大企業とスタートアップ企業によるジョイントベンチャー戦略(出島戦略)第1回
DAYゼロへ投資する時代へ
2017年にシンガポールからスタートし、世界25都市で展開するグローバルベンチャーキャピタルAntlerは、他のベンチャーキャピタルとは一線を画すビジネスモデルです。通常のベンチャーキャピタルは、すでに設立されたスタートアップに投資するのに対し、Antlerは、スタートアップしたい人を無料で育成選抜し、その選抜された人やチームに投資するのです。Antlerは、創業前・アイデア段階の“Day-1”から起業家を支援していることを特徴としています。2023年にAntler Japan (代表取締役:梅澤亮)が設立され、日本でもすでに投資が始まっています。Antlerは、10週間にわたるAntler Cohort Program(アントラーコホートプログラム)で、起業家を育成して投資します。日本での第一回のプログラムには540人の申し込みがあり、選考を通過した62人が参加しました。参加する62人は、現在の職場や学校などから離れ、10週間の間フルコミットで起業の準備に集中し、さらに厳しい選抜過程を経て数チームに投資します。参加する人はさまざまで、年齢も10代から70代まで、職業も一流コンサルティング株式会社を退社した人もいれば、過去スタートアップ企業を起こした経験のある人、大企業の経験者など様々です。
Antlerの急成長を見ていると、ビジネスでの重要資源が、大きな設備、高学歴の人材や労働力、それらを獲得するための大規模な資金などから、アイデアとそれを実現させる人、その人の発想力、創造性、行動力、なによりも強いモチベーションなどに変化してきているように思えます。そしてベンチャーキャピタル自身も、ベンチャー企業を探し、投資する時代から、ベンチャーを起こす人を探し出し、育成する時代へ変化してきているのです。
一方、既存の大企業はどうでしょうか。一般的に大企業に入社する人の動機は、仕事のやりがいや会社や事業とともに成長することが挙げられますが、根底にあるのは、会社が簡単にはつぶれないこと、つまり安心して仕事や暮らしができることです。どうしてもスタートアップ企業を志向する人と大企業を志向する人には、アイデア、発想、行動力そしてモチベーションに大きな開きがあると思われます。そしていまだ多くの学生は大企業を志向しているのが日本の現状です。
日本だけでなく、米国でも大企業の成長率が低い
日本は「失われた30年」と言われ、低成長が続いていますが、米国はどうでしょう。実は米国のGDPの成長のほとんどはGAFAMが占めています。ここ2、30年に設立され、巨大になったITをベースとしたスターアップ企業が米国のGDPの成長を支えているのです。伝統的な大企業をだけ見ると米国も日本もそう変わらず低迷しているのです。
出典: https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/004_03_00.pdf
つまり、日本も米国も、伝統的な大企業が成長するためには、スタートアップ企業の文化や仕組みを取り入れるか、もしくはスタートアップ企業自体を取り込んで成長させることが必要と考えられます。日本だけでみると、米国、中国、インドなどと比較してスタートアップ企業の数自体が少なく、Antlerが実施しているようなスタートアップ企業や人材を発掘し増やす環境をつくらなければなりません。
【参考文献】