の顧客経験価値仮説を考える

次に商品を使用する前に、自分の顧客経験価値仮説を簡単に設定してもらいます。いつ、どんな場面で使い、そこから何を感じ、思い、さらには思考するのかを想定してもらいます。これはあくまでも想定ですので、簡単なもので結構です。ここで何人かの人は、自社商品に対する自身の関心の薄さや問題意識の低さに気づかされます。

商品の背景、特徴、使い方、ベネフィットなどの商品説明を受ける

会社の主力商品であっても、担当でない限り、正確な商品知識が乏しいのが現状です。そこで商品の説明をあらためて被験者の社員向けに行います。時には商品説明を行うチームと行わないチームに分け、影響因子としての商品に関する知識のインパクトを分析します。

PoCの記録の方法を説明する

PoCは最近スマートフォンなどを使って記録してもらうようにしています。感情の記録は、1日3回から多い時で5回、回答質問数は10以内です。回答時間は20秒から30秒ほどです。その他1日1回、商品の状況や行動などを記録してもらいます。これも30秒以内程度で答えられるものにします。これを毎日決まった時間に記録してもらうために、SNSなどを利用し、所定時間にアラームを送るようにしています。また、何回か忘れてもある程度分析できることを伝え、PoC参加の負担を和らげます。

社員によるPoCを実施する(1週間から1か月)

会社で組織的に実施する場合、同調因子が働くのか、あまり離脱者はいません。1、2週間PoCを実施していくと、商品に対する思いも強くなり、「こんな使い方があるよ」「パッケージをこうするべきだ」などといった様々な意見、アイデアが出てきます。それをPoC中間時点で参加者の間で共有することもあります。これは顧客経験価値の5つの視点の「共有」がどのように進むのかを観察、調査する場でもあります。

PoCのデータの解析と顧客経験価値や商品、ビジネスモデル改善案の企画

データはペルソナ、年齢、仕事などの属性別に分析できますし、または時間軸での変化も分析できます。影響因子としての詳しい商品説明を受けたチームとそうでないチームの差や、中間報告を共有した人、しない人の差も確認できます。そのような分析データから、ペルソナ別の顧客経験価値の特徴、重要な手がかり、新たな顧客経験価値の開発可能性、商品やビジネスモデルの見直し点を検討し、レポートします。

PoC結果の参加者間での共有

分析レポートができたら、PoCに参加した社員全員でその内容をシェアし、新たな顧客経験価値の開発可能性、商品やビジネスモデルの見直し点を深く検討します。実際この議論は盛り上がります。参加者が顧客として商品を経験しているからです。

そこでは商品の経験を通じて、自分の目指すペルソナに近づけたかどうかを振り返り、そこに自社商品の使用経験はどう貢献したかを議論します。愛すべき自社の商品を通じた自分の人生、生き方にかかわる経験ほど人と共有したくなるものはありません。

社員を被験者にしたPoCは、多くのバイアスがかかってしまっており、外部の顧客の反応とは違うと思います。しかしその一方で、自社の商品に関して、顧客に説明し、使ってもらい、良い経験を導くのもその社員であり、社員自身が商品を通じた誇れる経験を持っておくこと、語れるようにしておくことは極めて重要なことです。

 

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