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社内イノベータ発掘と高利益マネジメントサイクルの構築⑥ ~技術者は社内ポリティクスの現実を直視せよ~ その2

ニューチャーネットワークス 取締役 シニアコンサルタント
福島 彰一郎

 10月4日の前回のコラム「社内イノベータ発掘と高利益マネジメントサイクルの構築⑤ ~技術者は社内ポリティクスの現実を直視せよ~ その1」では、イノベータになるためのポイントの「社内ポリティクスへの対応&社内の仲間づくり」の概略を説明した。コラム公開後に、小職の製造業のクライアントからいくつか反応があった。「うちの技術者も社内の巻き込みができていない、上手くない」「そもそも社内の巻き込みも自分の仕事という認識がない」などのお声を、管理職や経営層の方からいただいた。業界に関係なく、多くの製造業で共通の課題のようであった。
 では、組織内で影響力を上げるためにどのような行動をしていくべきかを具体的に考えてみたい。組織内で影響力を上げるには、8つのポイントがある(図1)。今回のコラムでは、8つのポイントのうち前半の4つについて考えてみたい。

 

組織内で影響力をあげるためのポイント

 

 1つ目は「信頼関係を築く」である。仕事における信頼は、「社内ポリティクスのインフラ」である。大前提であり、他者からの信頼なくして影響力もなにもない。その信頼を日頃から得ておくには、仕事における基本動作がしっかりできていることが必要だ。約束やルールを守る、成果・納期をコミットする、礼儀正しさや謙虚さを持ち、誰とでも分け隔て無く接する、人によって態度を変えない、人の話に素直に耳を傾ける、感謝する、間違ったら謝る、嘘をつかない、ポジティブ思考でいる、といったことである。

至極当たり前のことではあるが、言うは易しで、実務経験が長くてもなかなか完璧にはできないものである。業界によるかもしれないが、技術者は人と接することの多い営業や事務系の職種に比べて、このような信頼関係を築くための基本動作がまだまだできていない方も多いのではないだろうか。

 2つ目は、「チームとしての成果を出す」ことである。社内で影響力を上げるためには、なんといってもリーダーや管理職として与えられたミッションを果たすべく、部下を使って担当部署の成果を出すことが第一となる。成果が出なければ、組織内における上下左右からの評価は下がるわけで、影響力も当然低下する。管理職としては、現場で起こっていることを経営層に正確に伝える一方、会社の方向性を踏まえて部署の方向性や目標を設定し、部下と共有する必要がある。そして、具体的なアクションを検討し、部下に実行させる。進捗管理をする一方、他部署との調整を行い、部下の働きやすい環境を整える。また、実行を通じて部下を指導し、育成する。
 管理職の成果は、管理職から出された目標を達成する部下の成果とは異なることを忘れてはならない。チームとしての成果が、管理職として結果を出したことになる。くれぐれも部下にまかせるより自分がやったほうが早いと判断し、自分ですべて対応してはいけない。それでは時間がなくなり破綻する。上司の時間がなくなれば、部下も上司とコミュニケーション不足になり、不信感が高まっていく。
 最悪のケースは、部下の実績がすごいからといってムキになって競っていたら、自身の管理職としての仕事ができなくなり、上からも下からも信用を失ってしまうことだ。現場から一歩下がって、全体の状況を俯瞰する思考を持つことも重要だ。現場の仕事に埋没せず、自分の現場仕事の結果は最低限を果たせばよいと割りきるくらいがよい。
 与えられたミッションを果たして成果を出せば、その実績によって組織からリソースを獲得し易くなる。また、与えられたミッションに効率的に対応して、短い時間で成果を出してしまえば、残った時間を利用し、組織として認められていないが自身の本来取り組みたいテーマを行う自由度や余力も出てくる。技術者としてもこのような柔軟さをもってほしい。

