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アジア新興国企業とのM&A・アライアンスを成功させるポイント

TMI総合法律事務所パートナー
淵辺 善彦
2012年10月11日、日経ビジネス主催のセミナー「アジアにおける競争戦略コンセプト ー「戦略」「投資/マネジメント」「法務」3つの視点から-」にて、弊社ニューチャーネットワークス代表取締役の高橋が、アドバンテッジパートナーズ代表パートナーの笹沼泰助氏、TMI総合法律事務所パートナー弁護士の淵邊善彦氏と共同公演を行いました。本コラムは、同セミナーでの淵邊氏の講演録を(ご本人の許可をいただき)掲載させていただきました。高橋が「戦略」の観点から、笹沼氏が「投資/マネジメント」の観点からグローバル戦略を論じたうえで、淵邊氏にご登壇いただきました。

 私からは法的な観点から、海外、特にアジア新興国に出ていくというのはやはりリスクがあるという話と、そのリスクをうまくマネジメントしていけば逆に大きなチャンスになるという話をしてまいりたいと思います。
 
 最初にTMIの紹介になりますが、いろいろな分野の専門家がおります。元最高裁判事3名をはじめとして各界で豊富な経験を有する者が顧問をしております。大所高所からアドバイスをもらいながら、現場の各分野の専門の弁護士がチームを組んで対応しています。
 海外展開としては、もう15年くらい前になるのですが、上海にオフィスを開いて中国ビジネスをアドバイスしてまいりました。昨年12月にはベトナム・ホーチミンにオフィスを開き、今は日本人の弁護士2名が常駐しています。それから今年の夏にはミャンマーのヤンゴンに進出しています。海外の弁護士事務所であるモルガン・ルイス&バッキアス(米)、シモンズ・アンド・シモンズ(英)、アーキス(独)等とは共同事業という形で、彼らの全世界ネットワークを共同で利用しています。
 TMIには弁護士が255名、弁理士が53名います。大手の法律事務所としてこれだけ弁理士がいるのはTMIだけです。弁護士と弁理士が組んで仕事をするのは今とてもメリットがあります。なぜなら、知財をいかに守るか、いかに活用するか、ということがアジアビジネスで重要になっているからです。そのアドバイスをするには弁護士と弁理士が一緒にチームを組んでサポートする体制、これが必要だと思っています。
 
 では本題に入っていきます。まず前提としてですが、アジアの新興国に出るということは、国内の法的リスクとは比べ物にならないくらい大きなリスクが潜んでいる可能性があります。国内ではどの辺りにリスクがあるか、どのくらいの損害賠償が認められるか、どのようなレピュテーションリスクがあるか、ということをある程度想定ができると思いますが、アジアの場合、国によって法体系が全然違いますし、またリスクの大きさ、所在も違ってきます。
 何よりグレーゾーンが大きいのが特色です。だいたいの国の場合、立派な法律はある。なぜなら後から作っていますから、いろいろな国のいいところを寄せ集めて、素晴らしい法律があります。けれどもまだその運用体制が整っていないというところがあって、法律の文言と実態の乖離がある。そういうところを、まずは理解していただきたい。
 ですので、問い合わせる現地の弁護士によって回答が違ってきます。ある取り組みについて、できないという弁護士もいれば、できるという弁護士もいます、できるという中にも、露見しなければできるという弁護士もいれば、本当はできないんだけど最後まで私たちが守ってあげるという弁護士まで、いろいろなレベルがあります。
 最悪の場合どのような損害が生じるのかを確認することが大事です。つまりその国でもう二度とビジネスができなくなるということもあります。一方でたとえリスクがあっても、せいぜい罰金10万円ということもあります。もしかしたらそれは取れるリスクかもしれない。違法行為かもしれないけど、違法か違法でないかは実際やってみないと分からない。今後法律や運用が変わるかもしれない。変わる可能性があるのであれば、先に実行するというのも、もしかしたら経営判断としてリスクを取る会社もあると思うんですね。
 もちろん弁護士からはなかなかそうは言えません。ただビジネスの判断としては当然ありうる。弁護士の意見っていうのはあくまでも違法か違法じゃないかという意見です。新興国の場合、人によってブレがありますから、そのブレの中でどれだけの大きなリスクがあって、どうリスクをとっていくのかというのが、アジア、新興国でビジネスをやるときにより有益なことだと思います。取れるリスクであれば、最大限プロテクションしたうえで、取る。そういう判断もないことはないのではないかなと、というのが新興国でのビジネスです。
 
