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社内イノベータ発掘と高利益マネジメントサイクルの構築⑤ ~技術者は社内ポリティクスの現実を直視せよ~ その1

ニューチャーネットワークス 取締役 シニアコンサルタント
福島 彰一郎

 今年6~8月にかけて、弊社が新規開発した研修プログラム「技術者のためのマインドセット」を製造業の技術者向けに数回実施した。技術開発のみを行う「単なる技術者」でなく、事業成果を生み出す「社内イノベータ」になってもらうためのポイントを技術者に理解してもらい、自らの今後の成長戦略を悩み・考えてもらう内容であった。事業目線をもたないまま「うちの会社は長年やってきたのだからこれからも大丈夫」「技術者は開発だけやっていればいい」と考えている危機感のない技術者がまだまだ多いようで、そのような技術者に悩んでいる、困っている経営層から高い関心が寄せられた内容であった。
 研修内の講義において、「技術者も理念やビジョンをもつこと」「課題の深い理解に時間をかけること」「事業化や市場投入まで技術者もつきあうこと」など、イノベータになるためのポイントを紹介したが、特に参加した技術者から妙に反応があったのは、「社内ポリティクスへの対応&社内の仲間づくり」であった(図1)。

 

社内イノベータ 図1

 

 グループワークの議論や発表の際も、いかに他部署を巻き込むか、社内人脈をつくるか、上司を説得するかなどについて自身の悩みや課題を挙げる技術者が多い印象であった。数回の研修とはいえ、製造業において同じような状況の技術者が多いのではと推測された。
 今回のコラムでは、図1の「社内ポリティクスへの対応&社内の仲間づくり」について考えてみたい。やりたいことがありながら、組織のしがらみの中で悩んでいる多く技術者の参考になれば幸いである。

 大半の技術者は、優れた技術は会社で評価され、受け入れられて当然だと考えているのではないだろうか。しかし、組織において新技術や新製品は既存製品から「嫌われる」という現実を理解する必要がある。それには、例えば次のような理由がある。

  • 新製品は既存製品から予算や要員といったリソースを奪う。それによって既存製品の売上げが下がれば、既存製品担当者の評価が下がる。
  • 既存製品から新製品に置き換わると、既存製品の改良プロジェクトや製造プロセス、営業活動などが大幅な変更となり、手間がかかる。
  • 新製品は顧客ニーズを書き換え、既存製品に対するニーズを消失させてしまうことがある。そのため、既存製品の売上向上のための努力が無駄になる可能性がある。
  • 新製品の登場により、既存製品の担当者は自分の仕事が否定されたと感じる。過去の実績や栄光にこだわる担当者は新製品に抵抗感を持ってしまい、新製品が多くの顧客に評価・支持され、それを理性では理解したとしても、感情レベルで納得ができないことがある。
  • 新製品が会社の戦略の変更につながる可能性がある。既存製品から新製品への経営資源シフトは、経営層に大きな議論や駆け引きを迫る。そのため、経営層に嫌がられる可能性もある。

