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中国の自動車産業の現在と未来、その問題点と日本の自動車産業との関係(2)

中国第一汽車集団公司(FAW) 日本支社長
潘 力本(PAN LI BEN)

■今後の中国自動車の発展の展望

現在世界中で直面しているのは環境問題であり、自動車もまた大量なエネルギーを消費するため、環境破壊の原因の一つを作り出しています。そのため、自動車の生産者側は、環境保護のために責任を持って活動し、地球を守るために我々も貢献すべだと考えます。目下、全世界の自動車工場はエコカーをもって今後の戦略の重点課題としています。中国の自動車メーカーも今後の競争の中で生き残るために、全力でエコカーの開発に尽力しなければなりません。実際に中国の第一汽車、東風汽車、上海汽車は目下、低燃費のエコカー開発に巨額の資金を投入しています。
その中でもBYD(中国深圳にある自動車メーカーである、中国の社名は比亚迪汽车公司)はドイツのベンツから共同開発を希望されるなどすでに国外から注目されており、電気自動車の開発にて抜きん出ているといって良いでしょう。
もしも今後欧米及び日本の伝統的な自動車生産技術がリーダー的な役割を保持し続けるとするならば、エコカーの製造はある意味ではすべての自動車メーカーが同じスタートラインの上に立っているといえるでしょう。中国自動車メーカーは未来の競争力のために、生産大国から生産強国に変わるために、エコカーの開発及び製造に努力をしなければならないと思います。
 

2010年7月26日(月)開催 ニューチャーネットワークス アジア事業立ち上げ記念講演会の様子

■中日の自動車業界の交流:回顧と今後の可能性

次に今後の日中間協力の可能性を探る前に、私自身の今までの経緯、経歴をお話致しましょう。
日中両国は一衣帯水の隣国であり、一千年余りの文化交流の歴史を持っています。私自身は家庭環境の影響を受け、中学生の頃から日本文化に対してなみなみならぬ興味を持っていました。そのため、中日間の経済交流に貢献すべく、大学入学後から日本の歴史を学んだのです。
しかし、大変遺憾なことに、中国の文化大革命によって、日本の歴史や文化の研究を続けることができなくなりました。その当時の動乱により、大学の講義は停止、研究所もすべて解散。流れ流れて私を自動車の企業-中国の一汽に入社し、自動車の業界の国際交流の任務を引き受けました。気づけば今では、この領域ですでに40年働いたことになります。
 
1973年9月、第一回日本の工業展覧会は中国北京で開催され、私ははじめて大会の従業員として日本企業の人員と交流をもちました。1978年5月、中国自動車高級実習団の一員としてはじめて日本を訪問。半年滞在し、日本の自動車のメーカーを訪問しましたが、当時日本の自動車の生産の光景に、私は心から驚かされ、深い印象を残しました。
それ以後、中日の自動車界の交流は更に頻繁になり、私はその多くの日本の交流と交渉とすべての第一汽車と国家間のプロジェクトに参加することとなりました。今では日本への訪問は100回を超えています。
私は日本の自動車のエアコンメーカーであるゼクセル(現在すでにフランス会社に買収されましたが)、ステアリングメーカーである光洋精工、ショック・アブゾーバーのメーカーである東機工と第一汽車との合弁会社設立に尽力しました。約2年の協議を経て、1995年前後に、この三社すべて一汽と合弁会社の創立を実現しました。現在第一汽車の経営状況は良好ですがその大きな要因としてこの三社の日中部品合弁会社の効果と利益はとても高く評価されています。
しかしながら第一汽車とこれらの日本自動車部品メーカー各社の連携にはさまざまな苦労が伴いました。まずは日中の社会経済体制・背景の違いがあります。そして次には日中企業文化の違いもあります。特に組織の意思決定方式の違いがあります。すなわち中国はトップダウン方式の意思決定であるのに対し、日本は集団意思決定であるという違いに大いに悩まされたものです。
 
