高利益を達成するための生産財マーケティングとは(7)
少し前までは日経平均がまだまだ上がるというような話が新聞などで飛び交っていましたが、最近は中国経済の減速の動きなどもあり、今度は来年あたり景気が悪くなるだろう、リスク対応、予算縮小といった話を聞くようになってきました。経済は循環するものです。景気が悪くなっても中長期的にはいずれまた回復します。事業会社はデイトレーダーではないのですから、あまり目の前の変化に慌てずに、バリュー投資で著名な米バフェット氏のように先を見据えた事業検討、事業投資を行っていきたいものです。逆に不景気のときこそチャンスということで、積極投資や買収価格の下がった他社の買収、思い切った組織改革を行うくらいの意思決定を行う、思慮深さ、そして覚悟をリーダーは持たなければなりません。
さて1年以上にわたり、高利益を達成するための生産財マーケティングとはというテーマでコラムを執筆してきました。今回は最後の7つ目のポイントである「高利益な製品を連続的に創出するための社内インフラ整備」となります(図1)。
ご承知のように単発的なプロジェクトと異なり、事業は半永久的に行っていくことが前提ですので、高利益を出し続けるには、高利益製品を連続的に創出するための社内インフラも整備しておかなければなりません。
社内インフラとしては次のようなマネジメントサイクルが構築されていることが望ましいでしょう。顧客企業の「ニーズ集約」と「重要な共通ニーズの抽出」を行い、そのニーズにフォーカスした複数の顧客に売れる自社ならではの製品コンセプトを企画する。開発や生産などの他部門を巻き込みながら製品コンセプトとブレがない製品を開発する。広告宣伝は各メディアを選択・組み合わせて一貫性のあるメッセージを顧客向けに発信し、最後は、前回コラムで紹介した「聴き込み営業」で顧客にコンサルティング提案し受注していくサイクルになります(図2)。
このサイクルは、当然のことながら自社の事業ビジョン、目標、事業ドメイン、ビジネスモデルといった事業の方向性と整合性をもって行われるべきであることは言うまでもありません。またこのサイクルはすぐにベネフィットが得られない部分もあり、放っておいてもなかなか回りません。組織として確実に回すためには、サイクルをしっかりリードする戦略企画担当の設置、サイクルに沿って行動・貢献したメンバーを評価する人事評価制度、教育制度、ITインフラなどの整備が成功要因となります。それでは、マネジメントサイクルの各要素について、前回までのコラムの内容を多少繰り返すところもありますが、ポイントを紹介していきます。
まず、ステップ1の「ニーズ集約」と「重要な共通ニーズの抽出」です。顧客ニーズというと営業が主に収集してくるものと認識されている傾向がありますが、「営業が必要とするニーズ情報」と「製品企画・開発で必要とするニーズ情報」は異なります。営業は主に「価格、納期、数量」に関するニーズ情報、製品企画・開発は主に「事業課題からみた重要な製品機能・サービス」に関するニーズ情報を必要とします。大手企業ともなると、営業支援システムが当然のように導入されていますが、そこで扱われる顧客情報のほとんどが上記の営業的な情報であることが実際です。これは製品企画・開発側から言わせれば、企画・開発に何の役にも立たない情報を膨大な時間・コストを使って集めているということになっています。製品企画・開発向けのニーズ情報の仕組みがあるかどうか自体が、高利益な製品を生み出し続けられるかの差になってきます。
ニーズの集約のためには、顧客ニーズ情報の収集が属人的になってしまわないように、収集すべき項目が明確な共通フォーマットを整備します。フォーマットは整備したところで、一部の問題意識の高いメンバーを除いて、大抵のメンバーは使わないものなので、人事評価制度を連動させます。どれだけニーズを集めてきたのか、そのニーズを他のメンバーがどれだけ参考にしたのかなどについてKPIを設置して、評価することになります。高いKPI値を出したメンバーには、賞与や昇格、「高利益ニーズ賞」といった表彰制度で報いる。何もしなかったメンバーは、評価を下げるといった具合にオープンでフェアな評価をしっかり行います。ニーズ情報の提出ということは組織的に結構軽く見られて、評価対象になりにくいものです。ですがこのステップがないと高利益な製品の創出もないわけです。この部分については、評価対象として経営層はスポットライトを意識的に当て、その重要性を訴えなければなりません。
ニーズ情報は、顧客事業に関する考え抜かれた質問による「聴き込み」営業で把握します。この聴き込み営業の機会をある種必然的につくるために、顧客に必然的に会えるビジネスモデル上の工夫もすると良いでしょう。従来は売り切り製品であったとしても、敢えてアフターサービスと1セットで当初から提案しておくなどの工夫をします。そのアフターサービスで顧客と接点をもったときも、対話を促進するために、「事例集」や「お役立ち情報」といった冊子などのツールも整備しておくのも効果的かもしれません。顧客企業というものは、他業界や他社の事例に興味があるものですが、顧客自身ではそのような情報は集めにくいものです。一方、自社は各企業への提案活動を通じて情報を集めやすい立場にあるはずです。
そして今、どの製造業も戦略発想のポイントになっている「IoT」は、製造業のサービス業への転換を促すものであり、製品を売ったあとのアフターサービスは必然となっております。そこでは高速通信環境とビッグデータ解析を活用して、顧客企業の自社製品の利用状況をリアルタイムに把握し、潜在ニーズを見いだすための仕組みづくりが加速度的に進んでいきます。他社にニーズ収集「競争」で勝つためにも、IoTへの積極的な取り組みは必要です。
集約したニーズは集約、蓄積していきます。ニーズがあれば売れる製品がつくれるという思い込みが結構あるものですが、単にニーズを集めるだけでは大した利益になりません。顧客事業にとって重要で且つ複数の顧客がもっている共通ニーズの抽出を行う必要があります。さらに時系列でニーズ変化を捉えることで将来のニーズ変化について洞察ができるかもしれません。また多様な顧客ニーズから多面的な分析ができ、当初まったく共通性がないと考えていた異なる業界同士や異なる顧客同士に共通ニーズが発見できるかもしれません。
このようなニーズを集約し、分析するミーティングを定期的に開催するとよいでしょう。定期ミーティングは、戦略企画、営業、開発、生産といった部門メンバーに参加してもらいます。定期ミーティングとして開催することを義務化させ、定着化を確実にさせます。営業会議のように数字・商談状況などの売上に直結するミーティングでもなく、デザインレビュー(DR)のように具体的な開発テーマ検討でもないので、どうしてもミーティングの優先度は下がりがちです。当初は総論賛成であってもしばらくすると、参加人数が減っていき開催自体が無くなってしまうことなります。ここもKPIを設定し、しっかり評価します。定期ミーティングでは、各メンバーから発見した顧客事業の課題と重要ニーズの発表を行い、それについての意見交換、重要&共通ニーズについて議論、製品アイデア発想、不足情報の明確化と今後の調査アクションの議論を行います。これを定期的(隔週くらい)に継続的に行っていきます。
次回は、高利益製品を連続的に創出するためのマネジメントサイクルにおける「「ステップ2.」から「ステップ4.」のポイント、そしてニーズマネジメントのサイクルをリードする「戦略企画担当」のポイントについて説明していきます。