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つながりとそれを活かす努力が人生を決める

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

■「人の精神」は多くの人を通じて伝わり、発展していく

 私が独立し弊社を立ち上げてから2年半ほど、コンサルタントの先輩と事務所をシェアしていた時期がありました。その先輩は外資系コンサルティング会社の副社長まで務め上げ、その後ITアウトソーシング会社を設立し、その会社を大手SIerに売却して、大成功を収められました。その後は発展途上国支援の仕事をされていましたが、2年ほど前に癌が見つかり、先日永眠されました。ご本人の「葬儀は行わず、代わりに自分の思い出を題材に親しかった人で集まって楽しく会合をやってくれ」との希望で、その方の偲ぶ会が先日執り行われました。
 偲ぶ会では独立前に所属していたコンサルティング会社の先輩、同僚や、事務所をシェアしていた頃に出会った多くの方と再会できました。そして、その再会から新しいプロジェクトの話がいくつも生まれました。またゆっくり話をする機会を創ろうという話も出ました。
 亡くなった先輩は一橋大学の探検部を創設された方で、「不可能に常に明るくチャレンジする」ことをとても大事にしていましたので、そういった精神、考えは今回の偲ぶ会に集まった皆さんの中にしっかりと刻まれていました。人は肉体的な限界から死んだとしても、「精神」はその人を知る多くの人を通じて伝わり、発展していくのだと実感しました。そういった意味では、人に「死」はないのだと思います。

■人とのつながりは「人生の意味」そのもの

 弊社の創業時代をご一緒させていただいた先輩の死を切っ掛けに、創業してからの20余年を少し振り返ってみると、私自身とは、つながり、今風に言うと「ネットワーク」そのものであることをあらためて感じました。自分を表すものは、過去の自分が所属していたメーカー、コンサルティング会社であり、お付き合いただいるお客様、パートナー、学生時代の友人などとのつながりなのです。つながりが一連の文章の様に私や私の仕事、生活という意味を創っているのだと思います。
 このつながりは止まっていません。常に時代の影響を受け、その中で個人は常に何らかのメッセージを発信し、互いに影響し合い、変容し、新たなコトを創り上げていきます。そういったダイナミックなものです。その意味のくくりの「場」が職場であり、趣味の会であり、友人関係であり、人生そのものなのだと思います。

■「つながり」はどのようにしてつくられるか?

 会社を創業してからも実に多くの人と出会い、また別れも沢山ありました。そのような自分自身のつながりを振り返ってみると、つながりとは偶然の出会いからできるものも多いですが、会うべくして会った、偶然ではないという人も多い気がします。また意識せずとも自然と離れていった、時には意志をもってお付き合いを切らないといけないこともありました。一旦出会ってあまり関係が深くなかったり、その時の状況では関係が良くなかった人でも、その後お互いに予想していなかったような関係に発展していくこともあります。自分自身、変わらない一貫したことを持ちながらも、常に変化しているためなのでしょう。
 結局、つながりとは現在の自分自身そのものではありますが、偶然も含めすべて自分自身その時々の考え方や姿勢そのものなのだと思います。

■つながりこそ価値ある資産ではないか

 私事で恐縮ですが、7年前に80歳で亡くなった叔母は昔、一杯飲み屋さんを経営していました。20年以上も前にお店を閉めたにも関わらず、彼女が80歳を過ぎてからも朝から晩まで「自宅」という場に集まるお店のお客が途切れませんでした。遊びに来る人が野菜や魚などを置いていってくれることもありました。そうやって毎日来てくれるお客のおかげで、夫が60代で亡くなってからずっと一人暮らしが続き、金銭的財産はほとんどなかったはずの叔母ですが、何不自由なく楽しく暮らすことができて、本当に幸せそうでした。
 叔母の生き方から考えてみると、貯蓄、不動産といった金銭的な財産よりも、人とのつながりがもっとも重要な財産なのだと思います。何かを溜め込み抱えたままで死ぬより、そういったものをうまく使いながら楽しく生きていく、人とつながっていくことで、生活に必要なモノやカネは適度に流れていくのでしょう。
 そう考えると「退職まで貯蓄がいくらなければ貧困になる。今のうちに稼がないと・・・」と神経質になるのではなく、つながりを創ることを意識していった方が良いような気がします。ビジネスに置き換えると、財務的な財産を必要以上に貯めるよりも、必要なヒト、モノ、カネが適度に流れていくネットワークを構築し、運用している方が、変化に対応しやすく活性化するのではないでしょうか。良いつながりをつくることにこそ投資をする、そうすることで偶然も含めて価値ある機会に恵まれ、さらに良いつながりができていくはずです。

■仕事の仕方を変えよう

 良きつながりは、ヒトとヒトだけでなく、ヒトとモノ、ヒトと動物や自然、さらにはモノとモノ、モノと自然など様々です。それらのつながりが、環境と人にとって最適になっていくようにしたいと考えると、仕事の仕方、暮らし方を見直す機会になるのではないでしょうか。
 会社でも、内向きでルールばかりが目立ち自由度に欠ける組織は、そこにいる人の価値を損なってしまいます。人を活かし、良きつながりを創りたいのならば、ルールは最低限にし、人を信じて任せ、自由度を極限まで許容し、自発的に動ける環境にしないといけません。そのためには「何のために仕事をするのか」「仕事を通じてどのような価値を創造するのか」といった理念をしっかりと共有し,それを各個人が解釈し、具体的な意味=つながりを形成していく組織であるべきです。
 また仕事を画一的にするのではなく、各人の独自性を重視し、多様な能力、知識から独自のつながり、すなわち意味を創り出すような環境が求められます。新しい価値とは命令系のトップダウンでは出てきません。自由度、自発性、独自性を上げる環境から生まれます。
 以前3Mの役員の方から「15%カルチャー」に関してのお話を伺いました。「15%カルチャー」とは「3M社員であれば誰もが執務時間の15%を自分個人の興味のあるテーマに使うことができる」もので、「これは上司といえども侵害できない権利である」ということでした。これは3Mの経営思想の根本に「人間は自由である」「同時に自由は責任を伴う」という精神があるためだと伺いました。これまで素晴らしい独自製品、サービスを生み出し、近年も最高の財務業績も上げている3Mの根本原理や考えから学ぶことは多いと思います。

■IoTとは良きつながりをつくる仕組み

 すでにバズワード化してしまっている「IoT」ですが、時代の大きな潮流であることには違いありません。このIoTでどのような社会を創るかは我々自身の理念、考え次第だと思います。人や自然を支配するものではなく、それぞれが活き活きと存在し、活性化し、そして新たなつながりが価値を生み出すものでなければなりません。
 その点で、IoTでビジネスを語る前に、私たちがIoTを通じてどんな社会を創っていくのかというソーシャルデザインが考えられていなければなりません。つながりとは、人の精神、考えを表すものだからです。

 

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