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これまでの10年を振り返り、2010年を考える

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

2010年新年あけましておめでとうございます。
皆様そして日本、グローバル社会にとって、よい年になりますよう、心からお祈りいたします。年頭にあたり、経営コンサルタントであり、小さな会社の一経営者でもある私の考えを述べさせて頂きたく思います。皆様の経営のご参考になれば幸いです。
 21世紀に入り既に10年という年月が経ちました。2010年という1年を考える際に、反省も含めて、日本企業にとってこの10年とはどの様な時代であったのか、改めて振り返りが必要だと思われます。私自身も産業人そして一経営コンサルタントとして自戒を込めて、反省点を5つ列挙すると以下の様なものになります。

  1. 情報通信、金融産業などでグローバルリーダーシップを握った米国の経済、経営システムに揺さぶられ続け、冷静な視点で真の日本企業の強みを認識しきれず、それが活かされる事業領域、ビジネスモデルも見つけ出せなかった。
  2. コスト管理や成果主義の徹底により既存事業の生産性は著しく改善された一方で、新分野の成長戦略に挑戦する人が、経営トップ層はじめ社内にいなくなってしまった。新分野への挑戦は社内では「不利」と考えられる傾向が強くなった。
  3. 既に20年前に物質的に豊かな時代となったにもかかわらず、もの中心、そして技術、機能開発中心のビジネススタイルを変えようとしなかった。情報、知識社会において、日本社会が歴史的に培ってきた精神文化、環境意識、物事のプロセスを楽しむといった強みの観点で技術などの専門知識を組み立て直すことができなかった。
  4. フラット化するグローバル社会において、政府も企業も、社会の基盤をささえる働く人の知識・スキルの転換、発展向上への取り組みがほとんどなされなかった。その一方で厳しい市場原理を導入していき、日本社会の最大の財産である質の高い労働力であった中流層が減少し、「格差」という社会問題をつくりだした。
  5. 経済の停滞と危機的状況に際し、日本をリードすべき企業の経営幹部と管理職の多くが個人の生活や立場を守ることに気を取られ、会社にしがみつき、保身的になり、志をもった挑戦、変革がなされなくなってしまった。それに引きずられ若手社員の挑戦意欲も低下し、むしろ会社に対する依存心が高まった。

 リーマンショック後オバマ政権に変わり大きな政策転換を行いつつも、軍事、金融、情報通信ビジネスなどで依然覇権をにぎる米国。莫大な需要を背景に、いまや世界経済の牽引役となった高成長の中国・インド。そして国家として見れば人口、GDPともに世界ナンバーワンとなったEU(欧州連合)など。グローバルな視点で冷静に考えてみると、2010以降、日本人、日本企業の居場所はどこにあるのだろうか、このままでいくと存在感がなくなるのではないかと強い不安を覚えます。これまで明治以来先達が命懸けで構築してきた日本社会の豊かさはこのまま徐々に衰退していき、日本のリーダー達はその現状を直視することなく、ますます内向き志向、保身的態度を強めるのではないか、といった危機感をもつのは私だけでしょうか。
  
