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高利益を達成するための生産財マーケティングとは(8)

ニューチャーネットワークス 取締役 シニアコンサルタント
福島 彰一郎

 前回のコラムについて、あるクライアントから「高利益製品を連続的に創出するためのマネジメントサイクルを持っている企業は例えばどのようなところがあるのでしょうか?」という質問を受けました。
 例として分かりやすいのはキーエンスや工作機械メーカーのアマダでしょうか。キーエンスはそのような仕組みができていることで有名ですが、アマダもよい仕組みをもっています。アマダのマーケティング戦略は次のような流れになります。
 まず新聞・雑誌などによりエリアを決めた集中的な広告宣伝活動を行い、顧客の関心を引き付け、顧客からのファーストコンタクトを起こします。ファーストコンタクト後は、営業がそれぞれ顧客へ出向くのではなく、自社の常設展示場やセミナー、事例研究会、パートナー的顧客企業訪問による成功事例紹介へ、複数の顧客を誘導します。その場には自社の専門知識をもったスタッフや製品が整っており、顧客としっかりと対話を行い、顧客の事業課題について一緒に考えます。顧客とじっくり議論をするために宿泊施設の整った会場を用意し(費用はアマダもち)、これにより信頼関係を醸成します。このようなやりとりで販売促進をする一方、重要な共通ニーズを把握し、付加価値の高い製品を開発していくのです。
 また、工作機器は消耗品や保守サービスが必然的に発生します。そこで収益を上げることに軸足を置いて経営を行うことで、景気変動のリスクを回避する戦略をとっています。製造装置は景気変動を受けやすいですが、一般的に消耗品は受けにくい傾向があります。そのため顧客に売った製品の稼働状況をリアルタイムで監視する仕組みを構築し、「故障を起こさないサービス業」への転換を図っています。このような仕組みがあることで、消耗品交換などのアフターサービスで必然的に顧客と定期的に会う機会ができ、ニーズを自然と把握できるようになります。これが次の新製品開発につながっていくことになります。
 さて今回は、最後のポイント「高利益な製品を連続的に創出するための社内インフラ整備」の後編です(図1)。「ステップ2」から「ステップ4」、そして戦略企画担当のポイントについて紹介します(図2)。

