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ポスト高度成長期を迎える中国・大連地域における企業の実力と課題

ニューチャーネットワークス ニューチャーアジア 取締役 
小川 光久

中国は今年2011年、第十二次五か年計画(十二五)をスタートさせた。鄧小平による改革開放政策以来、世界の工場から世界の大消費地へと発展しつつある中国の、一つの区切りの年といえる。
日本もそうであったように、経済の成長に伴って消費の嗜好は変化し、多様化しつつある。企業としては、これまでのように何でも作れば需要が見込めるというわけではなくなってきた。さらに中国において特徴的なのは、生活者として超富裕層から大衆層までが幅広く存在し、市場が多様で複雑であるということである。中国経済は、量的拡大一辺倒の時代から質の競争に移りつつあるといえる。

大連市を中心とする中国東北部は、日本と歴史的に強いつながりを持つ地域である。親日的な土地柄で日本語が通じやすい環境でもあり、進出している日本企業は多い。良港を抱え、後背に大消費地を有していることから日本以外の外国企業も増えつつある。大連地域の中国企業の動向が、日本をはじめ外国企業にも強く影響することが予想される。

十二五の初年度である現在、大連において各企業はどのような課題を抱え、どのように克服していこうとしているのだろうか。今年6月に行った大連市人民政府幹部とのディスカッションを踏まえ、中国企業の実力と課題について考え、具体的な実際の動向についても述べてみたい。

■大連地域の企業が抱える課題

ディスカッションを通じて、大連地域の企業が抱える課題として以下のようなことが浮かび上がった。

(1)専門経営者不足

過去数十年に渡って中国経済は全体として拡大を続けてきた。企業の経営としては、売上や資本金の量を拡大することによって、大なり小なり成功を収めてきた。

しかし今後この傾向は変化してくる。中国企業の経営も、いよいよ質の競争の時代に入るといえるだろう。経営者の手腕が問われる時代に突入したと理解できる。将来の経営戦略を立てる構想力、組織を引っ張るリーダーシップ、環境の変化や不測の事態への対応力などが必要になる。

中国は1960年代から70年代、文化大革命という巨大な政治現象を経験した。その一環として、少年たちは就学機会を奪われ農村に送られるという「下放」が行われた。当時の10代が現在の50代である。現在の企業経営の中核を担う層が、若いころに就学できなかったことは、ビジネス界にも影響しているといわれている。

中国における専門経営者としては、これまで外国企業経営者、華僑経営者、米国などのビジネススクール卒業者などの人材を輸入して任せてきた面がある。今後は経営の人材を「自前」で用意することが必要になるだろう。

奇しくも十二五の主要テーマの一つが、「自国ブランドの育成」である。それは製品だけでなく、人材の面でも同様といえる。専門経営できる人材を現地化していくこと、そのために現地の人材を専門経営者に育てていくことが、今後の課題であるといえる。

(2)二代目経営者不足

先見性のある創業者が企業をリードし、後に後継者問題に悩むのは世界共通のことといえる。中国ではまさに今その問題が出始めてきている。

台湾では1990年代、ファミリー経営にこだわった財閥が、二代目に経営権を移すか、あるいは外部から専門的な経営者を抜擢するかを巡って問題が起こった。韓国では昨今、今や世界企業であるサムスンで創業家の経営復帰が見られる。日本においても、売上や資本金はグローバル規模でも、ファミリー経営にこだわる企業も存在する。

大連を中心とする中国東北部は従来、国営企業が多く民間企業は数が限られていた。近年、国営企業の民営化が進んだことで私有化され、そのために後継者の問題が生じてきているのだと思われる。

いずれにせよ、今後の経営人材を確保するという問題は、上記の専門経営者不足の問題と合わせて注目するべきだろう。

(3) 人々が保守的であること

東北部の地域的な特徴として、人々が比較的穏やかで保守的あることが挙げられる。これは、黒竜江省を中心として肥沃な国土が広がっているため伝統的に豊かであり、近年においても大慶油田などの石油によって経済的に潤っていることが背景として考えられる。言わば、抜け目のない駆け引きが必要となるビジネスを敢えてしなくても、ある程度満たされた生活を送ることができるということである。