 今日は攻めの観点と守りの観点というタイトルでお話をしたいと思うのですが、まず「攻め」の方は、「許認可・進出形態」。ここが最初のステップとなります。
 たとえばインドの場合、総合小売業への外資規制が二転三転しています。今また認める方向で動いているようなのですが、そういった状況でどう先んじていくか、それはどう情報を集めるかということです。まさに現地のネットワークをどうつくっていくか、にかかわってくると思います。
それから「攻め」の二つ目は「有利な契約条件」です。もちろん契約でどこまで縛れるかというのは議論がありますが、いい条件をとるに越したことはないです。どうやっていい契約条件をとっていくか、これも攻めの観点になります。
 そして三つ目は「税務戦略・知財戦略」、特に知財戦略です。知的財産をどう固めていくか、どういう特許のとり方をしていくか、あるいはとらないか、ノウハウで守っていくか、これは国によっても全然違います。でも戦略なくどこかの国で登録してしまうと公知になってしまいますから、ビジネスを始める前に、その発明や商標が登録をすべきものなのか、すべきとした場合に、どこまで、どの国でどのタイミングで登録するかというのをしっかりと戦略をたてていかないといけません。
 次に「守り」の観点です。いろいろな観点がありますが、ここでは(本コラムでは)、債権保全回収と技術の流出についてお話したいと思います。
 まず債権保全回収、これは日本でも大変です。ましてや海外企業から回収するというのは、基本的に日本の裁判所は頼れません。日本で判決をとっても、日本に資産がなければ強制執行できませんから。結局現地の裁判所で執行判決をとって、相手方の資産を見つけて、強制執行してとなります。さらにそこまでやって払ってくれるのはまだいい会社で、なかには判決とっても逃げられます。そういった状況でどのように回収していくかということです。そう考えると債権はなるべくつくらない、なるべくすぐ回収する、反対債権をつくって相殺する、回収サイクルを短くする、大きな債権をつくらないということが大事になります。そういうビジネスモデルをつくっていくということです。
 それから技術の流出です。前向きにビジネスを展開するにはM&Aやアライアンスが必要ですが、最も大きな法的リスクとして技術やノウハウの流出があります。そもそも技術を出すこと自体どうなのか、ライセンスをして技術を開示するべきなのか、それとも製品部品として出すのか、つまりコアな部分については開示せずにブラックボックス化して供給すべきなのか、そしてどういうタイミングでどう開示するのか、本当に信頼関係があるのか、といったことをよく考えないといけません。
 ノウハウとしていたものが流出してしまうと、価値がなくなってしまいます。機密性があって初めてノウハウとして保護されますから、流出した時点で価値がなくなってしまう。
 流出させた者はもちろん契約違反ですので、債務不履行で損害賠償というかたちで法的には損害を回収する権利はあるのですが、実際は難しい。それは現地で流出しているわけですから、現地で、どのように流出したのかを立証しないといけません。かつ、流出したうえで受けた損害を立証できないといけません。流出の事実と、損害の事実と、そしてその間の因果関係を立証しないといけないのです。これは準拠法が違ってもほぼ共通ですね。これらが立証できないと損害賠償請求できません。損害というのはなんなのかというと、流出されたこと自体が損害ではないのです。流出したことによって自分たちの製品が売れなくなったということを立証できないと損害にはなりません。かなり難しい話で、誰かが流用したノウハウを使って別の製品をつくって、その別の製品が出たから、こちらの製品が売れなくなったという因果関係を立証しなければならないのです。けっこう難しい話になってきます。ですから、流出のリスクというのは取り返しがつかないと思っておいていただけるといいと思います。いくら契約で縛っていても、いくら裁判や仲裁で理論的には回収できるということであっても、現実的にはもう出ていったものは取り返せないということです。
 
 リスクばかり強調しているとなんとなく身構えてしまうかもしれませんが、社内の法務の体制をつくって専門家をうまく活用すれば、決してリスクはコントロールできないものではありません。しっかりした体制をつくって、問題が起こる前に早く相談するということを心掛けてください。大きなリスクにさらされないように「守り」を固めたうえで、「攻め」の法務も活用して大きなチャンスを掴み、グローバルビジネス、アジアビジネスを成功させてもらえればと思います。
 

淵辺 善彦 (ふちべ よしひこ)

