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JIPDEC坂下理事対談 AI、IoTの時代トレンドにおける日本企業が把握すべき動向② ~働く目的とシェアリングエコノミー~

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

 前回の対談では、デジタル化という共通言語で業界の垣根がドンドン崩れ、異業種連携が当たり前になりつつある中における日本企業の課題について議論しました。その象徴的なトレンドが、シェアリングエコノミーの急成長です。民泊やカーシェアなどのシェアリングエコノミー普及の背景には、これまでの資本主義の行き詰まりや、人の価値観の大きな変化があります。
 坂下氏との対談では、そのような時代背景の根底まで掘り下げたお話が出来ました。今、私たち産業人はどのように考え、行動すべきかのヒントが、坂下氏のお話にはあります。

高橋:最近のシェアリングエコノミーの特徴として、普通の人が少ない資本金でスタートし、大規模に成長させている様子が見られます。これは、簡単に貸し借りができるようなアイデアと工夫の連動で、「本当に欲しい/利用したい」サービスを直感的に実現しているためだと思います。

坂下:温暖化の影響等により地球規模で資源が減少し、またインターネットの登場によるグローバル化によって賃金等の低下が起き、さらにAI等によって仕事が代替されていく環境下で、人類は以前より少ない資源を活用しながら従来より低い所得で生活しなければならないといった場面に直面しています。シェアリングエコノミーのような取り組みは、その生活レベルを維持する方法として、本能的に考え出されたものではないかと思います。例えば、シェアリングエコノミーとは異なりますが、本のリサイクルのようなビジネスでは、一度誰かが読んだ本であれば、通常価格より低い価格で手に入れられます。そこには、購入する人がいて、買い取ってもらう本を出す人がいるというようなエコシステムができています。最近では、フリマアプリのようなものも登場していますので、これからシェアリングは増えてくると思っています。

高橋:本能的にシェアできるもの、シェアによって得られるものを分けているということですね。

坂下:製造業では、生産能力のシェアリングも始まっています。インターネットで発注し、パートナーのラインで製造するというものです。京都の金型ベンチャーのケイパブルは、注文を受けた金型データをパートナー工場にネットワークでつないでおり、海外からも受注しています。これまでは、自分の顧客を同業他社に紹介するということは考えられませんでしたが、シェアすることによって適正な生産力が維持され、ビジネスが成り立つというのも一つの形ではないでしょうか。

高橋:そういった発想の違いとは何から起きているのでしょうか。従来の、縦割りの業界の中で事業を大きくしていたものから、シェアしていくようにシフトしているのには、どのようなパラダイムチェンジがあると思われますか?

坂下:当協会で運営しているgコンテンツ流通推進協議会のg-LIFE委員会では、政府統計から国内小売業を分析した結果、市場規模は1997年の148兆円がピークでそこから縮小し続けており、近年ECが成長してB2C市場が年率5%程度で増加していますが、市場金額に割り戻すと、やはり市場全体では縮小しているという報告がありました。縮小する市場の中で、一定のシェアを取るように企業が牌の奪い合いをしている状態です。しかし、シェアリングエコノミーでは、餅は餅屋としてそれぞれができることをしながら、価値を分かち合う考え方です。これは、働く側から見ればワークシェアリングであり、成熟した経済の中で一つの解として提示されるものではないかと思います。

高橋:市場が拡大しない状況の中、無理をして心身疲弊するよりは、適度にのんびりやろうという本能が働いているようにも思えますね。

坂下:2000年代初めに会計ビッグバンが叫ばれ、時価会計と言う言葉が登場し、四半期決算が当たり前になっていくのと並行してコンプライアンス面も厳しくなってから、企業が萎縮している面があると思います。しかし、それも限界に達しつつあるのではないでしょうか。以前は、株主は企業の応援隊であって、企業側はその想いに応えるため、ある程度自由に活動していました。マッチング等で出会うベンチャー企業や、海外で活動を広げる中小企業の方々のお話を伺うと、パラダイム変換がおきているという印象があります。

高橋:資本主義による拡大主義のようなものが、資本主義自体を捨てるわけではなく良さは維持しつつも、徐々にシフトしているという状態ですね。その動きが、人の気持ちから産業の在り方、さらに経済の在り方までつながり、一つのムーブメントになっているのですね。政治のブロック化は、資本主義を政治化するために進められているようで、それを応援する経済人もいますが、それも限界にきているように感じます。

