情報やサービスが商品開発に組み込まれているか
顧客が商品の必要性を感じ、選択し、購入し、使って、その間修理し、最後に廃棄し、買い替えるまで、商品にかかわる情報や提供側とのコミュニケーションは、もっと重要な要素です。なぜならそのような情報なくしては、顧客は商品から十分な価値を引き出せないからです。しかし企業の多くは、商品のハード的側面だけを重視し、情報面を重視していません。その結果いくらよいハードを開発しても商品価値全体で高い価値を発揮できていないと思います。今回のコラムは商品における情報の要素の重要性に関してお伝えします。
■情報を基軸に商品やサービスが購入され利用される現実
スマートフォンなど情報機器が隅々まで普及することで、商品の購入、利用にあっては、“情報”がとても重要になっています。何か新しいものを購入する際は、消費者でも法人でも小売りの店頭に行ったり、出入りの業者に直接問い合わせたりする機会よりもインターネットで調べることが多くなっています。つまり顧客のファーストコンタクトがインターネットの情報なのです。また、購入にあたっての比較検討は、リアルな店頭に行ってみるよりもネットの比較サイトを検索します。顧客の商品選択もまたネットです。消耗品であればこの段階でネットで購入することが多いと思います。自動車、家具、住宅設備などの耐久消費財の場合は、店頭で現物を見たり、触れたりしますが、そういった耐久消費財であっても、時間がない人、いますぐに必要な人はネットで購入する場合も少なくありません。購入後の使用段階ではどうでしょうか。詳しい利用方法、より高度な使い方など製品の機能を十分に引き出すためのノウハウや故障時の対応もまたネットで調べることが多いと思います。
このように、多くの商品が、購入前、購入時、購入後(使用時)、廃棄買い替え時、顧客経験価値のライフサイクルすべてに渡って、商品そのものだけでなく商品にかかわる情報を基軸に取引が行われています。この購入前、購入時に関して、インターネット化をいち早く、しかもグローバルレベルで展開したのが米国アマゾンであり、日本でいえば楽天、中国であればアリババなどのECサイトです。
TVショッピングのジャパネットたかたは、消費者が購入したものの使い方、修理に関する情報をわかりやすいネット動画で配信し、またコールセンターで徹底してサポートしています。つまり購入後の徹底的なサポートで、リピート購入を獲得しているのです。同時に使用中の顧客が抱える悩み、問題をデータベース化し、仕入れ先のメーカーへの情報提供や価格交渉に役立てていると推測されます。
BtoBビジネスであっても顧客との情報接点は極めて重要です。センサー機器のキーエンス、化学メーカーの三井化学、ドイツに本社を置くランドリー&ホームケア、ビューティーケア、接着技術などを手掛けるヘンケルなどのホームページは、必要な商品に関する情報が顧客視点であり情報も豊富で検索しやすくなっています。最近は、企業の開発調達や、調達部門、その他外部から何かを新しく購入する立場の人たちも働き方改革で、時間内に仕事を終えなければならないため、購買にかかわる労力の省力化を心がけています。実際に会って商品やサービスの話を聴くのは、最終決定段階というケースが多いと思います。また購買にかかわる担当の方が、生まれた時からデジタル機器に囲まれて育った世代、いわゆるデジタルネイティブであることが年々多くなってきていて、商品との接点はネットであることがほとんどと言えます。
以上のようにBtoC、BtoBかかわらず、ほとんどの商品は、顧客との接点がネットであることが多くなってきており、商品そのものだけでなく、商品にかかわる情報がどれほど重要か理解いただけると思います。
■情報が重視されていない商品の現状
商品にかかわる情報は企業の生命線であることはご理解いただけたかと思いますが、企業の現状はどうでしょうか。多くは、顧客の抱える問題、課題の把握、商品の選択、購入、使用、使用後などの顧客経験価値ライフサイクルにかかわる情報を重視していないケースがほとんどではないでしょうか。BtoCであっても、重点商品を除いてホームページは一部の商品の写真と主な用途とスペックだけという企業がまだ多いと思います。
