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IoT、AI時代のビジネスエコシステムの本質は“モノとヒトとの意味の変革”である

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

 Harvard Business Reviewの日本語版であるDIAMONDハーバード・ビジネスレビュー2017年6月号の特集は『ビジネスエコシステム 協働と競争の戦略』です。全ての業界、産業において経営・事業戦略の重点が、製品・サービスを創り出すバリューチェーンからそれを含んだビジネスモデルとエコシステムにシフトしています。もちろんこれは、製品・サービスを軽視するということではありません。強い製品・サービス維持し向上させるためにも、ビジネスエコシステムがより重要になってきているのです。
 一方で自社内を眺めてみると、強い技術をベースにした製品文化が中心にあり、ビジネスエコシステムといった言葉はときおり経営トップや企画部門から出されるものの、実質的な議論やその実行がなされていないということがほとんどではないでしょうか。
 多くの日本企業は製品イノベーション力が強いだけに、戦略軸をビジネスエコシステムにシフトさせるのは容易ではありません。ほとんどの人はビジネスエコシステムを概念では理解しています。しかし、企業文化、人と組織の思考と行動を変革するのは難しいのです。その結果、技術も製品も大した実績はないが、捨てるものや失うものもない新規参入者やベンチャー企業に優位性が出てくるのです。
 私自身も20年以上に渡りこのビジネスエコシステムの変革に挑戦してきました。ビジネススキーム、アライアンスネットワーク、オープンアーキテクチャなど言葉は変遷してきましたが、テーマは一貫し、業界の枠を越え破壊するビジネスエコシステムをどう仕掛けるかにコンサルティング活動の大半の時間を費やしてきました。
 そしてこの数年、第4次産業革命とまで言われているモノのインターネット、いわゆるIoT(Internet of Things)、さらに人工知能;AI(Artificial Intelligence)が爆発的に普及しつつある中、あらゆるモノがつながり、そのネットワーク自身が学習することが全ての根底になるとすれば、現在から2020年までの時間は、第4次産業革命という電車路線の「終電」の時間にあたるのではないでしょうか。

■なぜビジネスエコシステムが戦略の基軸といわれるようになったのか

 経営企画や事業戦略部門等だけでなく、研究開発、設計、生産部門はもちろん、総務、経理、法務、知財部門も含めた全ての人にとって、ビジネスエコシステムの知見を持ち、関わるセンスを身につけるということは必須だと思います。しかしながら実際は、ビジネスエコシステムとはどのようなもので、なぜ普及してきたのかということに疑問を持つ人が多いと思います。
 そこでまず、なぜビジネスエコシステムが普及してきたのかを簡単に説明します。主軸となる大きな時代のトレンドは、単一要因では発生しません。ビジネスエコシステムも同様です。ビジネスエコシステムが普及してきた背景には以下の三つがあります。

①    先進国のユーザーは過去の業界単位での機能提案に食傷している
 30年程前から、日本をはじめとするいわゆる先進国では、生活を支える機能のほとんどが何らかの製品・サービスによってカバーされています。すなわち、市場の成熟化です。もちろんその中で技術や製品・サービスの進化はありますが、多くは新しい市場の創造ではなく、既存のものの取り替えです。この製品・サービスの機能はそもそも作り手の単位で形成されてきており、具体的にはそれが業界団体になっています。しかしユーザーから見れば、そこには全く意味がありません。ユーザーは自身の目的を達成できさえすれば良いのです。
 そこで、いくつかの業界でイノベーターが現れます。顧客視点で複数業界をまとめ、その機能を提供する企業です。日本でも例えばハードではキーエンス、ミスミなど、ネットビジネスでは楽天をはじめ多くの企業が業界を破壊するような形で参入しながら、ユーザーの満足を獲得しています。この現象は「ソリューション」「製造業のサービス化」「モノからコトへの変革」など様々なキーワードで問題視されてきましたが、全ての根底には業界の閉じられた範囲での機能主義、技術・製品主義の限界であったといえます。

②    IoTで「つながる」ことは止められない
 生活者として我々はインターネットの恩恵を受け、またネットなしでは生きていけないほどになっています。ネット化の本質は「過去の壁を越えてつながる」ということです。①でも述べましたが、生活者、ユーザーとってみれば、業界や企業、ましてやその中の部門・組織などは全く関係ありません。
 この「つながる」ことがこれまではPC、サーバー、スマートフォンなど計算機能を持ったものだけでしたが、IoTのムーブメントにより、様々なものにセンサーをつけそのデータをインターネット上に載せ、解析できるようになってきています。蒸気機関、エンジン、電機、高速道路網、テレビなど社会の根底になるものが変化していくことが産業革命と呼ばれてきましたから、IoTも決して大げさな話ではありません。もはや、つながることは誰にも止めることはできないといえます。

③    変化、進化が加速度的に進み、「所有」することがリスクとなった
 一般消費者においてもシェア(共有)やフリーマーケットでの売買など、所有することに関する感覚がすっかり変わってきています。法人においても、土地、機械、設備を保有するのではなく、リースするのは当然というように、他社とシェアすることがリスクをヘッジする方法として積極的に受け入れられています。企業間で重要な経営資産を共有することを「戦略的アライアンス」と呼び最近重視されていますが、「戦略的アライアンス」は経済環境が激しく変化することを前提にしたものです。インターネットでつながることが容易になった現在、資産や資源を自社で囲うのではなく、必要なときに調達できるようにしておくことが可能であり有利です。
 資産の陳腐化が早い時代になった今では、土地や設備などのリアルな保有資産の大きさを重視する考え方ではなく、それをいかに活用するかが大変重要です。

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