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組織の変革は、まずリーダー自らの変革から

ニューチャーネットワークス シニアコンサルタント
張 凌雲

 リーダーや管理職のかたから、「仕事の見直し・削減」、「仕事の共有化」、「何でも相談できる職場環境づくり」などの組織改革活動に取り組んでも現場がついてこず、改革が一向に進まない、まったく変化が現れないという相談を度々受けます。その理由について聞いてみると、「自分は変革プランを現場に提示しているが、理解が得られない」、「現場は日々の仕事が忙しく、新しいことにチャレンジする余裕がない」といった現場の原因を上げる方が多いです。ですが、組織変革を推進するリーダーや管理職のかたは、自分自身も改革活動に取り組んでいるでしょうか。変革プランを立てるだけで実際の活動は現場に任せきりになり、他人ごとになっていないでしょうか。リーダーが実行施策の進捗管理だけをしているようでは、組織は変わりません。これまで私が見てきた組織のうち、組織改革が成功し、継続的に改革が行われているのは、リーダー自らが変革している組織でした。
 今回のコラムでは、組織改革の成功要因を、リーダーが率先して行動変革に取り組み成功した事例とともにご紹介します。

■仕事は変わらない、変えられないという幻想を取り除く

 仕事のやり方は誰かが勝手に変えてくれるものではなく、自分が変えていくものです。しかし、今の仕事のやり方や職場の雰囲気が、長い年月を経て習慣化した組織では、「変えたくない」、「どうせ変えてもすぐ元に戻る」というように、改革に対して強い抵抗を示します。このような組織、またそこにいる個人を変えるには、相当なエネルギーを要し、苦労が伴います。心理的抵抗感が強く、多くのエネルギーが必要な変革に対して、例えリーダーが声高に変革を訴えてたとしても、現場には一向に変わる兆しが見えてこないものです。この状況を変えていくには、リーダー自らが行動の変革を粘り強く示すことで、現場の「変革しなくては」という機運が高まり、組織を動かすことができます。

■リーダー自らが変革し、組織変革を実現

 私がこれまで関わった中で、リーダー自らが変革し、組織変革を実現した事例を二つご紹介します。

①    組織・人は変わるという雰囲気を作る - S課長の例

 大手メーカーのS課長がマネジメントする組織は、長時間残業の人が多く、また、職場風土診断の結果が全社の中でも低いため、職場改革の必要に迫られていました。その組織の仕事は、様々なルールに縛られており、かつミスが許されないルーティン業務が大部分を占めています。そして、職場のコミュニケーションの悪さから、個々が仕事を抱え込む状況になっていました。メンバーも新しいことにチャレンジしてミスがでるよりも、効率が悪くてもやりなれた方法で仕事をすることを好み、組織全体の効率性、生産性の低下を招いていました。このような組織では、いきなり大きな変化をしろと言っても難しく、なんとか「いつも通り」を維持しようとする意識が強く働きます。
 S課長も「今の状況はよくない、何とかしなければ」と思い、変革プランを示しているものの、メンバーから協力を得られず、なかなか具体的な取り組みに移ることができませんでした。上司の部長に対しては、「策は打っているが、現場が動かない」と半ばあきらめ気味に報告をしていましたが、ある時部長から、「まず、S課長自身の行動を変えないといけない」と言われ、S課長は日々の行動を変えていくようにしました。具体的には、以下の行動を取りました。

  • いつも忙しくしている部下に対して声をかけづらかったが、挨拶をしたり積極的に話しかけたりして、プライベートな話もするようにした
  • 部内の定例会議に出席しないこともしばしばあったが、必ず出るようにした
  • 自分ができないことや弱みを部下に伝え、協力してほしいことを正直に話した
  • 服装を少し変えて、雰囲気を変えた

 S課長が率先垂範して自らの行動を変え、前例を作ったことで、職場に安心して行動を変えられる雰囲気を作り出すことができました。成功のポイントは、S課長が今まで「やった方がいいな」と思っていたけれどやっていなかったことを、自ら実際に行動に移してやってみたことです。その後、前から業務改善の必要性を感じていたが、なかなか話を切り出せなかった部下から相談を受け、組織変革の一歩を踏み出すことができました。

②    部下との意識・行動力のギャップを埋める - K所長の例

 大手メーカー営業所のK所長は、持ち前の行動力と好奇心・勉強熱心さから、常に営業トップの成績を上げていました。K所長は部下に対して、自分の成功体験をもとに作った提案書や営業ツールの提供、新たなイベントアイデアの提供などを行いました。しかし、一向に部下の営業成績があがりません。K所長は、「ここまでお膳立てしているのに、なんで自分と同じようなことができないのか」と苛立ちを覚えていました。そこでK所長は、なぜ部下が自分と同じようにできないのかを、部下と日々一緒に行動し、意識レベルから確認してみることにしました。
 その結果、以下のことがわかりました。

  • 提案書や営業ツールがあっても、それを使うタイミングわからない
  • 商品知識に不安があるので、積極的に提案をしたくないという気持ちがある
  • 顧客のキーパーソンとの接点が希薄で、顧客ニーズを把握できていない
  • 何かのきっかけがないと、自分から積極的に働きかけるのが苦手

 K所長自身は、こういったことは営業担当なら当然行っているだろうと思っており、一方、部下は所長に怒られると思い、わからないことや、できていないことをなかなか言い出しづらかったそうです。そこでK所長は、自分ができることや、これまで自分がしてきたことを一方的に押し付けるのではなく、個々の特性や特徴、知識・情報量や顧客との関係性と合わせて細やかな支援を行いました。部下が変わるのをただ待っているのではなく、自分の考え方を変え、自らが歩み寄ることで組織・個人の変革を進めていきました。

■まだまだ、現場への掛け声で自分が変わっていない状況はあります

 上記は、部下が変わるのを待つだけでなく、リーダー自らが変わり、組織を変えていった例です。現場に改善を促しているのに、何かしら理由をつけてリーダー自身は改善ができていない状況をよく目にします。

  • 部下には定時退社を促しているが、日中ミーティングが多く、自分の仕事ができるのは就業時間外となってしまうからという理由で、自分はいつも遅くまで残っている。
  • オフィスクリーン活動を行っているが、処理する書類が多いという理由で自分の机は片付いていない。
  • スケジューラーに30分単位で仕事を入れるよう部下に言っているが、日々のイベントが多くて、スケジュールを入れる暇がないといって、自分のスケジュールには入れていない。

 自分だけ聖域化せずに、部下に対して要求するのと同様に、自分自身も同じ要求に応えることで、部下との信頼関係も高まり、変革の実行スピードの向上と成果につながります。

■変革を楽しみながら進める

 変革でさらに重要なのは、楽しく取り組むことです。上述のS課長は、当初はあまり乗り気でなかったものの、自身の変革を進めていくうちに「S課長が変わった、明るくなった」と言われるようになり、本人も変わることは楽しいことだと周囲に話すようになりました。またK所長は、試行錯誤しながらも常に前向きな雰囲気の中で変革に取り組み、営業所のメンバーの気持ちが上向くように取り組んでいました。
 現状を変えることは、「面倒、大変、できれば避けたい」という意識を持っている人が多くいます。メンバーの思い込みや習慣、あきらめや抵抗を無くすのは、リーダーが率先垂範で変革し、自らがその効果を実感して部下に具体的に伝えることです。なかなかはじめの一歩を踏み出せない方も多いと思いますが、リーダー自らが、まずはできることから始めれば、メンバーもそれに倣って徐々に良い方向へ変化していきます。

 

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