現在東北部の企業経営を担っているのは香港や台湾の出身者や外国人が多い。今後、地元に密着した企業も経済競争に勝ち抜いていくには、進歩や発展といった価値観を持つ人材が必要になるだろう。

 

■大連地域の企業の動向

以上のような課題を抱える大連地域の企業であるが、ここからは具体的な例をいくつか挙げていく。

(1)今後も増加する日本企業からのBPO

大連地域には日本企業が多数進出している。改革開放以前から大連市は日本企業はじめ外国企業に門戸を開いていたからであり、20世紀前半以降の日本との歴史的なつながりから、日本語人材が豊富であるからでもある。

中国一と言われる日本語環境の良さを背景に、多くのBPOビジネスが展開されてきている。BPOビジネスの振興は、大連市人民政府の重点政策でもある。

今般の東日本大震災を受けて、日本企業はリスク対策としてのアウトソーシングを加速させており、データセンターや業務のアウトソース先として、大連が再び注目されている。実際、震災以降すでに業務委託を決めた日本企業も複数存在する。

日本と大連を結ぶデータ専用線開設の必要性も議論されてきている。今後、ますます多くの日本企業の業務のアウトソーシング先として大連が注目されるだろう。

(2)大連にも存在する先駆的なベンチャー企業

中国において、大規模な投資を必要とする事業を行うのは、国営企業か外国企業がほとんどであった。例外的に浙江財閥などの非国営企業は存在したが、大連地域にはほとんどなかったといえる。

大連には国家級の環境事業開発区がある。そこで、外国からの先端技術を取り入れて起業した会社がある。創業者の方に実際にお会いするとバイタリティ溢れる方であった。今後もドイツや日本の技術を導入して事業を拡大したいとのことであった。

今後大連地域においても様々なベンチャーが立ち上がる萌芽を感じた。

(3)技術力や経営効率の向上のためには外国企業とのアライアンスが必要

①技術力
中国において、製造業は地元に密着した経営によって売上をあげてきた。しかし今後はさらに多くの外国企業が参入し、消費者の嗜好も多様化するなかで、技術力に裏付けられた高度な製品を製造することが求められると考えられる。

従来、技術力の向上には外国人技術者をスカウトしてくることがよく行われていた。この方法は中国だけでなく韓国や他の新興国でも同様であった。日本からも、定年退職した技術者が人材派遣会社等を通じて数多く新興国で活躍していた。

しかし近年では、技術の複雑化や、先進国企業の知財戦略強化によって、技術者スカウトによる技術の向上は難しくなった。このような認識は現地の企業でも広まりつつあるようで、先日面談した大連地域の大企業の取締役も、技術先進国との提携を模索したいとのことであった。

②経営効率
大連は中国有数のベアリング産業地域であり、600以上のベアリング会社が存在している。あるベアリング会社に6月に訪問したところ、技術者出身のオー ナーが総経理(社長)を務めており、製品のほぼ100%を欧米に輸出しているとのことであった。グローバル市場の競争に勝ち残っており、輸出を通じて鍛え られた技術力を有していることが推測される。総経理の現在の悩みは、殺到する欧米等からのオーダーにいかに対応するかということであった。

今後、さらに経営効率を上げていくには、中国企業だけの経営改革には限界がある。中国企業にとって、日本や欧米といった外国企業とのパートナーシップが成長の早道である。

外国企業と中国企業のアライアンスでは、中国企業に選択の自由がある。多くの外国企業が中国企業とのアライアンスを望んでいるからである。中国では経営のスピードが重視される。中国企業と組みたいという日本企業は、スピードを速める必要があるだろう。

 

■「質の競争」時代における中国企業とのアライアンス

中国経済は、量的拡大から質的向上に移行しつつある。外国企業の優遇政策は今年完全撤廃された。一方で総額1兆2000億円の環境基金を設け、環境対策にも本格的に取り組み始めた。

これまでパイの拡大と共に大部分の中国企業が成長してきた時代と異なり、今後は生き残りをかけたサバイバルゲームの時代に突入するといえるだろう。

中国企業とアライアンスを模索する日本企業としても、どの中国企業が真に有望なのか、パートナーシップ戦略を間違えないように注意が必要である。

 
 

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