IoT社会をどうデザインするべきか
2016年新年あけましておめでとうございます。本年もニューチャーネットワークス一同、技術とグロ―バル化を起点に事業・経営戦略、変革に貢献していきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
さて、昨年の今頃は何を考えていたのかと、昨年の私の年頭の所感を読んでみるとモノのインターネット化、IoT(Internet of Things)の本格展開を中心に書かれていました。これまでもユビキタス、MtoMなどインターネット周辺には様々なキーワードがうまれてきましたが、昨年の様子をみていますと、米国GEを中心としたインダストリアルインターネットやドイツでのインダストリー4.0はそれらを包含した本質的な潮流となりました。基本的に製造業を基盤にした国である日本にとって大変重要な動向であり、この領域での成功、失敗が今後の日本産業の運命の分かれ目であると言っても大げさではないと思います。
様々なハードをセンシングしてそのデータをクラウドに挙げ、ビックデータ解析すると言われているIoTは、対象が極めて広く、だれもその全貌と動向を理解していないのではないかと思います。関わる対象、影響が読めないという点では環境・エネルギー問題と似ています。
ドイツ、アメリカが中心になって情報発信しているこのIoTですが、IoTが今後どう変化するという視点で分析することもよいのですが、それよりも私たちがこのIoT社会を、意思を持ってどうデザインするかが重要であると思います。
そこで今回のコラムでは、IoT社会をどの様な観点でデザインするべきかに関して3つの点で述べたいと思います。
①人間中心のIoTであるべき
IoTは工場はじめ、あらゆるモノの情報が、インターネットという標準化された情報通信手段で収集、解析され、フィードバックされるのですが、その中で私たち人間はどのような位置づけなのかをよく考える必要があります。IoT化されれば自動化される部分が多くなり、人の介在が減少していきます。そこで人は一体何をするのでしょうか?技術は人によって生まれ、どんどん進化していきますが、一方人は一生物であり生と死があり、機械ほど時間とともに進化しません。IoT化された社会で、仕事がない失業したままの人が増加する、熾烈な競争で生きていくために限界を超えた労働を強いられる、富が一極に集中し格差が広がるといった問題が起こらないようにするべきです。
従ってIoTは「あらゆるモノがインターネットに繋がって・・・」と定義されますが、あくまで“人”を中心にするべきです。つまりIoTによって“人”でなければできない、希望が持てるやりがいのある仕事が増え、仕事の中で人が成長し、安心して暮らしていけるように考えるべきです。その意味ではIoTを語り、IoTでビジネスをするためには人とは何かといった本質的なことを立脚点にしなければいけないということになります。
②IoTはソーシャルデザインであるべき
「人間中心のIoT」と関連しますが、IoTの成果は、人、そして社会全体の価値であるべきです。昨年末デンマーク大使館が行ったIoT関連のセミナーで「IoTとは『価値4.0』だ」と言う話があったとセミナーに参加した弊社のメンバーの議事録を読み「そうだ!」と思いました。IoTの議論は、クラウドコンピューティング、ビックデータ、センサー、エッジコンピューティングなど情報技術の手段の話に偏りがちです。もちろんそういった技術の進化からは目は離せなく重要なのですが、IoTという広大な範囲に渡るイノベーションが社会にどう影響するのかを十分に考え、そして私たちがIoTを活用してどのような社会をデザインしたいのかを考え、議論するべきです。
IoTを活用した社会をデザインするには、これまで以上に専門、分野、立場を超えた人や組織を巻き込んだ議論の場が必要です。そして単にその変化の動向を探るのではなくクリエイティブな視点で、まさにデザインしなければなりません。その意味では今後、立場、専門の異なる多様な人・組織を横断した場をつくることやそこに参加すること、視野の広い創造的な議論ができることがIoTを語る上での成功のキーになると思います。
③個人も情報セキュリティの防衛をするべき
過去ECサイトで検索した内容が全く資本関係もないSNSサイトの右端にポップアップされてきます。こんなことが日常にあります。頭痛がひどいので薬局で市販の薬を買ったら、スポーツジムの人が「あなた頭痛もちですね。運動をすれば治ります」と言われたら、「気が利いているね」ではなく「どこから私の情報を採ってきたんだ?!」と不信感を持ちます。
IoTの社会では、この情報セキュリティこそが最大の問題であると思います。すでにインターネットの社会では、我々が意識しない中で国境を越えて個人情報が使われ始めています。
個人は当然のこと企業やあらゆる組織も、この情報セキュリティに関しては、日本政府含め、明確な倫理ポリシーとルールをつくるべきと考えます。また学校でも社会教育の一環として個人の情報セキュリティ教育を強化するべきです。個人は、「個人情報は自分に所有権があり、それを勝手に利用させない」という意識を持つべきと思います。
すべてのモノがインターネットつながるというコンセプトのIoTですが、その裏には情報セキュリティ問題という大きな危険性がはらんでいることを十分理解し、適切に対応していかなければなりません。
以上IoT社会をどの様な観点でデザインするべきかに関して3つの点で簡単にお伝えしてきました。日本人は、モノづくりは得意だが、エコシステムやビジネスモデル、国際標準化といった大きな枠組みでの仕組みづくりは弱いと言われてきましたが、IoTという潮流は、日本人の得意としてきたモノづくりのところまで、インターネットという巨大で絶えず進化増殖するシステムが差し迫ってきたのだと思います。大切なことは決して受け身にならず、周りの情報をキャッチしつつ、それに振られてしまうことなく、自分の頭で考え抜き、行動することだと思います。このことを私自身、本年一年意識して仕事に励みたいと思います。