 高利益を上げるために生産財メーカーが押さえるマーケティングの7つのポイント

高利益製品を連続的に創出するためのマネジメントサイクル

 
 まず、ステップ2の「マスカスタム」な製品コンセプト企画です。重要な共通ニーズに基づき製品コンセプトを企画します。大抵、製品コンセプトを企画すると顧客ニーズに関する部分は少なく、仕様と技術の検討ばかりになりがちです。
 顧客に訴求力のある「製品コンセプト」を企画するには、「顧客に営業する際のパンフレットを企画する」というルールでつくると良いものができやすいと、以前ある大手費財メーカーのトップから言われたことがあります。実際に顧客に初めて説明するときの状況をイメージしてみると、「要は何がいいの?」「今までと何が違うのか、競合と何が違うのか」をまず説明することになるわけです。そこが顧客に響いたら、「具体的にどのような機能なの?」「価格は?」「どんな技術が使われているの?」と議論が進むわけです。いきなり技術に関心をもつ顧客はまずいません。
 また製品コンセプト企画では、顧客の利用シーンを複数想定し、製品の機能を予め広めに設定しておくとよいです。営業は、顧客との提案営業のやりとりの中で仕様をすりあわせ、裏方でソフトウエアなどにより設定を変えて、手間をかけずにカスタマイズを行えることが望ましいです。そうすることで量産性アップによるコストダウンとカスタマイズによる価格アップが期待できます。
 そして製品コンセプト企画では、製品レベルだけでなく同時にビジネスモデル、さらにはエコシステムまで検討することです。製品レベルでは競合に勝っていても、ビジネスモデル・エコシステムレベルで競合に負けると、最終的には競合に軍配があがります。
 例としては、電子書籍端末におけるアマゾンとソニーの戦いが分かりやすいです。2007年にアマゾンは「Kindle(キンドル)」を発売しましたが、ソニーの電子書籍端末に対して後発の参入でありました。当初、キンドルはソニーの電子書籍端末よりも大きく、重く、画質が劣っており、当初は評価が低かったようです。しかし、アマゾンは米国の書籍市場の30%を押さえるマーケットリーダーであり、発売当初から大量のコンテンツを用意し、ウェブ上で「ワンストップ」で提供できる仕組みを構築しました。発売時は9万タイトル程度でしたが、2年で33万タイトルまで増えました。紙の書籍の場合、アマゾンは販売額の50%を出版社に支払っていました。25ドルならば12.5ドルです。アマゾンは電子書籍版でも紙の書籍販売額の50%の金額を出版社に支払っておりました。電子書籍の販売額は9.99ドルなので、上記の例だと販売額よりも2.5ドル多く出版社へ支払うことになります。これをアマゾンは負担したのです。しかし、キンドルのハードウエアについては高利益構造(端末販売価格399ドル、一台あたり利益は200ドル)になっていたため、これにより出版社への支払いのマイナス分をカバーする算段であったということです。結果として2007年売上1000万ドル、2010年には売上1.2億ドルになり、電子書籍は市場シェア80%、端末は市場シェア48%を握ったのでした。CEO曰く、「これは製品端末でなく、サービス」であるとキンドルを位置づけていたのです。ソニーの端末と異なり、製品からコンテンツまで一貫したサービスを提供するエコシステムであったわけです。
 さらにエコシステム同士の戦いで勝つためには、エコシステムの所々に競合から簡単には分かりにくい「すりあわせ要素」を入れておくことです。IoT的には、製品自体はモジュール型で他社でもつくれそうなものであったとしても、顧客の利用状況のデータ収集、分析、フィードバック、サービスといった部分に「すりあわせ要素」を入れて差別化をはかります。競合がマネしてつくってみたものの、微妙なところがマネできず、細かいところで使い勝手が悪いものになってしまう。最終的には顧客からは選ばれなくなるというわけです。もちろん競合他社がリバースエンジニアリングをしてノウハウが判明してしまうような部位は特許で守ることになります。
 それから製品コンセプト企画は、製品企画部門が中心となって行うことが望ましいです。各部署のメンバーと合意形成しながら行うと、自社としては開発・生産しやすいものになる一方、顧客からみるとイマイチ響かない内容となりがちです。製品アイデアは各部署のメンバーから収集しつつ、製品コンセプトは、企画担当が中心となって決めるのがよいでしょう。
 3つ目は、ステップ3の「一貫性」のある製品開発です。以前のコラムでも紹介しましたが、製品開発のDRに設計・開発や生産、営業といったメンバーが参画した際、製品コンセプトの軸がぶれないように進めていくことがポイントとなります。「開発がつくった製品はプロダクト思考が強く売れない」、「営業の売り方が悪いから売れない」といったコンフリクトはほぼ必然的に起こるもので、製品企画担当は、顧客事業の重要課題解決のための製品をつくるという軸をよりどころにコーディネートしていきます。プロダクトアウトでもなく、顧客のわがままニーズ対応でもない。重要な事業課題にフォーカスした判断の軸を持っていることが求められます。また日頃から横串で情報交換して信頼関係が醸成され、相手の部署のことを互いに気にかけ、おせっかいを焼くくらいでないと、よい知恵も共創・創発的に出ないかもしれません。人事ローテションや定例会議といったフォーマルな場づくりがある一方、懇親会や各種イベントなどのインフォーマルな場づくりも仕掛けていく必要があります。
 プロジェクトはある程度まとまった期間行うものですので、メンバーのモチベーションアップの工夫もできるとよいでしょう。例えば技術者であれば、顧客ヒアリングに同行させ、顧客から評価やコメントをもらう。製品が顧客やその先のエンドユーザーにとって価値のあるものであれば、自分の開発テーマの意味付けができモチベーションがあがるものです。フォーマルなDRの場だけでなく、インフォーマルな場も平行して開催し、プライベートも含めて互いを知る機会も必要です。それによって相手に親近感を覚え、フォーマルな場でも相手を助けてあげよう、貢献しようというマインドもできます。