 では、このような危機的状況になった本質的な原因はどのようなことにあるのでしょうか。知識情報社会への日本の産業構造変化の遅れ、競争の働かないぬるま湯体質の組織、米国型市場競争原理導入の失敗など様々なものが考えられますが、それらの原因的な問題の、さらにその原因を私なりに考えてみると、「自立心の希薄さ」「内発的動機付けの欠如」「グローバル市民意識の低さ」の3つが浮かび上がってきました。
 「自立心の希薄さ」は、日本の共同体意識が逆作用した現象ともいえます。かつては厳しい関係の中で支え合っていた日本の組織集団も、いつしか、もたれ合いの関係に変容してきたのではないでしょうか。成人前までは親に依存し、親もまた自分の存在意義を子に依存し、学生時代は閉じた仲間集団だけの会話が多く、さらに社会人になってからは会社や所属部門に依存してしまう。自分一人でも仕事をつくり出し、成果を出し、生きていけること。しかしその苦しみの中で常に矛盾と戦いながら、周りを尊重し、共存していくような自立型の人材が極めて少なくなっているように思えてなりません。この問題は、個人や家族、企業だけの問題ではなく、戦後、何の疑問も持たず、米国システムの中にどっぷりと浸かってきた日本の政治や社会全体もまた自立意識が欠如していると思います。
 「内発的動機付けの欠如」とは、文字通り何をやるにしても受け身、横並びであるという問題です。企業経営では、近年の経営改革やリストラといった重要な問題でも、他社がやるからウチもやるといった意識。経営コンサルタントや大学の先生が、米国の経営手法がよいと言えば、そのまま取り入れようとする経営者が後を絶ちません。結果として上滑りの経営改革によるたくさんの残骸が残されています。
 自分達は歴史的にどの様な位置づけにあるのか、自分達の特徴や強みとは何か、自分達は何をしたいのか、何をすべきか、ということを学生時代もまた成人してからも自問自答しない人が多くなってしまっていると思います。その一方で、自分を見つめ直し、悩んだりする余裕すら与えられず、いきなりつめたい競争社会に晒され、その結果脱落し、フリーターや転職を繰り返す人も増えています。
 「グローバル市民意識の低さ」とは、企業が社会の法令、ルールを守ることだけではありません。日本や日本企業が、矛盾だらけのグローバル社会に対し、自分自身のポジションを活かして、どんな理念とシステムの提案ができるかということです。例えば「2020年CO2を25%削減」という鳩山首相の世界へのメッセージも、実現は厳しいですが、それ自体はすばらしいことだと思います。しかし、十分な背景認識や理念、独自のシステムのイメージが提案できていないため、説得力、迫力に欠けているように思えます。皆さんの企業はグローバル社会にむけて、魅力的な提案ができていますか。またその実践に本気で取り組んでいますか。経営トップだけではなく、社員一人一人が社会の矛盾や問題を直視し、国家や地域の枠を超えて、創造的な提案を行い、実践していかなければ、その存在意義は薄れていくでしょう。また我々の社会に対する理念、志のレベルも低いままでは、これまで通り内向き志向の世界が続くでしょう。
 これらの3つの問題は、相互に強く関係しあっており、言わば「日本人・思考停止のサイクル」ともいえる構造的なものであると思われます。また、これらの問題は決して最近始まったことではなく、30年から40年ぐらいのサイクルで、企業だけでなく、日本社会全体が緊張感をなくした時に、繰り返し起こってきたことではないでしょうか。実際に、今、テレビでも流行っているように幕末から明治にかけての日本人や、第2次世界大戦後の日本社会の奇跡的復活などは、「やればできる日本人」とその一方で「日本人・思考停止のサイクル」のわかりやすい例ではないでしょうか。
 
 さてそれでは、これらの反省に立ち、日本、日本企業はどうあるべきか。どう変革すべきかを考えてみたいと思います。私は次の5つの提案を考えてみました。

提案1:社内の競争ルールを明確にし、社員、派遣社員、外部の協力企業が活き活きと活躍できるルールを作る

 日本の組織の最大の問題は、生産性の低さです。その原因は競争ルールが不明確なことに
にあります。ある一定以上の能力がある人が部内で昇進昇格できるかどうかは、そこでどのような人間関係、人脈をつくるかによるため、その摺り合わせのコミュニケーションに膨大な時間と無駄が生じます。一方で上司との摺り合わせで失敗し、昇格ラインから外れた社員のモチベーションは著しく低下します。いずれにせよこれらのほとんどは無駄であり、組織の生産性を低下させる原因です。この問題は、派遣社員や外部の協力企業との関係にもいえることです。経営コンサルティングの現場で感じることですが、経営幹部であっても、経営の成果から自己と組織のやるべきことを考えずに、人間関係をベースとした積み上げ発想で考えてしまっている人が結構います。
 しかし組織の生産性を上げるために、単なる個人主義の組織にしてしまっては、米国と同じモデルとなってしまい意味がありません。そこで評価視点に組織成果への貢献を組み入れること、業績が低い社員や取引先はある程度のセーフネットを用意し救う手をさしのべると共に、訓練の機会を与えることなど、市場競争原理とコミュニティとしての機能を融合させることが大切です。セーフネットに関しては、企業の終身雇用というかたちで、ある種企業に依存しすぎている側面もありますので、政府の役割、負担を多くすることも合わせて考えなければならないと思います。
 

提案2:ビジネスのグローバル化、フラット化に対応し、日本国内での業務を知識統合型業務に集中させる

 これから半世紀の間、企業の業務の中でも、人手のかかる製造などは中国、インドをはじめとした新興国に大きくシフトしていくことは間違いありません。日本企業は、研究、設計、デザイン、利用シーン・スタイルの開発、高度な顧客コミュニケーションなど知識統合型の業務にシフトさせる必要があります。そのためには、高度な専門知識が必要であり、各分野のプロフェッショナルを育成しなければなりません。さらにその高度な知識をもつプロフェッショナルを統合し、マネジメントできるコンサルタントも欠かせません。またそのような高度な知識やマネジメント力を持つ人が、会社や企業内の組織をもっと自由に移動しても安心して暮らせるインフラが必要です。それにともない人材育成の方法や個人のスキルやキャリアのあり方も変革していく必要があります。
 

