「発想力をつけたいならタウンウォッチングが最も強力」顧客経験価値のための商品企画開発の実践 第17回
タウンウォッチングとは、テーマを決めて街を観察し、そこで得たインスピレーションから顧客経験価値や商品企画を発想する方法です。
顧客経験価値を観察する機会がほとんどない中で仕事をしていた
私がタウンウォッチングを商品企画に活用しはじめたのはもう20年ぐらい前からです。最初はあるおもちゃやゲームを開発している企業の商品開発部門のヒット率をアップさせるためのコンサルティングを依頼された時です。開発現場のメンバーにヒアリングすると、当時、23時まで仕事をし、土曜日も出勤し、趣味や好きなアニメも仕事として見ていて、楽しめていないとのこと。そこで事業部長にお願いし、開発部門のメンバー15人の時間を2日間借りて、タウンウォッチングと商品企画のワークショップを行うことにしました。テーマを仕事そのものにすると楽しくないので、わざとずらして「子供向けお菓子の開発」にしました。5人のチームをつくり、仮説を企画し、そのテーマのヒントになる街を選び、午後一杯出かけて18時に帰ってくることにしました。各チームには5,000円を渡し、何を買ってもよいし、領収書もいらないことにしました。子供の頃お祭りで、親にもらった500円みたいな感じで、何を買おうか考えることに楽しさと意味があります。12時半にスタートし、チームで昼食をとり、街に出かけます。早速ある部長から電話が来ました。「中野の公園に行ったけど、子供がいないんですが・・・」「部長!いまどき、危ないから中野の公園で子供だけで遊ばせる親はいませんよ。」と私から返事。後で部長さんご本人曰く「最近子供がどこで遊んでいるのかさえ解っていなかった・・・」。顧客経験価値を直接把握する意識があまりなかったと反省されたようでした。
アイデアが出て止まらなくなった
18時に全チームが帰ってきて、タウンウォッチングで観察したことをスマホ(当時デジカメ)記録した写真を20時までの2時間共有し、それから皆で食事に行こうという予定でした。しかし会合が終わったのは22時半でした。観察した情報があまりにも面白く多くのインスピレーション、アイデアが沸きやめられなくなったのです。あるデザイン担当者は会議中にポストイット200枚ほどアイデアを書いていました。「アイデアが出て止まらない・・・」と言いながら。
会社での情報はむしろ企画のノイズ
こういった現象は珍しくありません。なぜなら普段会社で企画の仕事をする際のインプット情報がフレッシュでないからです。競合の動向、市場シェア、自社商品の売上・利益業績など、顧客経験価値をイメージしたり、商品アイデアを発想したりすることにはむしろ邪魔な情報が多いのです。皆さんプロですから、元々企画力は高いはずです。だから自由にタウンウォッチングをしてもらってチーム間で観察情報の共有をすると、企画力が復活し、活性化されるのです。
実際タウンウォッチングでは、主に以下のようなことを観察します。
- 街そのもの
・人の多さ
・年齢帯、グループか一人か、グループの特性
・風景の特徴、テーマ、コンセプト
・道の広さ、駅、交通手段
・お店や会社の構成
・建物の特徴 - 人
・ヘアスタイル、ファッション、持ちもの
・歩くスピード、会話
・立ち寄るショップ、場所 - お店とそこにいる人
・お店の立地、大きさ
・販売している商品、価格、ディスプレイの方法
・店員さんの動き
・立ち寄っている人
※店内を撮影する際は店舗責任者の許可が必要ですのでお気をつけください。
街は時代を表現する媒体です。そこには貴重なヒントが隠されています。その街を心の窓を開けて「観察」するのです。
皆さんはどうでしょうか。ゆったりとした気分で街を観察しそこから何か発見しようとしていますでしょうか。タウンウォッチングを通じた顧客経験価値は、タウンウォッチングを行った本人の感覚、感情、思考と行動、さらにそこから得たものを仲間と共有する体験そのものにあります。
私がタウンウォッチングのことを考えたり、企画したりする際にお手本にしているのは故・植草甚一さんです。
今はあまり知る人は少ないと思います。植草さんは1960年から1970年にかけて映画やジャズ評論家活躍した人で、東京やニューヨークの街を、カメラを持ち常に歩き回り、書籍、雑誌、雑貨などさまざまなものを買い集めることを通じて街の文化を感じ取っていたのだろうと思います。植草さん著作は温かみがあり、1960-70年代の文化そのものだと思います。