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「高度な思考とデザイン能力が要求される商品コンセプト企画」顧客経験価値のための商品企画開発の実践 第26回

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

顧客経験価値を重視した商品コンセプト

商品アイデアと商品コンセプトとは全く異なります。商品アイデアは商品コンセプトの個々の要素です。商品コンセプトとは、商品アイデアを取捨選択し、競争力のあるひとつの概念にまとめたものです。

顧客経験価値を重視した商品コンセプトは以下のもので構成されます。

  • 顧客ペルソナ(ターゲット顧客)

顧客ペルソナとは商品の対象となる顧客の属性や具体的な特徴。年齢、性別、家族構成、年収、居住地域、職業、趣味、平日、休日の基本的行動、情報収集の媒体、方法、価値観、人生における重点などや、対象商品の現在の使用頻度、関心度合い、使い方などです。この辺はペルソナ分析で情報収集、分析したデータが活用できます。文章で表現しきれないところを写真やイラストなどを使いビジュアルで示すことも効果的です。

  • 顧客ペルソナが商品を必要とする状況、シーン、ニーズ

顧客のペルソナが対象商品を必要とする状況や具体的なシーンを示します。状況、シーンとは、おかれた環境、具体的には、人生のライフステージ、経済状況、健康状況、家族、仕事の状況、人間関係、生活場面、季節、月、週、日、タイミングなどです。またそこでどのようなニーズがあるのかを具体的に想定します。これらはカスタマーエクスペリエンスマップで分析したものの中から象徴的なものを割り出します。商品コンセプトとは、商品機能そのものだけでなく、この状況、シーンをいかに切り出すかがとても大事ですので、慎重に抽出する必要があります。

  • 基本コンセプト

基本コンセプトとは、いわばこの商品の軸です。商品コンセプトとはアイデアをひとつの軸で編集しまとめたもので、その軸を「基本コンセプト」と呼びます。わかりやすく言いますと、「この商品は何か」を短い一行で言い表すことです。例えば、サントリーの健康食品セサミンは「変わらないのはセサミンがあるから」と「変わらない」という点を基本コンセプトにしていると思われます。家具はじめ、住宅で使う雑貨やリフォームを手掛けるニトリは「お、ねだん以上。」を基本コンセプトにした事業・商品展開をしています。

複数ある機能やベネフィット、ニーズなどの商品コンセプトの要素の中で、何を切り出して基本コンセプトにするかは大変難しい思考となります。まさしく商品の原点、フィロソフィーといえます。

  • 基本機能

基本機能とは、前に商品アイデア発想の所でも説明しましたが、その商品に必須の機能です。何を基本機能にするかと言うこと自体が、商品コンセプトそのものと言ってもいいと思います。機能をたくさん盛り込むと、コンセプトが不明確になりますし、絞り過ぎると、顧客のニーズを満たせないものになります。顧客ペルソナの状況、シーンをよく分析し、どの機能を基本機能とするかを決めなければなりません。

また各機能をどのぐらいのレベルに設定するかも必要です。ヘルスケア用途のウェアラブルバイタルセンサであれば、加速度、心拍数、そこから割り出す交感神経、副交感神経の測定、充電サイクルなどのレベルによって、用途やコンセプトが変わってきます。

  • 付加機能

これも商品企画アイデアの所で説明しましたが、顧客はオプションで選択する機能や、メインの機能ではないが追加であった方がよい機能です。付加機能をメインにもってくることで大きく商品コンセプトが変わる場合もありますので、基本機能、基本コンセプトなどとの関係から慎重に検討するべきです。次のモデルの基本機能を、高価格オプションとして入れることで一種の市場調査を行う場合もあります。また実際上市してみると、この付加機能の使用頻度が高い場合があり、実際は基本機能として使用されていたといったこともあります。

  • プラットフォーム

プラットフォームの検討とは、パートナーとする商品・サービスを明確に限定する、そのパートナーとの接点部分をどう設計しコネクトしやすくするかを明確にする、コネクトすることでどのような情報フィードバックがあるのかを企画するかなどを指します。またパートナーを増加させる仕組み、仕掛けがどこにあるかを設計するといったことも必要になります。そうすると限りなくビジネスモデルのデザインに近くなりますが、プラットフォームはあくまでも商品としての範囲に限定したものです。

  • 提供形態、販売方法

提供形態とは、商品のパッケージ、デザインなどの顧客が商品と認識する形です。わかりやすい例でいえば、食品や飲料であれば、容器の大きさ、容量、デザインなどです。メンテナンスサービスであれば、診断、見積、対応という個別サービスなのか、いくつかの仕様のパッケージになっているのかといったものになるでしょう。同じような商品でもどのような提供形態にするかで、全く異なるコンセプトになります。例えば、無農薬天然オレンジのジュースを企画販売する場合、500mlペットボトルなのか、180mlのガラスビンか、また中身だけを自販機のようなディスペンサーで顧客が持つマイボトルに入れるのかで、それぞれコンセプトは全く違ってきます。3つ目のマイボトルに入れる形態は、環境重視のコンセプトを訴求できる可能性があります。

  • 価格、顧客の負担するコスト

価格とは商品提供者が顧客に販売する標準的価格です。価格は、必ずしも原価や販売管理費に一定の割合の利益を上乗せして設定するのではなく、競合と比較した市場ポジショニングや顧客の商品に対するイメージによって戦略的に設定されることが多くなっています。価格のことをあえて価値表示と呼び、価値を表現する手段と考える場合もあります。つまり価格はコンセプトを表現する大事な一要素なのです。

顧客の負担するコストとは、前にも何度か述べましたが、商品を購入するために支払う金銭以外の、商品の選択、発注、支払、受取、開梱、説明書を読むこと、テスト使用など使用するための学習、使用に失敗しやり直すこと、修理依頼など、使用にあたって発生するコスト全てを指します。ベネフィットをコストで割ったものが価値で、そのコストには、商品代金とその他使用に関わる全ての負担が含まれます。

  • 顧客ベネフィット

顧客ベネフィットとは、顧客が商品を使用した結果として得られる便益です。ニーズとの違いは、ニーズは商品の使用前の欲求です。「喉が渇いた。何か飲みたい。」というのがニーズ、その際にコカコーラを飲めば「スカッとさわやか」「さわやかになるひと時」(コカコーラHPより)といったベネフィットが得られ、おーいお茶を飲めば、「ありのままの自然のお茶でホットするひととき」といったベネフィットが得られます。ベネフィットは最終的な顧客経験価値ともいえます。商品を使用した結果、最終的に顧客にとってどのような意味があったのかをデザインすることです。従ってベネフィットを企画する際には、カスタマーエクスペリエンスマップを読み込み、その最終的な意味を見いださなければなりません。

各カテゴリーのコンセプトとしてのバランス、調和

以上、顧客ペルソナから顧客ベネフィットまで説明しましたが、これらの要素が、基本コンセプトを軸にどう構成され、それがバランスよく調和しているかをデザインしていく必要があります。

このデザインのプロセスを論理的に説明するのが難しいのが現実で、多くの場合はつくっては直しの繰り返しになると思います。商品コンセプトの面白さと難しさはこのコンセプト全体と個別のカテゴリーのバランス、調和にあります。

私の場合は、自然界にある動植物や、よく出来た街並みといった、自己組織化して結果として調和のとれたものや現象をヒントにコンセプト全体のメタファーにして発想しています。自分の中の感覚、感情から見いだす人、人との対話の中の文脈から発想する人など、人それぞれだと思います。

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