提案3:低炭素化社会にむけて、各地域社会にあった問題解決ができるよう、日本の技術・製品開発力、利用普及技術などを結集して、グローバルネットワークをつくる

 世界の環境に対する危機感は、日本にとって大きな機会といえます。日本は、米国やロシアのように、石油や天然ガスの利権をめぐって軍事的な圧力を背景に交渉することはできませんし、それらの価格もコントロールできません。しかし、その限りある資源を代替するための技術、製品、プラントなどの開発では十分に戦っていけます。現在のところ携帯電話、PC、電気自動車などで使われているリチュウムイオンバッテリー技術のほとんどは日本の大学、化学メーカー、電機メーカーによるものです。太陽光発電、水資源利用、自動車、電力システム、鉄道システム、バイオテクノロジー、プラント設計技術など日本には環境に関わるたくさんの先端技術とそれをささえる多くの研究者、技術者がいます。
 米国が京都議定書の拒絶をしている間に、日本企業はこれらの環境関連技術を現在の新興国や次世代の新興国にインフラとして提供し、支援し連携することを通じ、環境に関する国際標準を獲得するべきです。そして化石燃料の依存度を下げることで、大国による軍事を背景にした帝国主義的な昔ながらの資源獲得とその影響力を抑止するべきと考えます。
 

提案4:行き過ぎた米国型の市場経済を是正する「グローバル・ガバナンス」を構想し周辺へ呼びかけ、企業活動を通じ実践していく

 米国の行き過ぎた市場経営が、08年秋のリーマンショックを機に、世界経済を恐怖と不安におとしいれました。景気が回復しつつある現在、ともするとそのことが早くも忘れ去られようとしています。我々はこの教訓を活かさなくてはなりません。強欲主義のマネーゲームを放置してきたこと、またそれを利用してきた世界中の個人、企業によって、人が生きていく上で必要な財を、真面目に開発、生産し、サービスする企業や人、行政が、莫大な損失を被ったことを忘れてはなりません。
 英国の世界的に著名な社会学者「アンソニー・ギデンズ」は、今回のような米国の暴走を食い止めるには、グローバルでの統治機構「グローバル・ガバナンス」が必要であると述べています。一企業でできることを超える可能性はあるものの、日本企業は今こそ、自社の強みを活かした世界への貢献の理念を固め、グローバルでの利害関係者である、地域住民、地域社会、顧客、従業員、株主に対し、どの様な貢献ができるのかをしっかりと表明し、実践し、グローバルな信頼関係を構築できるよい機会であると思います。
 

提案5:変革リーダーの育成

 多くの企業で将来の幹部を養成することを狙った「ビジネスリーダー研修」が実施されていますが、それらの多くは社内の組織変革、経営改革をリードする人材育成というより、部長ぐらいにはなれる人のための最低限の知識習得とその確認の儀式、現経営体制の意向の刷り込み、といった側面で終わっています。その結果莫大な研修費を数年間に渡って、大学教授やコンサルタント、研修会社に支払っても、改革のリーダーは一向に生まれてこないという矛盾が続いてしまっているのではないでしょうか。
 今必要な変革のリーダーとは、外部の目で会社や組織を冷静に把握して、内部だけでなく、競合やこれまでには接点のなかった異業種などの外部とのネットワークも駆使して、会社組織だけでなく業界全体に揺さぶりをかけて、ダイナミックに変革していける人材です。それだけのことができる人材は、歴史的、社会的な視点から物事を見ることができなければなりません。同時に情報に敏感で、機を見て仕掛けることができることが求められます。企業はそのような人材を意識して採用し、育てているのでしょうか。
 
これからの変革リーダーに必要な視点をあげてみると、

  • グローバル社会への貢献に関して自分なりのビジョンを持っていること
  • 経済や経営だけでなく、政治、芸術、文化、自然などに広く関心をもち、多面的な価値を理解できること
  • 組織や社会のために自分のエゴを捨て、貢献することに喜びを見いだせること
  • 企業人、産業人として現実の課題と制約を直視しつつ、自尊心と使命感をもち、ビジネスという実践の場で、具体的成果を追求していけること

などです。先も述べましたが、幕末から明治の改革のリーダー、第2次大戦後から這い上がってきたリーダー達から今、学ぶべきことは多いように思えます。
 
 以上少し言い過ぎの面もあるかも知れませんが、日々経営の現場で戦っていらっしゃる皆さんは、様々なプレッシャーの中で、おそらくもっと具体的で強い危機感をお持ちかと察します。しかし、そのような危機感こそ、変革のエネルギーであり、起爆剤となります。先日NHKで放映された「坂の上の雲」でも登場する、正岡子規、秋山好古・真之兄弟、夏目漱石、広瀬武夫などの明治の若きリーダー達もみな理想に燃えながらも、それぞれの立場で悩みながら、しかし冷静に現実と戦ってきました。その成果が100年以上経つ現在も、大切な精神として現代に活かされています。
 

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