 小職はこれまでのコンサルティング経験から、大きな組織における新規事業開発プロジェクトは、既存事業との社内調整で8割以上の工数やエネルギーがとられると考えている。社内調整に工数がとられてしまったために、市場トレンドからみて事業展開のベストなタイミングを逃し、機会損失となってしまうケースもあった。
 「縦割りの組織が悪い、社内連携ができていないことが原因だ」と文句を言ったところで、詮無きことである。このような事態は大きい組織であれば大抵起こる、ある種の自然現象である。営業、開発、生産と分業が起これば、ミッション、目標、業務プロセス、リズムも異なり、社内コンフリクトは必定だ。知恵をつかって前向きに対応していくしかないのである。単なる技術者でなく、事業成果を目指す「イノベータ」であるためには、このような社内ポリティクス(社内政治)に上手く対応し、既存製品・事業における営業や調達、生産といったメンバーを巻き込むことは不可欠である。
 これは自分以外の他の誰かにやってもらうのではなく、技術者自身がやるしかない。新技術、新製品の価値を知っているのはそれを担当する技術者だけなのだから、自分から発信、動かずしては他の人から関心を持たれようもないし、協力されることもない。事業化されなかった自分のテーマが研究室の隅で消えていくのを黙って見ていて、卑屈になるような技術者ではいけない。これは習得すべき1つのスキルなのである。なんともつかみ所が無く、数字で表現できるようなものでもないため、白黒つけたがる技術者には敬遠、あるいは軽視されるかもしれないが、大きな組織において新しい製品、事業をつくるためには必須スキルとして認識すべきである。そしてこのスキルは、大学の講座や本で学んで習得するような類のスキルではなく、実際にもがきながら習得するスキルである。
 では社内ポリティクスとはそもそも何であろうか。組織における社内ポリティクスは、善でも悪でもない。人が組織に属して生きていく上で必ず直面する現実であり、「あるべき論」はさほど意味をもたない。組織を動かしているのは組織メンバーの「パワー」であり、それを直視することである。社内ポリティクスから逃れる、目を背けるということは、現実からもそうするということある。もちろん、ビジネスに論理は必要であるが、推進していく上で必要十分条件ではない。
 組織の中で自身が社内ポリティクスのパワーをもつためには、「影響力」と「権限」を組み合わせることがポイントとなる。「影響力」は、他者への強制力はないものの、自身が組織メンバーに協力をお願いしたときに、相手から「イエス」を引き出す力である。強制ではなく相手の自発的な協力を引き出す点がポイントである。もう一つの「権限」は、職務権限や人事権など、他メンバーに命令できる権限である。強制力があるものの、乱用すると組織メンバーから反発や摩擦を生み出してしまう。単純作業なら強制でも成果が出せるかもしれないが、新しいことを生み出すようなクリエイティブな取り組みでは、メンバーの自発的な参画なくして成功は期待できない。
 「影響力」が主で、「権限」をあくまでサブとしてこのサイクルをスパイラル的に回し、組織の自由度を高めていくスタイルが望ましい。上司や部下、他部門などの利害関係者の力関係を洞察し、駆け引きを行い、合意形成をしながら相手を自分の意図どおりに動かすことを目指す。
 では、この主となる「影響力」はどのように上げていくべきであろうか。ポイントは、この「影響力」の「自己増殖性」に注目することである。概略を説明する(図2)。

 

社内イノベータ 図2

 

 まず自身が図の中心の、部下をもつ管理職・リーダーとしよう。管理職としては、なんといっても自分の部下に能力を発揮してもらい、チームとしてミッションを果たし成果を出すことが第一である。その取り組みの中で部下からから支持され、部下への影響力をもつことを目指すことが第一歩となる。チームとしてのミッションを果たし、部下への影響力が上がると、その管理職のことを上司も無碍にできなくなり、上司からの評価もあがる。
 上司への影響力があれば、その力を借りて他の管理職やさらには他部署も巻き込みやすくなる。他部署の巻き込みなど、自らも積極的に働きかけて社内の連携促進に貢献すれば、さらに上の上司や経営層へのアプローチもしやすくなる。大抵の経営層は、組織の縦割りで悩んでおり、連携を促進するメンバーには一目置くからである。一方、仕事をする上での他メンバーへの依存度は、基本的には低く保っておく。他メンバーに依存すればするほど力関係は弱くなり、影響力が低下するためである。
 このようにして、組織内の上下左右に「影響力」を増殖させることで、自分のやりたい活動の自由度を高めることができる。自由度を高めた上でより大きな成果を出すことができれば、自身の「権限」の強化につながり、影響力をさらに拡大しやすくなる。社内ポリティクスに抵抗感のある技術者は、社内ポリティクスは組織への影響力の好循環スパイラルをつくる一種の「ゲーム」であると割りきり、むしろ楽しむくらいのマインドセットをもつのがよいかもしれない。
 次回のコラムでは、「影響力」を上げるためのポイントについて具体的に考えてみたい。主なキーワードは「信頼をつくる」「チームとしての成果を出す」「相手の欲しい“モノ”“情報”を提供する」「部下の“民意”をつかむ」「直属の上司を味方につける」「組織連携を促進する」「経営層、キーパーソンに自分を認識してもらう」である。

 

 

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