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営業担当者の利益マネジメント力を上げ、営業現場の生産性・利益率を高める

ニューチャーネットワークス シニアコンサルタント
張 凌雲

 営業部門に売上を優先させるか、多少売上が下がっても利益を重視させるか、経営トップが常に悩む問題です。メーカーは工場の稼働率を維持するために、販売量の確保、拡大を求めます。売上の伸びに比例して利益も伸びればよいのですが、市場の競争が激しく買い手の交渉力が強い業界では、売上を伸ばすために値引きが行われ、売上の伸びほど利益を確保できません。それでも限界利益を上回る利益が確保できているなら売るという方針の企業は多いと思います。この「限界利益を上回る場合は売る」という状況が、営業現場を疲弊させ、収益改善の機会を逃しています。一定の売上を確保し、利益を上げるためには、自社の製品を売るべき顧客を明確にし、利益が取れる営業の仕組みづくりに取り組む必要があります。そのためには、営業担当者の利益マネジメント力を上げる必要があります。今回のコラムでは、営業現場の努力を、利益向上に結びつけるための取り組みを紹介します。

■営業担当者の利益意識を変え、利益が取れる仕組みをつくる

 以前であれば「営業は売上のみ追い求めろ、利益は後からついてくる」と営業部門は売上至上主義でしたが、近年は営業部門でも利益を重視するようになっています。しかし、会社の方針に沿って受注をとっても一向に会社の業績が良くならない組織が多く見受けられます。それは、その組織の営業が管理する利益が間違っているからです。

①粗利益、限界利益ではなく貢献利益を意識する
 営業担当者に「粗利益○○%以上確保」として、営業レベルでの利益管理を行っている企業が多いと思います。または、限界利益で管理している企業もあると思います。営業担当者は、製品を販売する際に一定の粗利益率(または限界利益率)を確保したので損はしていないと思うはずです。粗利益率を確保し、営業利益も確保できるのは、受注後の販売に関わる管理コストが、その企業が想定した範囲である場合です。受注後の手続きに手間がかかる顧客である場合は、販売コストを加味すると赤字になってしまいます。
 営業担当者は、顧客との取引がクロージングするまでに直接かかるコストまで意識して価格交渉をする必要があります。顧客への製品販売が、企業全体の利益にどれだけ貢献したかを意識させることが必要です。会計的には「粗利益(または限界利益)- 直接販売コスト=貢献利益」として算出します。(※本稿における貢献利益を企業によっては「営業利益」として管理しているところもあります。)
 販売コストは正確に把握できることが当然望ましいですが、その仕組みを構築するためにはコストがかかります。まずは見積り1回○○円、顧客訪問1時間あたり○○円など、顧客とのやり取りの単価を設定し、おおよそのやり取りの回数をもとに算出します。

②貢献利益率が高い顧客に営業活動を振り分ける
 顧客別に貢献利益を把握することは、自社がほんとうに利益を確保できている顧客を明らかにします。競合と比較して粗利率は同じだが、営業利益率になると差を付けられているという企業は、競合が手間のかからない売り先を囲っているのに対して、自社は手間がかかる顧客を多く抱えていることが多くあります。そのような企業は、「当社は小回りが利き、顧客対応力があるから手間がかかる顧客からも評価されて一定のシェアを確保している」と勘違いしてコストがかかる顧客を抱え、低利益にあえいでいます。手間がかかる顧客であっても、顧客がその手間に価値を感じ価格に上乗せできればよいですが、実際は価格への転嫁が難しいことがほとんどです。貢献利益率が低い顧客に対する営業活動を減らし、高い貢献利益率が見込める顧客に営業工数を振り分けます。働き方改革で営業活動時間、また営業の支援部門の勤務時間が制限される中、利益に結びつかない活動を極力抑えられ、営業組織の生産性も向上します。

③貢献利益率が低い顧客の利益率を高める
 手間がかかり、貢献利益率が低い顧客であっても、一定の売上は確保できるので簡単に手放すことはできないのが実情です。また、このような顧客は自社との信頼関係が強い場合も多くあります。手間がかかっている原因を分析し、それを解消することで、貢献利益率を高くする取り組みも必要です。
 例えば、ある企業では、顧客からの電話注文の場合、聞き間違いや確認漏れが多く発注ミスが多発していました。メールやFAXで注文内容の証跡が残るように依頼しても、顧客の担当者は外出が多くPCやFAXでの注文は事務所に戻ってから行うので面倒であり、スマートフォンのメール利用も拒まれていました。しかし、普段使い慣れているSNSを使った発注をお願いしたところ抵抗なく引き受けてくれ、顧客との発注内容の確認もし易くなり、発注ミスが大幅になくなり顧客との取引コストを削減することができました。このように、顧客と一緒になり取引プロセスを見直すことで、売上を下げることなく販売コストを削減し、貢献利益率を高めることが可能です。

④貢献利益率が低い製品の販売方法の仕組みを作る
 粗利益ベースで利益率が高い高価格帯の商品と利益率が低い普及品を扱っている企業で、普及品でも高価格帯の製品を売るのと同じように営業しているケースも多く見られます。販売量が多い普及価格帯製品に、高価格帯製品販売の時と同様に顧客への商品説明、複数回の見積り提示、問合せ対応行うことで、営業担当者とサポートスタッフの活動時間が割かれてしまい、高価格帯製品の営業活動時間が削減され、収益性はますます悪化してしまいます。収益性が低い製品に対しては、商談はオンライン、Webでの見積り作成、問合せ対応など高価格帯製品の売り方とは分けた、低コストのオペレーションのルールや仕組みを作る必要があります。

⑤利益を営業担当者の業績評価の対象にする
 多くの企業で営業担当者の業績評価の対象は売上であり、利益を評価対象にしていません。利益の責任は、事業部長、または営業管理部長やマーケティング部長が担っています。担当者レベルで利益責任を持たせると、利益が取れない顧客へ営業しなくなり販売量が減る懸念があるためです。しかし、売上目標と利益目標の両方を課すことで、利益が取れる顧客の販売量をどうやって増やすか、どうやって顧客に効率よく製品を売るか、個々の営業担当者に創意工夫が求められ、強い営業組織を作り上げることができます。

■働き方改革、DXにより顧客との接点が変わる中、利益が取れる独自の営業スタイルの確立が必要

 新型コロナウイルスによる働き方の変化により、営業スタイルも「訪問しない営業のインサイドセールス」が増え、オンラインでの商談、商品説明会に変化しています。これまでの訪問ありきの営業スタイルが変わり、製品の価値伝達の方法が多様化しました。
 たとえ利益率が低い顧客であっても、営業方法を変え販売コストを極限まで下げれば、結果として利益率の高い顧客になる可能性もあります。顧客との接点、取引方法が変わる中、顧客に対する売り物の利益だけでなく、モノを売る時のサービスも含めて利益管理する必要があります。

 

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