このような状況は、企業が、“商品”の要素から “情報”が抜け落ちているからだと思います。あくまで情報は商品の付属であって、商品そのものではないという考えです。数年前中国のメガディーラーの社長とお会いした際に、「日本の自動車メーカーのサービス、特に情報提供レベルは高くない。ドイツ車とは比べ物にならない。韓国車と比較してもよくない。」と言われたことがあります。日本企業はモノづくりが得意なので、それほど多くの情報提供は不要だと考えているのだと思いました。
しかし顧客の立場で考えてみると、情報も重要な商品の一部であることがわかります。顧客は、自らが抱える問題、課題、商品の選択、購入、使用、使用後などの顧客経験価値ライフサイクルを通じて、情報を得ることで安心し、嬉しく感じ、また情報をもとに考え判断します。商品とのかかわりは、商品を利用している時間の物理的効果だけではありません、その前後、または長い間の関わり(経験)を通じて常に感じ、考えるもので、そこで情報は欠かせないものです。
■IoT、AIの活用で商品の使用状況をモニタリングできるようになってきた
最近は、モノのインターネット、いわゆるIoT(Internet of Things)を活用して、商品の使用状況を把握し、そのデータをAI(Artificial Intelligence)で解析し、顧客に有用データをフィードバックしたり、自動制御したりする企業も出てきました。
よく例に出されるのが、建設機械メーカーコマツのKOMTRAX(コムトラックス)です。KOMTRAX とは、GPSを搭載したコマツの建設機械の稼働状況をリアルタイムで把握するシステムです。機械の場所、エンジンの稼働状況、燃料残量などがコマツのオフィスで分かる仕組みです。KOMTRAXにより顧客は、建設機械の稼働の無駄、効率的配置、メンテナンスのタイミングの把握などができます。メーカーであるコマツ側も、このKOMTRAXからの情報を顧客の機械の利用状況、故障原因など商品にかかわる情報の把握から、建設機械の需要予測、コマツのサプライヤーの発注予測までに活用しています。
最近の自動車もようやくIoT化され始め、自分のスマホで、施錠や窓の状況、燃料の残量などがわかりますし、乗車前外から目的地をカーナビでセットできるようになってきています。電気を消費する住設機器であれば、電力消費から各機器の使用状況も把握できるようになりました。
このように“つながる商品”が多くなっていくと、つながってサービスすることが商品となっていきます。そのような背景もあり、シェアリングエコノミーやサブスクリプションといった商品を所有するのではなく、必要な時に利用するサービスも生まれ、急速に成長しています。
このように“つながる商品”が多くなっていくと、顧客経験価値のライフサイクルとの情報の関わりを持っていない企業は、いくら良いハードを企画しても、かなり劣勢に立ってしまいます。
■これからは商品そのものに情報要素が組み込まれていることが必須
メーカーで商品開発部門というとモノだけ、ハードだけの開発をする組織である企業が多いと思いますが、これからは顧客経験価値のライフサイクルにかかわる情報を含めた商品開発部門でなければ、通用しない時代に入ってきています。
しかし、会社の組織体制を振り返ってみると、ほとんどの企業は、商品開発部門と顧客にかかわる情報を把握している部門が分かれていますし、連携するようにはなっていません。商品開発部門は、数か月に一回、分析され、抽象化された状態のまとまった顧客の情報を見させられることがほとんどだと思います。また顧客サポートなどの顧客情報との接点をもつ組織は、顧客クレーム処理などの顧客対応に追われています。
これは商品開発部門が、ハードの商品を開発することだけの組織構造になっていること、先ほども挙げた商品開発という組織のミッションに、顧客経験価値にかかわる情報開発を排除してしまっていることに原因があります。したがって商品開発という組織のミッションを設定し直す必要があります。また実際商品の中核に情報要素が組み込まれていなければなりません。