その後日本の自動車メーカーと国家間での協力体制を強化するため、1998年7月に第一汽車の日本支社を設立しました。(FAW日本株式会社)
私は中国第一汽車の駐在総代表、またFAW日本株式会社代表取締役として日本駐在を任命されました。ちょうどそのとき世界経済は大きくグローバル化が進展し、それにともない中国への投資もますます活発化、その流れの中で日本企業の中国投資の動きも大きく変化しました。その時の会社の上層部の人間たちが目指していたことは、日本のトヨタ自動車との連絡を強化することでした。タイミングを見計らい、時機が熟した際にそれを逃すことなく合弁企業設立のための交渉を開始することが任務として与えられました。
着任した後に、私は会社の指示通り、積極的に豊田との交流を持ち、やがて、双方は接触、協議を始めました。2年に渡る交渉を経て、同二社はついに2003年に中国の一汽豊田有限会社を創立する合意を締結したのです。
 
私は長い間自動車業界で、日中間交流の仕事に従事していたため、多数の自動車の部品のメーカー、及び自動車メーカーの合資交渉を整えてきました。それらはラッキーなことに、高い評価を得ています。日中の自動車の業界の交流のためにわずかではありましたが力を尽くしてきたことは、私自身とても意義がある事だと感じています。

■私の総括すべき経験と教訓

それでは、この私の過去の経験を振りかえった上で、総括すべき経験と教訓に値することは何かをお話しできればと思います。
 
①「双方要求大同、存小異」 双方は大同を求め、小異を残す
 
必要な時、思い切って自己の一部の利益や相異点、懸念点を捨て、最大の全体の利益を求める、という意味です。この教訓は二社間の間に起こった問題点を解決した際に学んだ教訓です。かつて合弁会社設立時に非常に苦労した問題は、まずは双方の投資比率、資本比率をどうするのかという点でした。誰が51%占めるのか?どちらが49%占めるのか?どちらが資本比率51%を持ち強い権限を持つか、はなかなか折り合いがつきませんでした。
また、重要なポストへの人材配置についても協議は難航しました。例えば、会長、社長、財務責任者、人事責任者など、会社全体の経営に大きな影響を与えるポストはお互いにポストをゆずりたくありません。
中国語の中で『舎得』という言葉があり、日本語での意味は「捨てても惜しくない」です。この語はとても奥深い哲学の意味があって、それはつまり先に捨てて、後に得る。「捨てる」が先にあり、ようやく「得る」のことができる、という意味です。
私は上記の様な経営に大きな影響を与える部分に関しての折り合いがつかない際には、いつもこの哲学の理念を使って双方を説得しました。ある一点で交渉が決裂している時には、同時にいくつか他の項目についても交渉をさせ、お互いが納得する点を探し出すのです。すると双方はまたさらに強い協力関係を築くことができます。
 
② 双方はお互いに尊重して、お互いに理解して、共勝ちの関係(Win-Winの関係)を実現するために、共同の努力をすること
 
合資は日中企業間の相思相愛をめざすようなものです。みなさん恋愛経験はおありだと思います。男女の恋愛は心から愛することでようやく両思いになれます。結果成功を収めることができます。
中国語に「換位思考」という言葉があり、これは相手の立場に立ってものごとを考えなさい、という意味です。双方に論争が起こった場合、解決しにくい問題に立ち向かう時、もし相手の立場に立って考えてみれば、多くの問題は解決できるでしょう。
 