 4つ目は、ステップ4の広告宣伝、「聴き込み」営業です。内容は前々回コラムでご紹介している通りですが、インフラ的には、販売ツールや提案書の標準化、営業担当の教育、販売後の顧客フィードバックが取り組みとしては重要です。
 営業担当者のレベルは2:6:2に分かれる傾向があるようです。上位2割の営業担当者は、下位レベルの担当者と異なり、販売ツールや提案書などを常に工夫・ブラッシュアップしているものです。組織としては、真ん中の6割の平均的な営業担当者のレベルアップを図ることができれば、全体の売上アップが期待できます。そのため、上位2割が工夫して作った販売ツールや提案書を標準化し、真ん中の6割に共有するよう促進する必要があります。しかし、上位2割の担当者としては苦労して作ったツールを他メンバーに何のメリットもなく渡すことに抵抗を感じるものです。そのため、会社としては、上位2割がつくった販売ツールなどの価値をしっかりと認めて、人事評価制度でも評価していくことが必要となります。
 そして教育も必要です。上位2割の営業担当者はほっておいても自ら勉強することが期待できます。そのため特に中位以下のメンバーに教育を行うべきでしょう。教育内容は、「製品の特徴、ターゲット顧客の事業課題、説明方法」や「顧客の業務知識、自社製品の導入事例」、「顧客業界の知識」についてのインプットです。さらにロールプレイングにより営業スキルアップも行います。前回のコラムでご紹介したように、売り込みではなく、事業課題を聞き出す対話力をアップさせます。上位2割の営業担当が見本を見せて、その後、教育参加者が1人1人ロールプレイを行います。ロールプレイは録画し、ロールプレイ後チェックリストで評価し、良い点・改善すべき点をフィードバックします。ロールプレイは実際に行うと心理的な抵抗がありますが、記録しながら継続的に行っていくことで成長を実感させていく効果があります。
 ロールプレイについてもう一点、先日あるクライアントの営業部門で営業ブレークスループロジェクトを行っていたときの話です。営業担当の上司が顧客企業の部長役になり、営業担当が作成した提案書に基づき、顧客プレゼンのロールプレイングを行いました。営業担当のプレゼンや質疑のフィードバックを行ったのですが、営業担当だけでなく、上司の方々から多くのフィードバックをいただきました。お声としては「実際に顧客を演じてみると、言いたいことが沢山あるのに、営業担当のプレゼンをずっと聞いているのは結構つらいものだ。営業側は自分の言いたいことを全部話してすっきりしているが、こちらは言いたいことを言えないまま時間終了となり、結構悶々としてしまった。振り返ってみると自分自身も担当しているお客様に同じことをしているのではないかと反省しなければならないと考えた」とのことでした。私も営業でプレゼンはよく行いますが、なかなか耳の痛い話でした。
 最後に販売後の評価についてです。売れた金額だけでなく、なぜ売れたか、どの要因が受けたのか、顧客事業の課題解決につながったのか、価格は妥当だったのか、製品機能の企画は間違っていなかったか、機能を追加すべきではないか、を丁寧に検証することです。これが出来ていないケースが多いですが、この検証なくして、サイクルの次のステージはありません。
 検証の結果、製品の改善・改良が必要とあれば取り組みます。例えば、汎用性が低く、手戻りが多いようであれば、オプションで対応します。汎用性が高く、手戻りが多いようであれば、新製品で対応します。このようにして次の高利益な新製品につなげていきます。
 最後のポイントは、ニーズマネジメントサイクルを回す専任の担当、「戦略企画担当」の設置です。営業やマーケティング、開発といった部門がサイクルをリードすることも考えられますが、それぞれの業務のミッションや事情に引っ張られがちで、製品コンセプトを軸にした開発から離れるリスクがあります。営業部門が行うと目の前の顧客にフォーカスしすぎ、開発部門が行うとプロダクトアウト思考が強くなるといった具合です。
 戦略企画は、市場をとらえ、ニーズをまとめ、仕様を検討し、売上予測し、製品企画、財務シミュレーションまで行います。専任ができることでニーズについて24時間365日フォーカスする部門ができ、専門家が育つことになります。さらに売上責任、利益責任をもたせられれば当事者意識が強くなります。このようなマインド、スキルをもった人材は、事業レベルで勝つために必須です。戦略企画担当がこのニーズマネジメントサイクルを一通り経験することで、市場や顧客トレンド、自社技術について学び、高利益な製品を開発・販売するやり方を俯瞰的に理解することができ、事業リーダーとして大きなスキルアップが期待できます。このような人材育成の仕方は、競合から見えづらく、このインフラ自体が差別化要因にもなります。
 売上の桁より利益の桁は1つ小さくなるものです。高い利益を出すには、「結果として利益が出る」のではなく、しっかり考えて「意図的に組み立てて利益を出す」という思考が大切です。利益を作り込むということです。利益は、社会の公器としての企業が、社会から調達した人・金・モノといった経営資源を組み合わせてどれだけ付加価値を生み出したのかを示すKPIです。理系人間である技術者の中には時折、利益にこだわることへの心理的抵抗を示す方もおられますが、高い利益は、高い付加価値を生み出し社会に貢献した重要な証です。徹底して利益にこだわり、価値あるモノづくりをしていただきたいと思います。

 

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