淵辺 善彦 (ふちべ よしひこ)

http://www.tmi.gr.jp/staff/partner/y_fuchibe.html

■所属・役職
TMI総合法律事務所パートナー
第一東京弁護士会(1989)
日弁連外国弁護士及び国際法律業務委員会

■略歴
1987年 3月 東京大学法学部第一類卒業
1987年 4月 最高裁判所司法研修所入所
1989年 4月 第一東京弁護士会登録
西村眞田(現 西村あさひ)法律事務所勤務
1995年 6月 ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン
(LL.M.)卒業
1995年 9月 ロンドンのノートン・ローズ法律事務所勤務
1996年 10月 シンガポールのノートン・ローズ法律事務所勤務
1997年 6月 西村総合法律事務所復帰
1998年 7月 日商岩井株式会社(現双日) 法務部出向
2000年 7月 TMI総合法律事務所にパートナーとして参画
2008年 9月 中央大学ビジネススクール客員講師

■著書
『契約書の見方・つくり方』 日本経済新聞出版社 2012年
『ロイヤルティの実務詳解』 中央経済社 2012年(共著)
『会社役員のための法務ハンドブック』 中央経済社 2012年(共著)
『ネットワークアライアンス戦略』 日経BP社 2011年 (共著)
『シチュエーション別 提携契約の実務』 商事法務 2011年(編著)
『企業買収の裏側 M&A入門』 新潮社 2010年
『グローバル企業の人事リストラ戦略』(TMI総合法律事務所編著)日経BP社 2010年
「シチュエーション別 提携契約の実務①~⑤」 ビジネスロー・ジャーナル 2010年4~8月号 (監修)
『知的財産 プロフェッショナル用語辞典』(TMI総合法律事務所編著) 日経BP社 2010年 (編著)
「海外子会社・事業の統合の実務」  ビジネスロー・ジャーナル 2009年8月号
「オープン・イノベーション時代における知的財産・技術を重視した提携・M&Aの法的留意点」 研究開発リーダー 2009年6月号
『M&Aを成功に導く 知的財産デューデリジェンスの実務』 中央経済社 2009年 (共著)
『ビジネス法務プロフェッショナル用語辞典』 (編著) 日経BP社 2009年
「M&Aにおける知的財産デューディリジェンスの手法と留意点」 知財管理 2009年5月20日号
「M&Aにおける環境リスク」 会社法務A2Z  2009年4月号
「見えないリスク『土壌汚染』」 日経ビジネス 2009年2月16日号
『M&Aにおける環境リスク対応』 中央経済社 2008年 (共著)
「座談会『クロスボーダーM&Aの課題と成功要件』グローバル経営に高いハードル 急がれる知見と人材の蓄積」 M&A Review 2008年11月号 (共著)
『個人情報管理ハンドブック(第2版)』 商事法務 2008年 (編集代表)
「リサイクル関連法と今後の動向~違反事例の分析を中心に~」 ビジネス法務 2008年5月号 (共著)
「クロスボーダーM&Aの実際(『戦略的M&Aと経営統合マネジメント』)」 企業研究会 2008年 (共著)
『ロイヤルティの実務 ライセンスビジネスでの契約と監査のノウハウ』 中央経済社 2008年 (共著)
『クロスボーダーM&Aの実際と対処法』 ダイヤモンド社 2007年
「M&A戦略と法務 ポストマージャー(上)(下)」 MARR 2006年1・2月号 (共著)
「M&Aをスムーズに進める『表明保証』と保険の活用」 ビジネス法務 2005年12月号
「M&Aの成否を決める ポストマージャーの重要性」 旬刊経理情報 2005年10月1日号
「ロイヤルティ監査の実務~支払を担保する契約実務と条項例」 旬刊経理情報 2005年8月10日号
「敵対的買収に対する平時の防衛策」 旬刊経理情報 2005年6月10日号
『個人情報管理ハンドブック』 商事法務 2005年 (共著)
「M&Aと環境リスク」 MARR 2005年2月号
『「ビジネス契約」実務大全』 企業研究会 2004年 (共著)
「新しいパラリーガルの役割と業務」 ビジネス法務 2004年8月号 (共著) 
「中国企業の対日M&A投資」 ビジネス法務 2004年7月号 (共著)
「合弁会社の設立・運営・解消(上)(下)」 旬刊商事法務 2004年6月1699号・1700号 (共著) 
「M&Aによる知的財産取得の実務」 ビジネス法務 2003年11月号 (共著)
「少数株主による株主総会招集請求をめぐる諸問題」
旬刊商事法務 2003年7月  1662号 (共著)
「企業再生とM&Aの手法」MARR 2002年5月号 
“Corporate Acquisitions and Mergers: Japan” Kluwer Law International 2003 (Coauthor)

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