坂下:権威主義的な言動も見られる場面がありますが、それを投射した経済主義自体に行き詰まり感が出ているようにも思います。

高橋:経済はデジタル化し、どんどんつながっていきますね。

坂下:インドや中国の中流階級層が増え、以前より資源を消費する人口が増えているために、資源減少に拍車がかかっています。例えばスマートフォンの筐体を製造している企業が使用済の製品を回収、分解して再利用し、再生した製品であれば元の半額で販売するというように、資源をエコサイクルするビジネスもこれから出てくるように思います。

高橋:小さな会社であればそのようにシフトしやすいですが、大きな企業ではシェアリングやAIの活用によって、部門や仕事が減るということに耐えられないこともあるかと思います。特に、30代くらいの若い人だとそういった変化を受け入れやすいですが、年齢が高い人ほど変化を受け入れづらくなります。そういった変化を受け入れ、対応できない層の人たちはどうするべきだと思われますか?

坂下:「私たちは何のために働いているのか」を振り返るのが良いのではないでしょうか。日々家族と一緒に食事をとることができ、時々旅行に行くことができるなど、がむしゃらにやらなくても現在の企業がある程度安定していて生活を守ることができるのであれば、そもそもの働く目的を達成できています。日本の雇用契約は実態が空白の部分が多く、言い換えれば、何とでも読める契約にして動きながら当てはめるということを行う部分が多いですから、どうしても残業が増えてしまいがちです。米国のように勤務内容を明記して、ある程度ゆとりの時間を作るようにしなければ、本当の働き方改革にはなりません。それでも体力的にも余裕があり、できたゆとりの時間分も仕事をしたいという人のためには、一つの企業でなく3つでも4つでも複業してもいいという制度にしていく必要があるかもしれません。

高橋:生活を維持できる仕組みがあって3~4年の間は業績的にも大丈夫なら、その間に企業も思い切ってチェンジしなければならないですね。

坂下:ドイツで開催される世界最大級のIT関連見本市 CeBIT(セビット)の出展者を見てみると、海外の企業は自分の会社のチップが「世の中をこのように変える」というようにプレゼンをしますが、日本企業は「このチップにはこういう機能がある」というようにプレゼンをしているところがみられました。ここで大きく差が開いており、日本には夢を語らない企業が増えている印象があります。日本企業も、1990年代前半まではもっと夢を語っていました。当時私が在籍していたIT大手企業でも、技術のトップと営業のトップが喫煙所の立ち話などで交流し、研究シーズから営業企画が出来上がり、受注するという様子を目の前で見ました。今は、コンプライアンス面で研究部門と営業部門が自由に意見交換できないという話を伺うことも多いです。そういうところを自由にすると、新たな発想も起き、企業も夢を持てるかもしれません。

高橋:某電機メーカーの50代の営業本部長は、偉そうなそぶりが全くなく非常に気さくで、若い人たちにも分け隔てなく交流しています。その会社は非常に活気があります。そのような人材をトップに置こうという良い動きは、企業の中でも少しずつ出てきているように思います。

坂下:サラリーマン金太郎のようですね。サラリーマン金太郎は、主人公が漁師や暴走族だった時の感覚でどんどん受注をとり、社風を変えていきます。周囲から反発を受けますが、素質を見抜いて引き抜いた会長だけが擁護する。そして徐々に、周りも変わっていくという話です。そういう異文化による衝突を起こし、エネルギーに変えるという行動ができてくると、企業もまだまだ変わると思います。

 

【対談者プロフィール】

一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)常務理事 坂下哲也

データベース、OS等の開発に従事し、平成15年財団法人データベース振興センターにおいて、地理空間情報に関連した調査研究に従事。平成18年財団法人日本情報処理開発協会データベース振興センター副センター長に就任。平成24年(一財)日本情報経済社会推進協会・電子情報利活用研究部部長に就任、平成26年6月より現職。データ活用の推進と個人情報の保護のバランスを中心に、パーソナルデータ、オープンデータ、ビッグデータなどデータ利用に関する調査研究に従事。また、マイナンバー制度についても、平成25年度東京都など地方公共団体の特定個人情報保護評価の支援に従事すると共に、その利活用に係る調査研究に従事。国立研究法人審議会臨時委員、ISO/IEC JTC1 SC27/WG5委員、情報ネットワーク法学会会員。

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