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社会課題力をアップさせ常識を超えた壮大な夢を描く

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

 最近、新製品・新事業開発行う際、社会課題を考えることをお勧めしています。なぜならそこには大きく潜在的な手つかずの顧客ニーズが存在しているからです。また、社会課題を一旦認識すれば、想像を超えるような発想力、行動力が生まれます。社会課題は、新製品・新事業開発の原動力になり得るのです。
  しかし社会課題を感じ取り、分析し、そこから事業を見つけるのは、企業にとって遠回りの思考と作業が必要と考えられがちで、取り組みにくいのが正直なところだと思います。今回のコラムではビジネスにおいて社会課題を認識することの有効性と、社会課題を認識するためのスキル「社会課題力アップ」の方法をご紹介します。

■なぜ社会課題なのか

 近年、新規事業開発などでよく「社会課題は何か?」が問われることが多くなってきました。以前は「顧客は誰で、ニーズはあるか?」といった問いが基本的だったと思います。なぜいま社会課題なのでしょうか。いくつか理由があります。
 1つ目は、社会が成熟化し、物的な豊かさに満たされ、現在ターゲットとしている“顧客”のニーズが見つけにくくなったことがあげられます。「家電製品で今すぐ欲しいモノは何か」と聞かれても多くの人は考え込んでしまいます。
 2つ目は顧客が抱える問題や課題が、顧客自身からではなく社会構造的なものから発していることが見えてきたことがあげられます。例えば癌、導尿病、脳梗塞などの生活習慣病は、個人が生活上で気をつけることが大事ですが、現在の国の保険制度にも問題があります。「どうせ個人負担は大きくないのだから病気になったら病院に行けば良い」という意識を持たせているからです。この問題は社会構造がもたらした側面が多いといえます。
 3つ目は、社会経済がネットワークされ、複雑化していることがあげられます。どんな企業、産業であっても、1企業、1産業で顧客のニーズに応えることが難しくなっています。過去の業界で対応できる範囲の問題・課題の多くはすでに既存企業の製品やサービスで満たされています。その一方で、世界中の隅々までインターネットが普及したことなどで、会社、組織、業界の枠組みを越えてネットワークすることが容易になり、たとえ1企業、1産業であっても繋がることで、社会課題の解決に貢献できる可能性が見えてきたことも事実です。企業の発展の道筋として社会課題の解決は大きな可能性になってきたのだと思います。

■社会課題を発見することは普段の仕事からは生まれにくい

 最近日本企業の経営トップでも社会課題を自ら、そして社員に問いかける方が多くなったと思います。しかし現実には社員がその問いかけに答えを持っていることは少ないと思います。なぜでしょうか。それは普段の仕事が社会課題を発見するものとはほど遠いからです。会社組織の多くは機能別に分かれています。機能別組織では専門性が重要です、部長、課長といった管理職であってもやはり部門が担当する機能の専門家です。ましてや担当者は、ある特定機能の担当であることがほとんどです。そのような仕事をしている人にいきなり「社会課題は何か?」と聞いても簡単に答えられません。もちろん社会人ですから、新聞やテレビを通じた常識的な社会問題は認識していると思います。しかし「自社のビジネスになりそうな社会課題」となるとそう簡単ではありません。それなりの時間と知識や情報の収集などが必要です。

■社会課題をいかにセンシングしその本質を把握するか

 「現在の企業は機能的に分業され、中々視野が広がらない。だからと言って今の仕事の時間を割いてまでも社会課題の研究に時間をかけることはできない。」これが現状だと思います。ならばどうするか。私自身が普段、社会課題力アップの方法として実践していることを紹介したいと思います。

社会課題力アップ方法1:自分の身近なことから考える 
 自分に小さな子どもがいて子育てで苦労しているならば、「子育ての環境の問題」。親の介護問題に直面しているのであれば「高齢者問題」。通勤に2時間もかかって疲労するという悩みを持つ人は「都市化問題」といった具合に個人の悩みの多くは社会課題そのものです。その個人の悩みを社会課題として捉え、積極的に情報収集し、課題化し、その解決策を実行する中で社会課題を深く捉えることができるようになると思います。

社会課題力アップ方法2:全く異なる分野の人との交流
 社会とは、企業だけでなく、行政、自治体、NPO、学生、家庭など様々な人や設備、また自然環境で成り立っています。社会課題力を身につけるためには、同じ会社や業界以外の人との交流、情報交換が重要です。企業が、このようなことを個人の努力に任せる時代は終わったと思います。何らかの形で社員にこのような交流機会を与え、そこから積極的に企業として学習していくことが生き残りのためにも必要となってきています。交流、情報交換には様々な方法があります。外部の勉強会、セミナーに参加しても良いですし、自社でセミナー主催し関係者を集めても良いと思います。医療機器メーカーのテルモでは、年間数日間有給で医療現場支援のためのボランディアを社員に勧めており、多くの社員が実践しています。そこで共感した問題意識が、仕事に大きく反映されていると聞きます。

社会課題力アップ方法3:社会課題に関する情報の共有
 社会課題に関して個人として、気づいたこと、そして情報収集したものを、共有する仕組みがあると効果的です。SNSの利用など、現在のネット環境を使えば難しいことではありません。また社内外での勉強会、研究発表会を行っても良いと思います。共有した情報を分析し、そこから自社のビジネスやネットワーキングの可能性を探ることもよいと思います。さらに機会があれば経営トップとの共有も効果的だと思います。そのためには社会課題に関して高い問題意識と感性を持っていることが重要となります。高い問題意識と感性とは、いわば「共感する力」です。社会課題を認識するための「共感する力」はこれまでの競争社会では育ちにくいかも知れません。意識して学習することが必要です。

■常識を超えた壮大な夢をいかに描くか

 社会課題が把握できたらその解決策を構想します。その解決策は、多くの人にとって魅力的でなければなりません。「魅力的」とは具体的に言えば、「自分も参加したいと思うもの」「これまでイメージしていなかった独自性があるもの」「難しいができるかも知れないと思えるもの」です。ここであえて「常識を超えた壮大な夢」という言葉を使ったのは、過去の思考を変え、思い切った発想をしたいからです。最初から今できることばかり考えていては、魅力的な解決策にはなりません。また、自社の枠を越えた発想でなければ結果的に過去の方法の踏襲となります。異業種、異分野との連携が必要なレベルの解決策を構想します。
 例えば自動車メーカーが「貧困家庭の児童の生活環境、教育環境に関する問題・課題」を掲げたとします。解決策=常識を超えた壮大な夢は「無料の学習塾・食事付き」「土日の遊びボランティア・食事付き」「家事支援ボランティア」「無料の食事宅配」などをネットワークしワンストップでサービスを受けられることだとすると、それらを行う自治体、NPOや企業とネットワークをつくり、彼らの活動を活発化させようと大きく構想します。その視点から自動車メーカーを眺めると「移動手段の提供」という貢献が見えます。この夢の実現において「移動手段」は重要です。
 このように社会課題を大きく捉え、大胆な解決策を考え、周りをネットワークし、自社の貢献を新たな視点で発想することが大事です。このような課程を通じて「常識を超えた壮大な夢」を描く思考とスキル磨きます。

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