③ 機会をしっかりつかみ、時を逃さず即断すること。また市場が私達に与える機会を逃さないこと
 
中国の自動車の市場の発展は一定の規則がありました。一定の時間内で、必ず主要な需要がひとつあることです。例えば、前世紀の90年代初期、中国の自動車の部品のメーカーは技術レベルを高めるため、積極的に外国部品メーカーとの協力を求め、そのときに多くの外国の部品のメーカーは中国市場に進出しました。引き続き、90年代後期、自動車完成メーカーは積極的に国外の協力会社を探し始めました。そして多くの世界的な競争力を誇る自動車メーカーは、中国の自動車メーカーと協力関係を提携しました。
ご周知かもしれませんが、中国政府は、中国の自動車のメーカーの対外協力に対し、一種の規制をもうけており、「2枚のカード制度」と呼ばれています。これは、一つの中国自動車メーカーは、二社以上の完成品メーカーと協力することができない、という内容のものです。
中国の第一汽車のケースでは、ドイツのフォルクス・ワーゲン、日本のトヨタと合弁企業を設立した後に、この2枚のカードは使い果たしました。この時に、別の日系大手メーカーから、提携の打診があったのです。しかし時はすでに遅いし、カードは残っていませんでした。タイミングを逃すと大きな損失になりかねない、という教訓です。
 
現在はどうでしょうか?また新しい市場ニーズが現れていることが見て取れると思います。それはつまりエコカー、新しいエネルギーの自動車の協力の需要、日本にあるすぐれたエコカーを開発、生産する技術を中国メーカーは求めているのです。このタイミングを逃すことなく、新しいエネルギーの自動車で優位な企業が、この好機を捉えることができるかどうかにかかっているのかもしれません。

■今後、中国の自動車メーカーが必要とする技術と中国と日本企業との新たな連携の可能性

それでは最後に、私が考える今後の中国の自動車メーカーが必要とする技術と中国と日本企業との新たな連携の可能性についてお話ししたいと思います。
まず必要とする技術についてですが第一に低価格・低燃費自動車の製造技術です。これは先にお話した環境車の開発及び製造技術、主に電気自動車、ハイブリット車の技術のことです。
第二に部品・素材開発技術です。よい部品よい素材なくしてよい車は作れません。まして今後中国市場にフィットした自主開発車開発の場合は新しい部品・新しい素材の開発・導入が必要になります。
第三番目は自主ブランドの開発力です。今中国では外国車について一番人気がドイツ車、二番がアメリカ車、残念ながら日本車は第三位です。中国自動車メーカーはこれら外国車に負けない強いブランド力をもった自動車の開発が必要です。
第四番目はマーケティング力です。第一汽車はすでにメキシコ、南アフリカに海外工場をもっていますが、今後中国自動車メーカーは、新しい巨大市場中国市場向けに開発された自主ブランドの自動車を世界市場に拡販・現地生産する時代が来ると思います。そのときに必要なことはブランド力と同時にマーケティング力です。
最後に第五番として必要なことはサービス力です。これは海外でのマーケティング力に、さらにアフターサービスという力が必要であるということです。
 
長くなりましたが最後の最後に日本企業と中国自動車メーカーの新たな連携の可能性について簡単に三点申し上げます。
一番目は成長市場中国での共同環境車開発連携です。そして二番目は一番目と関係するかもしれませんが耐久性、燃費などの車の基本性能向上での連携です。そして最後に三番目として日中共同の世界市場戦略提携です。
 
(おわり)

当日の様子はこちら⇒
ニューチャーネットワークス「アジア事業立ち上げ記念講演会・懇親会」

潘 力本(PAN LI BEN)

潘 力本(PAN LI BEN)

・所属・役職
中国第一汽車集団公司(FAW) 日本支社長
エフ・エイ・ダブリュー日本株式会社 代表取締役
 
 
・略歴
中国吉林省生まれ。1963-68年 北京大学 日本史専攻。1969年中国第一汽車(FAW)本社入社。外事部副部長、進出口公司副総経理歴任。1998年より第一汽車・日本支社着任 FAWと日本自動車メーカー トヨタ自動車、マツダとの事業提携を手がける。
 
・著書・訳書など
自動車技術書翻訳多数
星 新一 「ショートショート」翻訳
 

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