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なぜわが社は顧客の価値観変化についていけないのだろうか?

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

 これまでも述べてきた顧客の価値観の変化。モノからコトへ、所有から利用へなど、ひとつのベネフィットから複合したベネフィットへ、閉じた組織から新たな繋がり、出会いへなどと顧客の価値観には大きな変化が見られます。それらを一言でいえばフィジカル(物理的)な価値から経験価値への変化です。ウーバーなどの配車アプリやエアビーアンドビーなどの民泊、シェアオフィスなど自分で経験をすれば、世の中の変化や顧客の価値観は実感できます。しかし一旦企業側の立場になると、消費者であった自分ががらりと変わり、顧客の価値観の変化に対し、鈍感な自分が出てきてしまいます。一体なぜなのでしょうか?
 それは工業化時代の文化を引きずっているからだと思います。工業化の文化とは、大規模な資本で、莫大な規模の設備投資を行い、均一なモノを大量に作り、大量に販売するという思考、行動様式です。もちろん現在は、多品種少量、高機能であったり、情報やサービスなどが同時に提供されたりするなどの高度化は進んでいますが、本質的な体質は工業化の文化なのです。工業化自体が悪いのではありませんが、経験価値経済においては、かなりのハンディキャップになってしまいます。具体的には以下の3つのことが壁となっていると考えられます。

■モノへの過度なこだわり

 モノづくりは1990年初頭のバブル崩壊後、多くの日本企業が危機的状況となった際、マスコミの影響もあり、神格化されてきました。日本人のモノづくりのこだわりは世界で一番であり、そのこだわりが日本を復活させるだろうと。しかしその結果、経済のサービス化やインターネット、IoT、AIなどの情報技術の活用に遅れをとりました。また既設の製造設備の固定費を回収するために大量のモノを市場に流し、その結果長期のデフレとなりました。ものづくりを支える終身雇用的習慣も、企業の固定費を高止まりにし、ますますモノにこだわる文化を助長したと思います。「お客様満足」とは言葉では言うものの、企業の内部事情のために市場や顧客を見てきたのではないでしょうか。
 企業の立場でいうと、「これまで蓄積してきた知識、スキル、設備、人材を守るためには、顧客の価値観変化への対応には限界がある」といった前提を置いて仕事をしてきたのだと思います。働く人の多くは、個人的には顧客の価値観の変化には気が付いていても、それに蓋をしてきたのだと思います。

■厳しい業績評価

 2000年ごろから企業の経営管理にもITツールの導入がすすみ、ERPやバランストスコアカードなどで、組織や個人の業績管理を細かく、リアルタイムでできるようになりました。その業績管理は、顧客の変化に伴う新製品・新事業やサービスの企画創造よりも、手っ取り早い過去と現在の業績比較に活用されていきました。同時に成果主義を重視した賃金制度も導入され、管理は一層厳しくなりました。
 管理が厳しくなり、給与もそれに連動するとなると、多くの人は、新たなチャレンジではなく、自分の現在の役割、持ち場を固めるようになります。その結果、組織もそこにいる個人も保守的になり、外部の変化に鈍感になります。挑戦や成長よりも、守りを重視するようになります
 顧客の価値観つまり心理的な変化は、中々データになりにくいものです。データになったころには市場での競争はすでに終わっているかもしれません。センスを磨いた社員が、その変化の兆しを肌身で感じ、商品やサービスに反映させるものです。そこにはある程度の自由度が必要となります。細かな行動管理、業績管理からはクリエイティブなものは生まれません。

■ピラミット型組織と顧客から遠い経営トップ

 ある企業で、数年の間、全役員が出席する経営会議で決定した新商品の上市後の販売が振るわず、特別な理由から経営会議を通さずに上市した新商品の売れ行きが良いということが続いたのだそうです。とても真摯な役員の方々で、そのような実態を率直に受け止め、原因を考えた結果が、「毎日黒い高級車に乗って会社と家を往復している役員が一番消費者から遠い存在なのに、商品の売れ行きなどに口を出していること自体がおかしい。経営者にはもっと別の役割があるはずだ」といったことだったようです。適切な判断だったと思います。
 これも工業化時代のなごりなのでしょうか、組織は基本的にピラミット型です。命令、実行が確実に行われるピラミット型組織は、設備投資型の製造業や、銀行、電力などの規制産業には適しておりそれ自体に問題があるわけではありませんが、顧客の変化には対応しにくい組織構造です。顧客の変化を柔軟に先取りして対応するとなると、顧客に近い組織に権限を委譲し、任せないといけません。
 多くの日本企業が、過去の組織構造を変えずに今日に至っていることが多く、顧客価値の変化を取り込みにくい構造のままです。

 以上、顧客の価値観の変化へ対応するにあたっての3つの壁について述べましたが、このような現状の冷静な客観化が、将来変化するためには必要だと思います。そこで救われるのは、多くの企業の働く個人は時代の流れに敏感で、顧客の立場で考え、その価値観の変化も良く理解している人が多いことです。そういったしっかりした個人が存在することが日本企業の強みになると期待します。

 

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