働き方改革を成功させるには、ミドルマネジメントへの支援が不可欠
2019年4月から「働き方改革関連法」が順次施行され約1年が経ちました。多くの企業がRPAやテレワーク制度導入、会議の削減・時間短縮などの効率化に取り組み、その結果、社員の生産性が向上し、売上、仕事の品質を落とさずに時間外労働時間の削減に成功しています。しかし、同じ企業内でもある部門は時間外労働時間を大幅に削減しているのに、他の部門は一向に時間外労働時間削減が進まないことがあります。その原因の一つとしては、ミドルマネジメントが忙しすぎて自分と部下の業務効率化・削減に取り組めていないことです。今回のコラムでは、ミドルマネジメントを支援することで組織の生産性を向上させ、働き方改革を成功させる方法を紹介します。
■働き方改革によってミドルマネジメントは疲弊している
日本企業の多くは、ミドルマネジメントである課長職は忙しくて当たり前という風潮が依然根強く残っています。さらに、働き方改革の一環として、時間外労働時間の上限規制がミドルマネジメントを一層忙しくしています。
あるメーカーのミドルマネジメントである営業所長は、売上目標達成と部下の時間外労働時間削減の両方を本部から迫られていました。両方の目標達成には、営業所全体の業務効率化・削減が必要なのは理解していますが、着手できていない状況に陥っていました。その原因として、以下の4つがありました。
①ミドルマネジメントの仕事量が多すぎる
私がこれまでお会いしたミドルマネジメントの半数以上の方は、「自分はプレイングマネージャー」と認識しています。特に営業所長といった現場の管理職では、「顧客訪問は、節目となる時で、基本的にマネジメントに徹している」と聞くのは2~3割ぐらいで、ほとんどの方が部下と同じ仕事とマネジメントの仕事の両方を行っています。
更に時間外労働時間の上限規制により、ミドルマネジメントの仕事量を増やしています。上述の所長は部下の時間外労働時間を規制上限の範囲内に収めるため、部下の仕事をフォローし、自分の仕事の多くは時間外で行った結果、常に全社の時間外労働時間トップ3にランクインされていました。
②部下は目の前の仕事をこなすのに精一杯
時間外労働時間の上限規制を守るため、パソコンの使用時間や会議の開催時間を制限する企業が多くあります。この営業所でも、営業担当者は朝に出社後、顧客訪問の事前準備をし、夕方、顧客訪問から営業所に戻って事務処理に追われてパソコン使用時間のタイムリミットギリギリまで仕事をし、はたから見ても余裕が全くありません。この状況の中、所長が部下に「仕事の効率化、ムダな仕事の削減を検討しよう」と働きかけても、「時間がありません」と取り付く島もない状況です。
③ミドルマネジメントに業務削減のノウハウがない
ミドルマネジメントがどうにか時間を作り、組織の業務を効率化しようにも、どこから手を付けて良いかわからないという問題もあります。業務効率化は、「業務の見える化」から始めることが多いですが、「具体的にどうやって業務を洗い出して整理するのか」「どの仕事をなくせばよいのか」「その判断基準は何か」など、一つ一つ考えながら進めるので、検討に時間がかかり、業務削減がなかなか進みません。
また、ミドルマネジメント自らもプレイングマネージャーとして現場で仕事をしているため「今やっている仕事は必要」と思うことが多く、大局的な観点から組織が行うべき仕事の取捨選択ができなくなっている場合があります。
④業務を削減する権限がない
何とか業務効率化の糸口を見つけても、業務規程、労務規程や予算の都合上、実行できない、時間がかかるというケースが多くあります。ある組織では、時差勤務を導入すれば毎日必然的に発生する時間外労働時間を削減出来ると人事部門に提案したところ、「要望の時差勤務は、労働組合との調整が必要」と導入までかなり時間がかかりました。また、業務の外注化により大幅な業務削減ができると分かっていても、データの機密上の問題がある、そもそも予算がないので対応不可と受け入れてもらえないこともあります。
■ミドルマネジメントの支援が重要
業務効率に取り組む時間、ノウハウもないミドルマネジメントに部下の時間外労働時間削減を迫っても、ミドルマネジメントに過度のプレッシャーをかけることになり、メンタルヘルスにも影響を及ぼしかねません。だからといって、ミドルマネジメントを差し置いて、現場の業務効率を本部組織が主導で取り組んでも現場はなかなか協力してくれません。現場の業務効率化を進めるためには、以下のような方法で本部組織がミドルマネジメントを立てながら支援していく必要があります。
① 成功事例は結果だけではなく、取り組みの手順手法まで共有する
「○○営業所は、業務担当者のマルチタスクにより業務負荷を平準化した」など、全社で成功事例を共有している企業は多いと思います。しかし、ミドルマネジメントに業務効率化のノウハウがなく、十分に検討する時間もない中では、他拠点の取り組み内容が具体的に示されていなければ、同じように取り組みたくても手が出せません。自分の営業所も業務担当者がマルチタスクで仕事ができるようにするためには、どのような手順で、どのように取り組むかの具体的な手引き、パッケージ化されたツールが必要です。また、それを支援するインストラクター的な立場の人も必要となります。
②すぐに実行できる効率化プランを提示する
業務効率化ツールは用意しても、プレイングマネージャーとして動いている自分にはやはり時間がないと業務効率化に躊躇する場合には、7~8割ぐらいの完成度の業務効率化プランを提示します。残りの2~3割は、ミドルマネジメント、または現場のメンバーと検討し、取り組み内容の追加、修正を行い、一緒になって仕上げます。業務効率化の企画の大部分は出来上がっているので、検討に割かれる時間も少なくて済みます。また、業務効率化プランのテーマについても、事前にミドルマネジメントや現場から「何の業務を効率化したいか、どのような効率化が良いか」を聞いておき、それをもとに企画します。
③ミドルマネジメントの業務を減らす
ミドルマネジメントが多忙で機能不全になっている場合は、組織の業務効率化の前に、ミドルマネジメントの業務を減らすことから始めるのも効果的です。参加会議の見直し、権限委譲による決裁事項の削減、部長への報告資料の削減など、ミドルマネジメントの仕事内容は業務削減の宝の山であることが多くあります。
ミドルマネジメントの業務削減は、部下の業務削減にも繋がり、結果として組織全体の業務削減になります。
④ミドルマネジメント助ける参謀を作る
「自分はほぼ残業していません」と言い切っているミドルマネジメント多くの方が自分の方の右腕となる部下の存在があります。その部下が参謀となり、組織マネジメントに関するデータ分析、企画の素案作りなど、ミドルマネジメントが行う仕事の一部を担ってくれています。ミドルマネジメントが優れた参謀を育成することは、将来のミドルマネジメント育成にも繋がります。
欧米の高収益企業は、自分の後任者となる人材育成をマネジメント職の義務としています。人事評価制度の一部にマネジメント職以上にはメンバーの人材育成項目を追加するなど、会社としてミドルマネジメントの右腕を作る取り組みも必要です。
ミドルマネジメントは現場と経営陣、上位職を結ぶ重要なポジションであり、上からも下からも多くの要求を受け入れざるを得ません。特に最近は、ミドルマネジメントへの要求が多くなっています。人間一人の処理量には限界があるため、要求を多くする一方で何らかの支援体制やツールが必要です。ミドルマネジメントの仕事が激務のため、若手社員から「マネジメント職になりたくない」という話はよく聞きます。働き方改革を成功は、一部の苦労のもとに成り立たせるのではなく、社員全員が「この会社で働きたい」という取り組みが求められます。