コラム

  1. HOME
  2. コラム
  3. グローバルエイジ
  4. デジタル時代の既存の大企業の強みとは

デジタル時代の既存の大企業の強みとは

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

■デジタル時代の既存の大企業の強みとは

 ベンチャー企業が指数関数的な成長を見せる一方で、大企業の成長、発展は難しいと考えられがちです。しかしデジタル化の勝負はこれからだと思います。なぜならデジタル化によるビジネスはバーチャル領域だけではこれ以上あまり成長しないからです。そこでフィジカルな領域に強い多くの既存の大企業に莫大な機会が生まれます。なぜ大企業はデジタル時代でも優位性があるのでしょうか。ここでは大きく3つの強みをとりあげます。

①  物理的(フィジカル)な資産を所有しマネジメントしていること

 2017年、米国巨大小売業のウォルマートは、アマゾンと並ぶネット企業の巨人、グーグルとネット通販事業で提携しました。グーグルのネット通販・宅配サービス、「グーグルエクスプレス」で、ウォルマートが日用品など十数万点を提供することで、アマゾンに対抗しました。さらに、グーグルのAIスピーカー、「グーグルホーム」やスマートフォンを使って声でも注文ができるようにし、グーグルの強みを活かしています。ウォルマートの場合、自社のECサイトへの投資だけでなく、ネットビジネスのノウハウを異業種との連携で獲得し、破壊的参入企業に対抗しようとしています。
 ウォルマートの例からも分かるように既存の大企業は、研究開発、開発設計、製造、物流システム、店舗や営業網など巨大な物理的設備、システムを持ち、それを管理しています。この物理的なもの、バーチャルに対しフィジカルなものを運用できることが強みの一つです。バーチャルなビジネスも、フィジカルなものと連携することで競争力が飛躍的に向上し、有益力もアップします。しかしそのフィジカルなものが他でいくらでも手に入り、さらにその資産をシェアするようになると、連携は成立しません。

②  過去の研究開発の蓄積と優秀な人材を保有していること

 技術が人間の能力を超える限界点“シンギュラリティ”の議論は人工知能などの情報技術で語られることが多いのですが、バイオ医療、バイオ技術、ロボテク、ナノテク、神経科学などのたくさんのフィジカルな領域でも注目されています。それらのほとんどが製造業はじめ大企業の研究所や大学の研究所が取り組んできたことです。もしシンギュラリティが実現するとすれば、単にバーチャルで実現することはありませんので、必ずフィジカルな要素が入ってきます。多くのフィジカルなものは、膨大な実験、検証とそれを進めていく上での倫理などの検討を重ねていかなければなりません。そのためにはしっかりした組織体制が必要で、大企業や大学の研究所にはそれが備わっています。
 しかしそのような研究所の仕組みや人も、外部や他の専門分野に対して閉鎖的で、ある一定の領域に留まっているようであれば、強みにならないと思います。その意味では研究開発のマネジメントの考え方、方法も大きく変える時期なのだといえます。

③  顧客資産はじめ膨大なネットワークをもっていること

 ベンチャー企業からみると、多くの大企業は顧客を資産、つまり「お金を生み出す大事な財産」と考えていないのではないかと感じます。今の日本の多くの大企業は、社長でさえ入社したときから既に大企業でしたので、顧客という資産をゼロから獲得した経験は少ないと思います。問題は顧客を単に既存の製品・サービスの販売先と考えてしまうことです。顧客は、時には共同で事業を行うアライアンス先に、時には仕入れ先にもなり、様々な可能性を秘めています。平均的な日本の大企業は、そういった取引先を国内外にどのくらい保有しているのでしょうか。おそらく膨大な数です。この膨大な顧客のネットワークは、シリコンバレーのユニコーンでもそう簡単に構築できるものではありません。人や資金そして、社会的影響力を持つまでの時間が必要です。
 このように既存の大企業の強みの一つは膨大な顧客とそのネットワークを持つことですが、これもフィジカルな資産同様、活用する発想と外部とのオープンな連携姿勢と実際の行動力、意思決定力がなければ、強みどころか維持管理のコストばかりがかかるものになるでしょう。

メルマガ会員登録

記事をご覧いただくには、メルマガ会員登録が必要です。
メルマガ会員登録は、無料です。
是非、この機会に、メルマガ会員登録をお願い致します。
メルマガ会員登録はこちらです。

ニューチャーの書籍ご紹介

『顧客経験価値を創造する商品開発入門』
『顧客経験価値を創造する商品開発入門』
「モノづくり」から「コトづくり」へ 時代に合わせたヒット商品を生み出し続けるための 組織と開発プロセスの構築方法を7つのコンセプトから詳解する実践書
高橋 透 著(中央経済社出版)
2023年6月29日発行
ISBN-13 : 978-4502462115

 

『デジタル異業種連携戦略』
『デジタル異業種連携戦略』
優れた経営資産を他社と組み合わせ新たな事業を創造する
高橋 透 著(中央経済社出版)
2019年11月13日発行
ISBN-13 : 978-4502318511

 

『技術マーケティング戦略』
『技術マーケティング戦略』
技術力でビジネスモデルを制する革新的手法
高橋 透 著(中央経済社出版)
2016年9月22日発行
ISBN-10: 4502199214

 

『勝ち抜く戦略実践のための競合分析手法』
『勝ち抜く戦略実践のための競合分析手法』
「エコシステム・ビジネスモデル」「バリューチェーン」「製品・サービス」3階層連動の分析により、勝利を導く戦略を編み出す!
高橋 透 著(中央経済社出版)
2015年1月20日発行
ISBN:978-4-502-12521-8