 3つ目は「相手の欲しい『モノ』『情報』を提供する」ことである。社会心理学によれば、人は他者と関係性をもち、評価されたいという基本的欲求を持っているという。とすれば、相手に「自分はあなたを認識しており、価値ある存在と思っている。関係性をもちたい」と伝えることが第一歩となる。そのため、まず基本となるのは、日々会ったときの挨拶である。挨拶がないようなら重視されていないということであり、敵をつくっているのと変わらない。
 挨拶するときにも「名前」を呼ぶ。「おはようございます」だけよりも「○○さん、おはようございます」と名前をつけて呼ばれるかが、重要視されているかどうかの尺度となる。出世する人ほど、人の名前を覚えるものである。形式的な挨拶だけでなく、相手固有の具体的な話題を出す。他者とは違い、個別に認識されていると思われるようになる。
 次は、相手の話を聴くことである。話を傾聴し、相談にのることで、相手は関係性を認識することになる。さらにはこちらから相談するのもよい。相談されたことで「重要視されている」と感じることになる。得意なことを依頼されると「自尊心」が満たされる。
 褒めたり評価することも重要だ。相手が部下であれば、具体的なシーンをあげて「褒める」ことで、「ちゃんと見ていてくれる」「気にかけてくれている」と思われる。褒めるや怒るというよりも、子供の教育と同じように「見ているかどうか」が大切であろう。
 そして日頃から地道に、相手の欲しいモノや情報をこちらから提供しておく。ただし、初めから重たい価値を提供すると嫌がられるので、キャッチボールしながら重くしていく。すると、「返報性の原理」が働く。「返報性の原理」とは、相手に価値あるものを提供することで、相手が自分に対して何か報いなければならないと強く感じる心理的な作用である。その作用により、いざこちらから相手に何かお願いする時に相手が「Yes」というように仕向けるのである。
 恩を返さない人も多いが、それには文句はいわずに忘れることである。相手は、器が小さいと思われるだけである。ただし、自身も善人になる必要はなく、相手が「善意」だけを利用する人かどうか、言動を見極める。単なるエゴイストなら距離を取ってしまってかまわない。自己の利益のみを追求するエゴイストは、組織で孤立していく。

 4つ目は「部下の『民意』をつかむ」である。管理職は、マネジメント側の最下部に位置する一方、現場の最上部に位置するポジションとなる。経営側は全体最適を目指し、現場は部分最適を目指す中、管理職は双方のコンフリクトの真ん中に置かれている(図2)。

 

管理職は全体最適と部分最適の真ん中にいる

 

 管理職はマネジメント側の最下部に位置するため、ついつい上層部の意向ばかりを気にする「ヒラメ社員」になりがちである。そのため、自分で意識して上よりも下に目を向けるように努力していく必要がある。この努力においては、次のようなことが大切である。

①    部下のプロフィールを知る

・家族構成、趣味、価値観、プライベートの悩みまである程度把握しておくことである。そこを握らずして求心力はない。その上で仕事の指示をする。細かく配慮すると、感謝されるものである。

②    部下の話をじっくり聴く

・1:1で半年に一度は話をじっくり聴くべきである。最低1時間、できれば2時間が理想ではないだろうか。時間切れで対応不十分といった雑な対応をすると、部下は消化不良になり、不信感も現れる。下の人に成果を出させるのが仕事なのだから、他の仕事を犠牲にしてでも行うべきことである。面談で聞いた話は決して口外しないことである。信用を一気になくすことになるからだ。
・聞いたことについては、少しでも必ずアクションを起こす。それを部下は見ていて、それが信頼につながる。

③    あくまで「自分は経営側である」ことを忘れない

・部下と話をするときも、「自分は経営側の人間である」という建前は決してくずしてはいけない。部下と一緒になって経営を批判するのはタブーだ。批判はかならず上にも聞こえると思った方がいい。そうなると、経営層から「分かっていないと」悪いレッテルを貼られてしまい、経営層への影響力が低下する。部下の会社への不満には同調せずに、まずは自身で受け止める。そして、建設的な方向にもっていく。「ではどうしたらいいと思う?」というように、部下と一緒に打開策を考える。

④    部下を認め、成長させ、昇格させる

・各部下の存在・個性を尊重し、部下にはポジティブに対応する。そして能力を引き出す。失敗を批判するのでなく、失敗から学ばせる。
・成果を出した部下の昇格を支援する。部下を昇格させられない管理職は政治力がないということで、人事上の不満は上司にいき、部下への影響力は低下する。昇格時期を迎えた部下には、配慮を最大限にする必要がある。

 今回コラムでは、8つのポイントの半分を紹介してきた。どれも頭で理解していても、なかなか実行できていないことではないだろうか。次回のコラムでは、組織内で影響力を上げるための8つのポイントの後半、5~8について考えてみたい。

 

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