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IFRS導入が経営に与える影響(1)

株式会社オーナーズブレイン 代表取締役 公認会計士
小泉 大輔

■はじめに

“早ければ2015年、日本の上場会社にも、国際会計基準(IFRS)が強制適用される可能性がある”と報じられてから、IFRSという言葉を身近に耳にするようになりました。連結主体、キャッシュフロー計算書、税効果会計導入などの2000年以降実施されてきた会計の制度改革である会計ビックバン、そして、2009年3月期以降導入された内部統制報告制度(J-SOX)など、今までも、会計をめぐる様々な動きがありました。
しかし、今回のIFRSの動きは、単なる会計基準の差異調整だけにとどまらず、今までの会計の制度変革を超えるほどのインパクトを経営に与えると予測されます。
グローバルで活動する会社はもちろん、国内を中心に活動する上場会社を始め、部分的に適用が検討されている非上場会社にも影響を及ぼします。
IFRSによって、何が変わり、どのようなインパクトがあるのか。そして、経営者や現場の方々は、何を意識し、どのように準備すればよいか考えていきたいと思います。

■IFRSとは

投資家が投資判断するにあたって、企業の財政状態及び経営成績を測るための重要なモノサシとなる会計基準、従来までは、各国で独自に作成されてきました。企業活動や資金調達のグローバル化にともない、各国の会計基準の相違は、財務諸表の理解の障害になりました。そこで、求められたのが、高品質な世界標準のモノサシである、国際会計基準(IFRS)です。高品質な世界標準のモノサシができることは、投資家から見た財務諸表の国際比較性がより一層向上し、また、企業にとっても国際的な資金調達を容易にし、ひいては、国際競争力の強化につながります。
IFRSとは、International Financial Reporting Standardsの略で、日本語では、国際会計基準、あるいは、国際財務報告基準と呼ばれています。読み方は様々で、イファースといったり、アイファースと呼んだり、アイエフアールエスと呼んだり、統一的なルールはありません。

■世界の動向

もともと、会計は各国独自のルールに基づいて設定されてきましたが、急激な資本市場の国際化や環境の変化により、各国間の会計基準のより一層の収斂が求められるようになりました。2005年1月より、EU域内の上場会社約7000社に対しIFRSが強制適用され、2007年中国、2011年インド、カナダ、韓国の採用など、IFRSをめぐる動きが加速化し、現在、世界110カ国に採用されるまでに拡大し、今後150カ国がIFRS適用を予定しています。このような世界的な動きの中で、IFRS採用に関して最終的な結論を提示していないのは、日本とアメリカだけになりました。
IFRSが世界標準のモノサシとしての地位を強めていく中で、IFRSの対する各国の対応は、2つに分かれます。一つは、コンバージェンス(収斂)といって、自国の会計基準を保持しながらも、一定時間をかけて自国基準とIFRSの差を縮めるよう整備していこうとする方針です。もう一つは、アドプション(全面採用)といって、IFRSを自国の会計基準として採用してしまう方針です。世界的な動きがアドプションであるのに対して、米国も、日本も、コンバージェンスのスタンスをとっておりました。
米国と日本の動向が注目される中、米国は日本よりも一足先に、IFRS採用(アドプション)に関して動きを見せました。SECは、米国上場する企業に対し、2009年12月15日以降に終了する事業年度から一定の要件を満たす企業に対してIFRSによる任意適用を認めるともに、2014年~2016年までの段階的にIFRS適用を強制適用するかどうかを2011年までに決定するようです。
一方、金融庁は、日本で上場する企業に対して、2010年3月期の年度からIFRSの任意適用を容認し、2012年ごろを目処に日本企業に対するIFRS強制適用(アドプション)の最終決定する方針です。強制適用になった場合には、2015年、2016年から適用になる可能性があります。

■IFRSの4つの特徴

高品質かつ、比較可能性を重視したモノサシであるIFRSと比較すると、日本基準は、例外として選択適用が認められる会計処理も多く、経営者の恣意性が介入することが問われておりました。IFRSが導入されると、恣意的な会計処理はできなくなることから、投資家にとっては、企業間比較が高まると同時に、経営者にとっても、グループ内の企業、事業を同一の指標をもってコントロールできるというメリットがあります。
このような、IFRSの特徴は、次の4つに要約できます(図1参照)。

