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「SWOT分析あたりから戦略発想が停滞するのをどう打破するか」顧客経験価値のための商品企画開発の実践 第34回

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

自前主義の発想は行き詰まりの原因

SWOT分析は事業戦略のフレームの中で最も古典的でポピュラーなもので、多くの方が使った経験があると思います。しかし、SWOT分析に至るまで、マクロ環境分析、有望市場分析、ターゲット顧客分析、競合分析などを一通り行ってきていますが、このSWOT分析あたりで戦略発想が停滞することが多くあります。SWOT分析は分析フェーズと戦略フェーズのちょうど折り返し地点ですが、この時点で可能性と制約条件が整理されると同時に、戦略の方向性が限られてくることも多く、その中で現実的な戦略を求められるため、壁にぶち当たり停滞するのだと思います。

私の経験からですが、その戦略発想の停滞の原因の多くは、自社で全てを行おうとすること、自前主義へのこだわりです。この自前主義は、特に顧客経験価値重視の商品開発を志向しているのであれば矛盾した話です。なぜなら顧客経験価値重視の商品開発の戦略のキーは、どのようなエコシステム、そしてビジネスモデルを構築するかだからです。つまり自社にとって効果的なパートナーといかにアライアンス、コラボレーションするかを考えることが必要なのです。

従ってSWOT分析は、自社の商品の自前の経営資源による成功ではなく、企画した独自の顧客経験価値を実現、発展させるために、いかに有利なエコシステム、ビジネスモデルを構築できるかという視点で分析し発想しなければなりません。

その発想に立ち、自社の強み、機会を見直せば全く異なる発想が生まれるはずです。自社の強みがたとえ限られたものでも、それを活用したいパートナーとの提携に大きな機会があるはずです。また魅力的な顧客経験価値を構想できてさえいれば、それに賛同してくれる顧客セグメントを機会にできるかも知れません。もちろん大きなセグメントでなくニッチであっても、他のセグメントに大きな影響を与えてくれる存在であれば、機会は大きく広がる可能生があります。

ブランド力、資金力がないといった弱みも克服できる発想がある

さらには、企画した顧客経験価値が魅力的でかつ自社の強みもあるが、会社のブランド力、資金力がないといった弱みを持っていたとしても、むしろあまり知られていない、力のない会社なので、アライアンスを組みやすいということも考えられます。実際巨大で力のある企業は、事業を多角化していることもあり、パートナーと競合になる部分が多かったり、支配的な関係になったりする可能生も高く、アライアンスを組みにくいことも多いのです。小さな無名の会社がアライアンスの中核になることは構想と実行力次第だと思います。このような一見弱みだと思われることを強みに変える発想を「逆転の発想」と呼び、競合が予想しない展開なので、戦略的には効果的です。

時間をかけて段階を踏んで強みを築く戦略もある

空調器機で今や世界No.1シェアのダイキン工業は、1990年代半ばに日本企業としては最後発で中国市場に参入しましたが、最初の10年間はミシン器機メーカーと現地合弁会社を設立し、業務用エアコンにおいて中国国内でトップシェアを獲得し、そのシェアの大きさとインバーター技術、品質の高さを強みに、中国最大の空調器機企業である格力と、調達、生産などの合弁会社を設立しました。その結果,低コスト生産に成功し、世界No.1シェアの礎を構築しました。このケースで注目すべきは、中国市場における強みを、10年かけてミシン器機メーカーと合弁会社をつくり構築し、その上で格力との提携交渉を行ったことです。10年かけて強みを構築する長期的視点を持った経営者の構想力と現場の実行力の高さが成功をつくったのです。このように時間を掛けて段階的に強みを構築していくことも、SWOT分析のような分析を冷静に行なうことで導き出せます。

勝てる領域に思い切って絞り込む

どう組み立てても勝てるシナリオが書けない場合は、強みが発揮でき、必ず勝てる事業領域に思い切って絞り込むこと、ニッチ戦略をお勧めしています。狭い領域出であってもカテゴリーNo.1になれば、高利益になり、再投資ができます。またブランド力、知名度も高まります。さらに顧客からのフィードバックも多く、組織の学習レベルが高まり、高い成長をもたらします。資源の集中はビジネスで最も効果的な戦略の一つです。反対に広い市場領域で戦おうとすると資源が分散し、どのカテゴリーでもトップシェアをとれず、低収益となり、ブランドが毀損し、再投資がしにくくなります。

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