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顧客は何を購入しているのか

第2回 意識、感情、価値観の変化でこれまでになかった市場が急拡大

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

 2019年7月17日公開のコラム「顧客は何を購入しているのか」では、顧客は製品を購入しているのではなく、「製品・サービスから得られるベネフィットを購入している」ということをお伝えしました。そこでは製品・サービスの利用を通じて得られる顧客経験価値(カスタマーエクスペリエンス)が重要で、企業の製品・サービス企画者はその顧客経験価値をデザインすることが使命であると解説しました。
 今回のコラムでは、新たな顧客ベネフィットや顧客経験価値は、目に見えにくい価値観の変化から発生することを、実例を挙げてお伝えしたいと思います。

■「健康は財産」という考えが浸透し若年層でも健康意識は高い 

 戦後すぐの平均寿命は男性50.06歳、女性53.96歳で、2018年での平均寿命は男性81.25歳、女性87.32歳です。100歳を超える人も年々増加し、2018年では32,241人にのぼるそうです。かつては一生懸命働いて定年後はのんびりと過ごせばそのうち寿命で人生が終わるという風に漠然と考える人が多かったと思います。しかし今は、定年も60歳代まで延び、さらに死ぬまでの時間が長く、その人生の最終章であっても人生を充実させようと考える人が多くなりました。絵を描くこと、写真を撮ること、旅行すること、工芸品をつくることなど、お金と時間があれば何でも楽しめる時代になりました。その人生の最終章を楽しむために「健康」が重要であることに多くの人が気付いています。
 しかし個人にとって「健康」は大変わかりにくい概念です。「健康」である状態では一般に人は「健康」ニーズをあまり感じません。「健康」を損ない病気になって初めて「健康を取り戻したい」という強いニーズが発生します。このように当たり前の状況がなくなったり、損なってしまったりして発生するニーズを、「欠落ニーズ」と私は呼んでいます。欠落して初めて需要が発生するためです。親しい友人関係や家族関係、地域の自然文化なども同じように失ってしまってからその大切さを感じます。
 その欠落ニーズである「健康」が、欠落する前に様々な情報によって掘り起こされています。例えばテレビでは多くの健康に関する番組や企業広告が放映されています。ネットや雑誌でも健康に関する情報は常に目にします。健康を損ない病院などに行っていなくても、多くの健康情報から「自分も思い当たる節があり不安になった」と感じ、それが購買につながることも少なくありません。
 最近ではウェアラブルバイタルセンサーなどで歩数、心拍数、睡眠などのバイタル情報を記録し、スマートフォンでそのデータを目で確認できます。いったんウェアラブルバイタルセンサーを使って自分のバイタル情報を記録しはじめるとやめられなくなるという人も多いようです。さらには自分のDNA情報を検査することもでき、遺伝的にかかりやすい疾病がわかったり、おおよその寿命も予測できたりするといわれています。
 このように消費者は健康に関してきわめて多くの情報に触れ、無意識に健康を意識するようになってきています。それが年齢的に健康を意識し始める中高年だけでなく、大学生などの若年層まで広がっています。「健康」が、フィットネスなどの美容と関連していることや、厳しい競争社会では健康を損なえば人生の大きな損失になってしまう可能性を若い人も理解しているのだと思います。
 このように「健康」は人生を充実させ成功するのための大事な「財産」であるという認識が広まり需要は大きく拡大しました。そして健康には直接関係のない多くの産業も「健康要素」を取り込みビジネス展開しています。しかし、健康ニーズは、発生するタイミングも、種類も、レベルも人それぞれで、把握しにくく、従来の衣食住に直接関連する人の生活基盤ビジネスと比較し、企業にとって極めて取り組みが難しいテーマと言えます。なぜなら「健康」は人の意識や感情、価値観に依存し、それらを引き出さなければならないからです。また「健康」ビジネスは結果が出るのに時間がかかり、かつ直接的な効果がわかりにくいため、顧客の消費行動を継続させたり、関連する健康にかかわる習慣を維持させる、いわゆる「行動変容」を起こしたりするのは容易ではありません。
 健康領域に参入する企業は、人の意識、感情、価値観とそれがけん引する行動に関する知見を増やしていかなければなりません。しかし意識、感情、価値観を分析し、事業に反映させている企業は少ないのが現状です。

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