 

(図1)
 
①規則主義から原則主義へ

米国基準や日本基準は、規則主義といって、数字基準などが実務指針やQ&Aなどによって細かく規定されております。このため、米国の会計基準は、すべて含めると、約3万ページもあるといわれ、また、日本の会計基準も年々、公表され続け、使用頻度が多い会計基準だけを収録している監査小六法(平成21年版)でさえ、3078ページにも及びます。
一方、IFRSは、原則主義といって、原理原則のみが規定され、数字基準など明示されず、詳細な規定とはなっておりません。IFRICなどの解釈指針など含めてもIFRS(2009年版)では、2855ページです。
エンロンなどの不祥事は発生の原因は、この規則主義というところからくる脱法行為であるという批判がされておりました。つまり、詳細に規定にすればするほど、その隙間をくぐるという問題があったのです。
また、規則主義のもとでは、グループ全体としての統一の考え方がなく、国ごと、地域ごとにそれぞれで処理してしまっていたという問題もありました。
IFRS導入にあたっては、まず、経営者は、原則にさかのぼって、グループ全体としての統一の考え方を示す必要があります。そして、採用した会計方針をグループ企業に浸透させるとともに、採用した根拠について、説明責任が問われることになります。
一方、現場サイドでは、具体的な会計処理が示されないため、どのように処理・開示してよいか判断に困ってしまう、原則主義の難しさがあります。
このため、現場サイドでは、常に実態を見極め、原則に照らして自分で判断する仕事の進め方とマインドが必要となると同時に、実務レベルでは、具体的な会計方針を設定する必要があります。
このように、経営者、現場サイドも、決めるべき判断事項が増えることから、具体的に進めるにあたっては、前倒しで進め、経営トップを巻きこんだ議論とグループ会社との意思疎通を十分に行うことが重要となります。

②収益費用アプローチ(損益計算書中心)から資産負債アプローチ(貸借対照表中心)へ
IFRSの2つ目の大きな特徴としては、損益計算書よりも、資産負債(貸借対照表)に重点を置いている点です(図2参照)。日本基準では、企業活動の成果としての収益とその努力の費用の差額である、当期純利益を重視しておりました。一方、IFRSでは、資本取引以外の期首と期末の純資産の差分を包括利益とする資産・負債アプローチが採用されております。
資産・負債を公正価値で時価評価し、代替的な会計処理を極力排除しているところから、経営者の意図に左右されない業績評価ができるという特徴があります。

(図2)

 

さらに、IFRSでは、包括利益計算書が導入され、今までの損益計算書のあり方が根本から見直されます。
包括利益=当期純利益+その他の包括利益で示されます。
その他の包括利益に影響の大きい項目は、持合株式の評価損益、不動産などの固定資産、為替換算調整勘定、退職給付債務の未認識債務増減などがあります。これらを、公正価値(いわゆる時価)で評価し、その評価額との差額を未実現の損益として、その他の包括利益とします。
その他の包括利益は未実現の損益であるために当期純利益には含まれず、実現した時に初めて、その他の包括利益から実現年度の当期純利益へ組み替えられるこ とになります(これを“リサイクリング”といいます)。包括利益が導入される背景には、日本でも、持ち合い株式の時価評価など、損益計算書を通さずに、直接バランスシート上の純資産を増加させる会計処理が増えてきたことが挙げられます。包括利益が導入されることによって、損益計算書を通さずに直接、貸借対 照表に計上されるものを包括利益として反映することで損益計算書と貸借対照表でのズレを調整する効果があります。

その一方で、包括利益をめぐっては様々な議論がされております。
その他の包括利益は、経営者のコントロールができない資産の変動からもたらされる利益です。株式や土地などをたくさん持てば、市場の動向によって純利益の 外側で大きな損がでるなど、企業価値に影響を与えます。このため、今後は、業績の不安定要因になる持ち合い株の売却の検討、年金の運用方法・制度設計につ いて見直すとともに、経営者は、包括利益で開示される株価や為替といった外部環境のリスクに対して、より一層、説明責任を果たす必要があります。

