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「新たなインスピレーションは現場観察(エクスペリエンス調査)から生まれる」顧客経験価値のための商品企画開発の実践 第18回

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

現場とは何か、意外に説明が難しい

顧客経験価値を構想するためには、顧客が商品を購入したり、使用したりする場だけでなく、例えば消費者であれば日常生活や仕事の場を広く観察し、人の暮らしの文脈を把握する必要があります。その際に効果的なのが現場観察です。

「現場」という言葉の定義はなかなか難しいと思います。リアル、フィジカルであれば全て「現場」なのかと言われればそうとも限らず、インターネットをつかって何かをする場も「現場」と考えることも出来ます。例えばSNSで会話していれば、ネットを媒介にしてはいますが、リアルタイムで会話されていてそこは一種現場と言えなくもありません。

私は現場を「人がアクションを起こし、それに対して発生する人や物、自然のリアクションや、そこで同時に発生する人間の感覚、感情、思考などが交差するところ」と定義づけています。

現場は常に動いていますが、記録された情報やデータは静止しています。現場は常にリアルタイムで変化しています。情報やデータとはその現場で発生した象徴的な一部を切り出し表現したものです。現場は複雑で、重く、区分がしにくく、情報やデータは整理分類したり体系化したりしやすいという特徴があります。現場の状態を情報化、データ化することとは、何かの視点で、現場の状態をわかりやすく言語や数値で表現することです。

新たな顧客経験価値を探し出すということは、現場でまだ整理されていない潜在的なものを発見することですから、現場を新たな視点で観察することが必要となります。

現場に出向き体感するとは

IoTやAIなど情報環境が発達し、様々なことを情報として知ることができるいま、なぜ現場観察が必要なのでしょうか。現場を観察することにどのような意義があるのでしょうか。

1つ目は、観察主体が主観で観ることです。主体の身体性を通じてどのような感覚や感情を持ち、思考したかを把握するためです。簡単にいえば顧客と同じ場所、同じ時間、同じ立場で、現場を経験し、そこから主体として新しい経験価値を想像してみることです。

2つ目は、観察主体が、現場の人、モノなどと相互関係を持ち、リアルに関わっていく中で、得られる経験を自己観察したり、そこから新しい経験価値を想像してみることです。

3つ目は、関わる人、モノの問題・課題を具体的に解決すること、または実際解決できなくても解決しようと試みることです。現場と相互関係をつくり、そこから何か新しいことを生み出すことです。そういったプロアクティブな動きから新しい経験価値を想像してみることです。

掃除ロボットの開発ために清掃員として働いた経験 

実際自分の知らない現場の現場観察をすることは、自分自身に大きな影響を与えることです。私は20代の後半、コンサルティング会社に勤務していたころ掃除ロボットの開発支援をする仕事で、清掃会社の方にお願いして、早朝のビルの掃除を2週間お手伝いさせていただきました。朝4時半に起きて始発の電車に乗り、6時前からビルの清掃に入る。私も作業員の一人としてゴミの回収や机の上を拭く掃除、床掃除などをさせていただきました。ゴミが分類されていなく、ビン、缶のゴミ箱に生ゴミが捨てられていたり、キャップが閉められていないウイスキーのボトルからアルコールの匂いがしたり、一方でほとんど掃除する必要のない綺麗なオフィスがあったり、様々な経験をさせていただきました。清掃会社の人に必要なスキルや知識は何か、仕事の達成感はどのようなことなのか、どのような感情を持つのか、決められた作業時間の中で、どこを自動化すると作業効率が良くなるか、作業負担が軽減されるかなどを、自分が掃除をする経験を通じて体感できました。清掃の現場観察の経験の後は、情報やデータで見ていた自分とは全く異なる視点ができ、また現場とそこで働く人に愛着が生まれました。同時に清掃現場の改善のモチベーションがかなりアップしました。清掃の現場に関わることで、私自身が行動変容したのだと思います。

AI、IoTの時代にますます現場観察は重要になる

今後AI、IoTは私たちの暮らしの隅々まで入ってくると思われます。そして多くのことが情報化、データ化されていきます。情報化、データ化は、社会を標準化、平均化していくと同時に、社会の複雑性も増していきます。複雑性→プラットフォーム化、標準化、平均化→新たな複雑性と揺らぎながら生成変化していくのだと思います。

現場観察とは、この複雑性の部分を人間がその身体性という制約を持ちながら、人間のために何か新たな価値のあることを発見する主観的かつ客観的作業です。AI、IoTが普及しても、そのメリットを享受すべきなのは人間であることを前提にした調査手法だと思います。

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