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ボトムアップ活動の成果は、現場と経営トップの信頼から生まれる

ニューチャーネットワークス シニアコンサルタント
張 凌雲

 私はこれまで業績向上や職場活性化を目的としたボトムアップ活動に関わってきました。ボトムアップ活動を始めようとしたが上手くいかず、現場の不満や不信を招いて活動がなかなか進まない、または開始前に頓挫してしまう場合があります。活動が始まれば、現場の仕事をよく知っている担当者の問題意識を刺激することで、「ここがおかしい」、「ここにムダがある」など多くの改革・改善点が容易に見つかり、始めのうちは一定の成果が期待できます。しかし、同じ活動を長く続けていると、出てくる問題点も少なくなり、得られる成果も活動開始時ほどインパクトがなくなります。やがて、活動そのものが形骸化してしまうことも少なくありません。

 今回のコラムでは、ボトムアップ活動を円滑に立ち上げ、組織に定着させ、継続的に機能させるための方法を紹介します。

■立ち上げ時は、まず、ボトムアップ活動への理解と信頼を得る

 ボトムアップ活動を始めるにあたって、まずは主体となる現場の担当者の理解を得ることが必要です。過去にボトムアップ活動に取り組もうとして、上手くいかなかった組織も多くあります。ボトムアップ活動をスムーズに立ち上げるには、まずは、現場の担当者に活動の重要性や意義を示し、活動への理解と信頼を得ることです。現場から信頼を失ってしまう原因と、そうならないための取り組みを示します。

① 現場の意見の放置が招く不信感

 昨今の徹底した残業管理、人手不足もあり、現場では今まで以上に、目の前の仕事に忙殺されています。ボトムアップ活動によって仕事が楽になると頭では理解していても、その検討に時間を割く余裕すらない現場がほとんどです。そのような状況で、部長や課長が現場の問題を把握するために、現場担当者にヒアリングやアンケートを実施したにもかかわらず、問題点をまとめた報告書を作って終わってしまうケースがあります。また、現場担当者に現場の気づきを日報に書いてもらう、社内Webサイト上に目安箱を作って問題点や改善アイデアを出してもらうなどの取り組みをしても、ほとんどフィードバックされていないという話も聞きます。
 協力した担当者からすれば、フィードバックが何もなければ「忙しい中時間を割いたのに、あれは何だったんだ。」ということになります。自分の意見が誰にも認められていないと感じ、ボトムアップ活動だけでなく、ヒアリングを行った上司や組織に対しても不信感が生まれます。こうなると、再度ボトムアップ活動を実施しようとしても、現場の拒絶感、抵抗感が強く、協力を得づらくなってしまいます。

②  現場の意見・アイデアと向き合う

 現場から信頼を得るためには、現場から出た意見やアイデアをもとに改善や対策に取り組むか取り組まないかにかかわらず、現場からの提言を尊重し、組織としてどう対応するかを示すことが必要です。
 ユニークな製品コンセプトでヒット商品を出している小林製薬では、社員の誰もがいつでも新商品や業務改善の意見やアイデアを出せる、全社員参加型の提案制度があり、35年以上続いています。(※1)この制度が長く続いている要因の一つが、寄せられた提案は関連する部署や担当者によって検討され、必ずフィードバックがあることです。
 現場から出てくる提案は、実行の難易度が高いもの、効果が期待できないようなもの、内容が抽象的なものなどもあります。出てきた提案に取り組まない場合は、なぜ取り組まないかの理由を示します。内容が不十分であった、成果が期待できない、過去に取り組んだが失敗したなど、その理由を提案者に伝え納得してもらうことで、再度検討して良い提案が出されたり、今後も継続して提案してくれたりすることが期待できます。

③  すぐに成果が出るものから、どんどん始める

 ボトムアップア活動が組織に認知され、定着するためには、すぐに成果を実感できるテーマから始めることです。現場から意見がでたら、「実行計画を立ててから」「実行体制を整えてから」「予算を取ってから」と言わずに、できることからどんどん取り組むことです。素早く信頼を築くためには、小さな成功体験・効果実感に勝るものはありません。ボトムアップ活動を行うことで、現場にメリットがあることを早い段階で認識してもらうことが重要です。

■定着した後は、活動の停滞・形骸化を防ぐ

 個人的な経験から、ボトムアップ活動は実施方法を変えない限り、導入から3年ほど経つと停滞・形骸化してしまいます。3年も経つとボトムアップ活動が仕事の一部となってしまうからです。停滞、形骸化が生じる主な原因とその対策は以下になります。

①  視点を変え、視野を広げて停滞を防ぐ

 ボトムアップ活動が停滞する原因としては、取り組み範囲やメンバーをほとんど変えずに取り組んでいることです。組織の事業内容が変化しない限り、長期間、同じ組織内で活動していれば、テーマは出尽くし、成果も限定的になります。
 自組織での取り組みをやり尽くした場合は、活動の範囲を広げて視点を変え、視野を広げる必要があります。関連する他部門、他事業部、またはサプライヤーなどのパートナー企業や外部の人材を巻き込んだ活動にすることで、これまで自組織だけでは気づかなかった新たな発想が出てきます。

②  活動の形骸化を防ぐ

 ボトムアップ活動の当初の目的が見失われ、いつの間にか活動を行うことが目的となり、形骸化することがあります。その原因の一つが、ボトムアップ活動が目標管理に組み込まれていることです。活動が目標管理の一部となると、自分が目標を達成しやすくなるように、活動テーマは「組織がすべきこと」ではなく、「自分ができること」になりがちです。
 もう一つの原因は、経営トップへの活動報告が重視されている場合です。経営トップへ良い報告をすることが目的となり、失敗のリスクなく確実に成果が出るような活動テーマが取り上げられます。結果として、革新的な取り組みが生まれなくなります。
 ボトムアップ活動を目標管理と結びつけたり、経営トップへ定期的に活動報告したりすることは、活動を仕組み化する点では有効です。ただし、活動テーマとその目標が挑戦的か、意欲的かを重視すべきです。そして、最終的に期待したような成果がでなくても、その取り組みの過程を評価し、失敗を許容する仕組みや風土が求められます。

③  活動に参加するメリットを与える

 ボトムアップ活動が停滞することなく、継続的に取り組んでいる企業の中には、活動に参加することで本人にメリットを与えています。
 その一つが人材登用・人材育成と併せてボトムアップ活動に取り組む方法です。テーマを提案した人を役職に関係なくリーダーに抜擢している企業もあります。社歴が浅く、経験や権限がない若手社員をリーダーにする場合は、部長をサポーターとして任命し、目標達成を支援します。また、ボトムアップ活動に関わっている人に、社内外の人材と交流できる研修への参加や、異業種企業へのベンチマーク訪問の機会を与える企業もあります。組織の変革に積極的に関わることが、自身の能力やキャリア向上につながるというメリットを示すことで、継続的な活動参加への動機付けを行います。

 経営トップへの信頼が薄く、現場の閉塞感や無力感の強い組織では、ボトムアップ活動は機能しません。ボトムアップ活動を根底から支えるのは、現場の活力です。現場の活力は組織に対する信頼から生まれます。経営トップが、ボトムアップ活動が必要だというメッセージを伝えるとともに、現場の意見を吸い上げ、効果的だと思ったらすぐに実行するというサイクルを回すことで、現場との信頼関係を築き、ボトムアップ活動による成果を出し続ける組織になります。

 

※1 小林製薬 「全社員参加経営」参考サイト
https://www.kobayashi.co.jp/corporate/news/2012/120221_02/index.html

 

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