③法的形式よりも経済実態重視
3つの目の特徴は、経済実態の重視です。本来、会計においては、経済実態を重視すべきものなのですが、実際には、法的・形式面で会計処理される場面が少なからずありました。IFRSになると、より一層、経済実態を重視した処理が求められます。

では、実際に、IFRSが適用されることによって、財務上どのような影響があるのでしょうか。図3は、先行して適用されているEUにおける自動車メーカーの2社のIFRSの適用による株主資本の影響額を示したものです。

 

(図3)

 

フォルクスワーゲンでは、自国基準に準拠した株主資本と比較すると、2倍にも膨れ上がっていることがわかります。一方のフィアットは、自国基準に準拠した株主資本と比較すると、減少していることがわかります。
 
では、次に、IFRSが適用された際に、影響を与える留意すべきポイントを考えたいと思います(図4,5参照)。

(図4)

 

(図5)

 

(ア) 売上への影響
IFRSにおいて、特に物品の販売などでは、「重要なリスクと経済価値の移転をしたこと」が売上の計上の要件になります。従来まで、出荷時に、売上計上する方針を採用している会社は、一般的には、検収基準を採用することが求められるようになり、売上の金額も大きく変動する可能性があります。
 売上計上基準が検収基準に変更になることにより、事業計画そのものの見直しが必要となったり、お客様から検収書を新たに入手する必要が生じたり、また、検収日で売上を計上するための業務プロセスの見直しや、システムの変更が必要になる可能性もあります。
また、検収でなく、着荷によって、売上を計上することを検討する場合には、契約書等の見直しを行うなどして、リスクが買い手に移転するタイミングを契約書に織り込む必要もあります。
さらに、複数要素の構成要素からなる商品、サービスを一式で販売していた場合には、その実態に合わせて、履行義務単位ごとに区分して売上を計上しなければならなくなります。これは、メンテナンスサービスが付加された機器販売や、家電量販店のポイント、航空会社のマイレッジなどに影響します。

(イ) 固定資産への影響
今まで、固定資産の減価償却は、法人税法で定められた法定耐用年数に基づいて行われておりましたが、IFRSでは、耐用年数、残存価額は、有形固定資産の使用環境や使用の状況に即して決める必要があり、経済実態に即した耐用年数で償却することになります。
また、航空機の場合には、機体とエンジンに分けて減価償却を行うなど、重要な構成要素単位ごとに減価償却を行うコンポーネントアカウンティングが行われます。

(ウ) M&Aへの影響
今までは、企業買収を行うと、相手方の純資産と当社の投資額に差額が生じた場合には、その差額をのれんとして資産計上し、販売費及び一般管理費にて、一定の期間で償却するという処理を行っていました。よって、大きなM&Aを行い、のれんの金額が多額に発生すると、その後の償却負担が大きく、M&Aをするにあたっての大きな検討事項の一つになっていました。
IFRSでは、のれんを一定の期間で償却することがなくなるため、M&Aが活発になる可能性があります。その一方、買収した企業を継続して評価し、資産に計上したのれんの減損テストが必要になります。一見すると、費用負担が少なくなるという良い面だけが強調されがちですが、減損が必要になる場合には、業績が悪化した子会社をグループの損失を取り込まれるということでもあり、さらにその上で減損が認識されるとなると、泣きっ面に蜂の状態になる可能性があります。このようなことから、買収した後の企業の評価と継続的なモニタリングが重要になります。

(エ) リースへの影響
今までは、日本の会計基準に従い、数字基準でリース取引を判定しておりましたが、IFRSでは、実態に即して、リース取引を判定します。このため、外注先にある、当社のための製造に必要になる金型もリース取引に該当する可能性があります。リースは、ROAにも影響を与えるため、リース契約、さらには、外注先との契約の見直しが必要になります。さらに、今後は、資産計上していなかったオペレーティングリースまでもが資産計上の対象になる可能性もあります。

