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これからは「直近不合理BUT未来が見える人・組織」が成長する時代に

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

 クリスマスやお正月などイベントが多い時期かと思います。年末も押し迫り一年を振り返ってみると、ぼんやりと一つのことが頭に浮かびました。それは、「“先はよく見えていないが将来成長しそうな人”と、“先はある程度見えているのに将来成長があまり期待できない人”の差が結構はっきりと出てきたな」ということです。

 これまでは、ある程度先が見えていればその先の将来も見えるような気がしていました。しかし今は、1年から3年ほど先まで見えている人こそ、その先の将来が見えにくいのではないでしょうか。ざっくり考えると、現在の努力が3年以上先の将来に直線的にはつながらないことが多い一方で、現在の努力が直近のゴールに対し合理的に貢献できていなくとも、その3年以上先には役に立つ可能性がある、ということなのかもしれません。

 上記の2つのタイプを簡単に整理してみたいと思います。

① 先はある程度見えているが、3年以上先の将来の成長があまり期待できない人・組織(直近合理的BUT未来が見えない人・組織)

 ✔ 3年間の目標や実行策が明確である
 ✔ 事業や仕事の成長性は低いが、徹底した合理化、コストダウン、生産性向上の努力をしている
 ✔ 働き方改革、コンプライアンス管理など近年重視されている管理が行き届き、無駄が排除されている
 ✔ 無駄が無い一方で、職場のコミュニケーションがなんとなく良くない。
  無駄を抑えなければという気持ちから、話がしにくくなっている
 ✔ 課長、部長など、次の管理職に誰がなるかかなり明確になっている
 ✔ 全て計画通りでなくてはならず、予定外のことはやらないようにしている
 ✔ 仕事や職場に夢がない。語るネタ自体が少ない、もしくは無い

②    先がある程度見えているとは限らないが、3年以上先の将来の成長が期待できる人や組織(直近不合理BUT未来が見える人・組織)

 ✔ 3年間の目標や実行策はあまり厳格に示されていない
 ✔ 合理的な考えや発想ができ自分の役割をある程度守るが、一見無駄と思われることにも挑戦する遊び心がある
 ✔ 仕事がうまくいかないことがあっても、仲間同士で助け合うゆとりがある。
  むしろ、そういった気持ちが大事にされている
 ✔ 職場の内外で関わるイベントが多く、一見遊びと思われる話題が飛び交っているが、
  何となく仕事にも役に立っている
 ✔ 課長、部長など次の管理職に誰がなるかほとんど決まっていない。
 ✔ ある一定以上の規律はあるが、仕事時間の管理は個人に任され、自由にやっている
 ✔ 方向性は明確だが、計画は頻繁に変わる。偶然のイベントが入ってくることがあるが、
  なんとか工夫して取り組む
 ✔ 社外の多くの仲間とつながっている。それは気持ち、価値観でつながっていて、結果仕事にもなっている
 ✔ 将来の面白そうなことがたくさん転がっている。将来のことを考え始めたらやめられない

 これはあくまでも私の経験則で何か調査をしたわけではありませんが、おそらく多くの人に理解していただけるのではないかと思います。ただ、決して上記のようにはっきりと2つに分かれるわけではありません。「直近合理的BUT未来が見えない人・組織」でも、場が変われば「直近不合理BUT未来が見える人・組織」であることも多いと思います。全ての人や組織は単独で存在していません。全ては周りとの相対的な関係性で出来上がっており、いわゆる「文脈的」に成り立っていると思います。職場が「直近合理的BUT未来が見えない人・組織」であっても、別に深刻になる必要はないと思います。自分自身で「直近不合理BUT未来が見える人・組織」の世界を、たとえば家庭や地域、サークル活動など社外につくれば良いですし、皆さんそうされているのではないでしょうか。

 人・組織が2つの傾向に分離していく現象の背景や要因はどのようなものなのでしょうか。私は、日本のみならず世界の多くの国や地域、企業で、目的合理的な市場経済、産業社会が行き過ぎた結果の行き詰まりと、その変化の兆しとして2つの傾向が表れているように感じます。

