大企業とスタートアップ企業によるジョイントベンチャー戦略(出島戦略)第3回
提案:大企業とスタートアップのジョイントベンチャーが効果的(出島戦略)
そこで私の大企業への提案は、大企業とスタートアップ企業とのジョイントベンチャーです。大企業にあってスタートアップ企業にないものは、即効性のある資産です。資産とは販売チャネル、顧客、生産・品質、物流システムなどの精緻なオペレーション、ブランド(信頼)、技術、経営管理や知財管理などのスタッフ組織などです。
スタートアップ企業にあって大企業にないのは、スタートアップマインド、行動力、自由度、リスクテイク、特化した技術やスキル、知見などです。
双方の連携がなかかうまくいかないのは、本質的に相容れない関係にあるにもかかわらず、相手を取り込もうとするからです。それならば、対等な関係でジョイントベンチャーをつくればいいのです。ジョイントベンチャーとは双方が出資して本体とは異なる会社を設立するのです。その際に重要なのは、大企業、スタートアップ企業ともに出資比率50%を超えないこと、できれば取締役会の決定に反対する権利が持てる33.3%を下回る出資比率にすることです。しかしそうすると誰か他社の出資が必要となります。その出資をベンチャーキャピタルに依頼するのです。ベンチャーキャピタルは、上場や株の買い取りなどのエグジットを求めるので、その期待には応えないといけません。
では出資した大企業やスタートアップ企業になんのメリットがあるのでしょうか?そのメリットを出すために、ジョイントベンチャーと大企業やスタートアップ企業がそれぞれ業務提携をして、互いが保有する資産を貸し、対価を得るのです。得られるのは業務提携による対価だけでなく、市場情報や、経営人材の育成、最終的にはキャピタルゲインや持ち株の資産価値などです。
ベンチャーキャピタルも入ったジョイントベンチャーにするので、ガバナンスは独立したものになります。また厳しい業績のレビューを受けることになります。
私はこのようなジョイントベンチャーを「出島戦略」と呼んでいます。江戸時代に長崎の出島に海外との接点をつくり、そこから医学はじめ様々なことを学んだように、大企業の中にベンチャーを取り込んだり、無理にベンチャーを実施したりするのではなく、全く異なる統治の組織をつくるアイデアです。
マイノリティ投資だとキャピタルゲインがファンドに持って行かれてしまうし、永遠にコントローㇽが利かず、メリットが少ないのではと危惧することもあるかもしれません。しかしファンドが投資する際に、大企業が優先的に株を買い取ることができるといった、エグジットの条件をつけることが可能です。33.3%以上、さらには50%超の株式を獲得すればコントロールできます。しかし、ジョイントベンチャーの良さもなくなる可能性があるので、どのようなガバナンス戦略を持つのかは、業務提携も併せてよく考えるべきです。
こういった試みは、実際いくつかの大企業、とくにインフラを持つ企業、例えばJR東日本スタートアップ株式会社やNTTグループなどで実施され、成功し始めています。
終わりに
大企業の強みは莫大な資産を持つことです。しかし、その資産を資産と意識しなければ活用できません。販売チャネル、顧客、設計、生産、品質管理、物流などのオペレーション、技術、知財や経営管理などのスタッフ力など大企業には多くの資産があります。その資産をスタートアップ企業のアイデア、マインド、行動力を使って資産価値を高めていくこと、その活動を通じて大企業の人材がジョイントベンチャーという「出島」でスタートアップを体験することは将来につながる大事な道と考えます。
【参考文献】