(オ) 年金への影響
今まで、日本の会計では、確定給付型の退職給付制度を採用する企業における数理計算上の差異(割引率、退職率の予測と実績の乖離から生じる差異)を、従業員の平均勤続年数に基づき、長期間で償却しておりましたが、IFRSでは、即時での償却が求められます。

(カ) 研究開発への影響
今まで、日本の会計では、研究開発費は、支出時に費用として計上されていました。IFRSでは、研究段階と、開発段階を分け、研究段階のものは、発生時に費用として計上、実用化、販売が確実な開発費については、無形固定資産として計上し、販売期間に応じて償却することになり、費用の計上が後に繰り延べられることになります。実務的には、研究と開発を区分するための明確なルールや判断基準が求められるとともに、無形固定資産の減損テストのための開発計画や予算実績の管理が必要になります。

④投資家意識から、より投資家重視へ
4つ目の特徴は、今まで以上に実態を重視し、恣意性を排除し、より投資家を重視した有用な情報提供を意識している点です。

(ア) 経常利益及び特別損益項目がなくなる
現在の日本の会計では、臨時的かつ巨額なものが、経常的な損益と区別され、特別損益とされます。毎期発生する固定資産の売却損益はもちろん、企業側の判断によって、経常的なものでありながら、特別損益とすることで、経常利益を傷つけず、企業の業績のV字回復が演出されてしまうことがありました。
IFRSでは、経常と異常の区別がなくなり、特別損益、営業外損益とされていたものが、営業利益の前、営業費用に入ることで、経営者の恣意的な処理ができなくなります。

(図6)

図6は、2002年3月期からIFRSを導入している日本電波工業です。IFRSでは、経常利益が表示されず、日本基準での営業外損益、特別損益が、その他営業費用に組み替えられており、営業利益が大きく異なることが分かります。

(イ) 廃止事業が開示される
図4,5はIFRSにおいて、2011年に改正が予定されている、新しい財務諸表の表示です。
貸借対照表に相当するものは、財政状態計算書と呼ばれ、貸借が一致する表示とならず、縦一列の表示となっています。また、財政状態計算書、包括利益計算書 ともに共通して、「継続する事業」と「廃止する事業」に分けて表示されます。子会社、事業部の売却、工場の売却、処分があると、過去に遡って、廃止事業に 区分されます。さらに、特に、2011年に改正予定の財務諸表の表示においては、継続する事業は、「事業」と「財務」に分かれ、さらに、「事業」は、「営 業」と「投資」に区分されます。まさに、現在のキャッシュフロー計算書の表示に近い形になります。
いままで、継続事業と廃止事業の利益が一括して表示されていたものが、区別して表示されることから、会社の意思決定や、将来のキャッシュフローの状況を外 部に明確に伝えていくことになります。一方、社内に対しては、効率的でない無駄な投資に対してより厳しい経営が求められていくことになります。

(ウ) 過年度遡及修正が開示される
今までの日本の会計では、会計方針を変更した、財務諸表に誤謬があった場合には、過年度の遡及修正は行わず、特別損益で表示されておりました。IFRSで は、会計方針を変更した場合は、財務諸表の比較可能性を高めるために、過年度の財務諸表を遡及的に修正再表示されることになります。

次回は、IFRS適用が経営に与える影響について考えてみたいと思います。
 
 
(次号につづく)

株式会社オーナーズブレイン 代表取締役 公認会計士 小泉 大輔

株式会社オーナーズブレイン 代表取締役 公認会計士 小泉 大輔

・所属・役職
株式会社オーナーズブレイン 代表取締役
公認会計士

・略歴
朝日監査法人(現あずさ監査法人)、新日本監査法人を経て現職。
株式公開、M&A、内部統制のコンサルティング業務を主たる業務とする。
 
・著書・訳書など
『コーポレート・ガバナンス報告書 分析と実務』2007年4月(共著、中央経済社)
『要点解説 金融商品取引法』2007年10月(共著、中央経済社)
「財務スキル教室」(「クオリティー・マネジメント」‐日科技連)
「金融商品取引法に向けた企業の対応」(「クオリティー・マネジメント」‐日科技連)等
 
株式会社オーナーズブレインURL http://ownersbrain.com/

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