 そもそも人間や自然環境とは、私達が創り上げてきた市場経済や産業社会とは異なる原理でできています。たとえば人という地球上の一生物は、永続的に存続する手段として自然と共生するために、周りの自然を神として崇め、畏れ、そして必要な分だけ適切に活用するなど、様々な知恵や文化を持っていました。しかし市場経済や産業社会は、そういった人類が永い時をかけて創り上げた知恵や文化を破壊し、その一方で膨大な富が得られるようになりました。さらに産業そのものにインターネットが加わり、融合することで、これまでの市場経済や産業社会がより先鋭化される方向に進みました。しかしインターネットによるネット経済は移ろいやすく、市場経済や産業社会の将来をも見えにくいものにしています。その一方で何が起きるか解らない、これまでの市場経済、産業社会とは異なる新たなコミュニティの構築も可能にしています。それが「直近不合理BUT未来が見える人・組織」の発生原因だと思います。

 インターネットは、IoTやAIなどによってさらに進化していき、市場経済や産業社会が破壊した人や自然が本来の性質を取り戻すことにも影響を与え始めました。SNSでも、社会的支援組織や趣味のサークルなど、ビジネスとは直接関係のないコミュニティが無数に立ち上がっています。お金を求めた競争や個人主義ではなく、人と人の気持ち、心がつながって互いを理解し合い、協力することが重視されているのだと思います。そういったことに未来の姿が見えますし、これまでと違ったビジネスの画も描きやすいのです。先に挙げた「直近不合理BUT未来が見える人・組織」とは、そういった人・組織です。

 昨年から今年にかけて流行した「サピエンス全史(上・下)文明の構造と人類の幸福」(ユヴァル・ノア・ハラリ著)は、人類が数万年かけて身につけてきた習慣を分かりやすく解説し、市場経済、産業社会での人間の生き方への問題提起をした名著だと思います。

■身近に存在する「直近不合理BUT未来が見える人・組織」

 私のまわりにも最近「直近不合理BUT未来が見える人・組織」が増えてきたように思います。

 都内のある団体職員の方は、お祖父様が所有していた地方の荒廃した山林を継いだものの、一人ではどうしようもない状態でした。そこで、自分のネットワークで学生を集め、その山林を自由に活用するアイデアを募集したところ、学生が地域の人と協力してキャンプをしたり、地元の人も楽しく遊べるようにし、その過程で都心の学生と地元の小中高校生との交流も行うことができました。

 また、残業規制で仕事の時間が短くなったことを利用して、社外の人と様々なカテゴリーで継続的な勉強会を行っている人たちもいます。徐々に参加者が多くなって最近では大規模な組織に成長し、様々な社会活動まで行えるようになりました。

 会社の仕事以外で、趣味でやりたかった小さなアクセサリーのお店を友達と始めた人もいます。平日の夕方や土日にお店の仕事を行い、会社と2つの仕事を楽しくこなしており、お店は赤字で持ち出しもありますが、毎日様々なインスピレーションが湧いてご自身の大きな成長を感じているそうです。

 こういった「直近不合理BUT未来が見える人・組織」は、決して経済的に恵まれているとは言えないことも多いですし、また会社の中ではメジャーでない場合が多いと思います。どちらかと言えば、会社の中で「またあいつ余計なことをしている」と思われてきた人たちです。

 しかし、市場経済、産業社会が限界に達し、社会が相互扶助のコミュニティ重視へと変化している今、「直近不合理BUT未来が見える人・組織」がとても大事な存在になってきていると思います。なぜなら、コミュニティを再生するところに社会や顧客、そして社員の莫大な潜在ニーズがあるからです。

■自分も「直近不合理BUT未来が見える人」になろう

 これから10年くらいかけて、「直近不合理BUT未来が見える人」が活躍する時代に変わっていくと思われます。「直近不合理BUT未来が見える人」になるのはそれほど難しいことではないと思いますが、長い間「直近合理的BUT未来が見えない人・組織」で過ごしてきた人にとっては少し戸惑うことがあるかもしれません。そこで、最後に私なりに5つのコツのようなものを提案したいと思います。

提案1:人のため、社会のためになることに対し積極的になるとは、結局自分の心と身体の活性化、健康につながると考えよう

提案2:儲かるか儲からないか、すぐに役立つか役立たないかではなく、気持ちや価値観が合うかどうかで繋がっていこう

提案3:常に気持ちをオープンにし、偶然の出来事でも即興でうまく取り入れ、その場、その日を楽しくしよう

提案4:毎日を物語のある日にするために、常にストーリーで考えよう。そのストーリーを自分にも周りにも感動的なものにしよう

提案5:じっとしていないで、外に出かけよう。知らない土地に行って、異なる世代の人と話してみよう。そして自分の仕事や人生の参考にしよう

 私自身、「直近不合理BUT未来が見える人」になりたいと思い、この年末年始の休暇は家族が集まる時間として大事にしたいと思っています。

 皆様、良いお年を!

 

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