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グローバルで成功する事業戦略とは

ニューチャーネットワークス 代表取締役
高橋 透

 

1.安易な海外展開が“潜在的な海外不良資産”になっている

 多くの企業がアジア新興国を中心とした“グローバル展開”を進めている。ブームとも言える現象である。しかしアジア新興国市場は、先行者利益が得られる段階はすでに終わり、欧米、日本、韓国そして現地企業との厳しい競争市場となっており、“高度な競争戦略”が求められる時代になった。「現地企業との競争」とは、文化や習慣にあった製品・サービスを提供できる現地企業との「適合性の競争」であり、「欧米や韓国の企業との競争」とは、世界の複数の拠点を活かした高い生産性と独自性を生み出す「グローバルネットワークの競争」である。そのような極めて厳しい競争環境で、日本企業は中途半端な海外展開は許されない状況といえる。
 しかしその“グローバル展開”の実態をみると、しっかりとしたグローバル戦略がないまま安易な海外進出が進められ、競争力の乏しい現地合弁事業、稼働率の低い生産工場など、“潜在的な海外不良資産”を生み出してしまっている企業も多く見受けられる。皮肉な話ではあるが、これまでの安易な海外展開が、今後のグローバル戦略の足かせになってきているのである。

2.グローバル戦略で成果を上げている企業の特徴とは

 その一方でグローバル戦略が確実に大きな成果を上げている企業もある。
 例えばエアコンのダイキン工業。ダイキン工業は1995年当時から、中国を低コスト製造拠点ではなく販売市場として捉え、自社の強みを活かせる業務用高級エアコン市場をターゲットとした。初年度に100人以上の営業マンを中国に送り込み、中国語や現地の商習慣を学ばせ、2000年までに中国全土で880の特約店からなる独自の販売網をつくり、中国で高級業務用エアコン「大金」のブランドを築き上げた。「『大金』のエアコンを入れると、お店の売り上げも倍増する。『大金』という名前の通り縁起のよいエアコン」とまで中国の顧客に言わせたという。
 この強みを基に、2008年3月には中国最大のエアコンメーカー格力へアライアンスを持ちかけ、家庭用インバ-ターエアコンの生産委託、基幹部品の合弁生産、部品の共同購買など複数の業務提携、さらに合弁会社設立を含むいくつかの資本提携と、いわゆる「包括提携」を結んだ。それによって中国での中級機エアコン市場へのスピーディーな参入を果たし、日本はじめ先進国向けの普及価格帯市場でもシェアを拡大させることができた。
 ダイキン工業は、ハイエンドブランドにおいて自社単独で独自の販売チャネル、ブランド力を構築したうえで、その強みを武器にして現地企業とアライアンスを交渉、締結することによって、普及価格品に関わる多くの経営資源やノウハウを獲得してボリューム市場に入り込んだ。同時にこれを機にグローバルマネジメントを加速させ、会社の経営体質を変革したのである。

 

 また飲料大手サントリーは、1980年代から中国市場に参入していたがなかなか成果を挙げられず、1990年代に入って大きく戦略転換を図った。中国のビール市場において、徹底したマーケティングを行うことにより独自の現地向け製品を開発した。価格は、他の外資系企業のようなアッパーゾーンではなく、現地企業の製品と同等な価格戦略をとり、サントリー独自のバリュー感を打ち出した。さらには外資系として現地流通とのしがらみが少ないことを利用して流通構造の改革を仕掛けることで、中国企業よりも効率的な販売を行った。これらの結果として、中国ビール市場でシェア第2位、上海地区では第1位の地位を獲得している。
 サントリーは、日本での製品を持ち込んで現地化するのではなく、サントリーの強みであるマーケティング力を活かし、ゼロから現地独自の製品を企画開発し立ち上げた。さらには製品イノベーションだけではなく、流通イノベーションを仕掛け、独自のビジネスモデルを構築するまでに至ったのである。

 

 その他、建設機械のコマツは、海外と日本の生産拠点を再編し、開発・製造が難しく、かつ海外で模倣されたくないコア部品は日本の拠点が手がけ、同時に世界各地の生産拠点のそれぞれの強みを活かした最適な国際分業を実現している。さらには製品の建設機械にGPS無線装置システム「コムトラックス」を付けて稼働状況をリアルタイムで監視できるようにしたことで、製品の盗難防止、故障の早期発見という付加価値サービスの提供を実現した。さらには製品の稼働率を把握することで、需要予測や生産計画に反映させている。たとえば今年に入ってからは、中国はじめ新興国での鉱山開発、建設需要の低迷を「コムトラックス」でキャッチして生産調整をいち早く行ったという。このようにコマツでは、以前から保有していた海外拠点による独自のグローバルネットワークを構築し、さらには顧客の製品使用現場までネットワークすることで、競合が真似できない独自のビジネスモデルを構築した。

3.グローバルで成功する事業戦略とは

 このような日本企業の事例や我々の海外コンサルティング経験から、グローバル市場での成功、失敗事例を分析してみると、グローバル展開には、主に以下の3つの“グローバル競争戦略”が必要であると考える。
 1.競合する日本、欧米、現地企業に対して、顧客価値に直結する際立った強みを構築し、それをテコに現地への参入を図っていること

  • 自社の強みが本当に参入する地域で活かせるものなのか?顧客は価値と認めるのか?
  • 日本、欧米、現地企業とベンチマーク比較して本当に強いのか?
  • 強みを5年以上継続できる可能性があるのか?
  • 事業環境変化や競合の対抗策で、強みが弱みに転じる可能性は無いか?
  • 強みを真の強みにするためには、いつまでに何をするべきか?

 2.その強みをそのまま活用するのではなく、現地市場のマーケティングを徹底して行い、現地の顧客に合った形に製品・サービスをカスタム化していること

  • 現地の市場にあった製品・サービスにするためにはどのようなことが必要か?
  • そのためには組織にはどの様な機能や経営資源が、どの程度必要か?
  • カスタム化するためにはどのぐらいのリードタイムが必要か?

 3.さらに自社の強みを武器に、流通販売、開発設計、製造、調達などでアライアンスを含めたビジネスモデル上のイノベーションを実践していること

  • 強みをコアにした自社独自のビジネスモデルは構想出来ているか?
  • そのビジネスモデルは競争力があるか。拡大発展するか?  
  • ビジネスモデルを構築するためのシナリオは?
  • そのビジネスモデルを構築するためのアライアンスパートナーは誰か?

 

4.グローバル事業戦略を支えるグローバルマネジメント・プラットフォーム

 上記の様な事業戦略の根底には、「低コストでの生産のための海外展開」といった単純な「機能」の海外移転ではなく、各拠点の強みを活かし、製品開発、生産、販売、物流といった価値を生み出す一連の機能連鎖、つまり“各海外拠点も含めた事業全体での部門横断的な取り組み”、つまり“グローバルマネジメント・プラットフォーム”が必要である。
 “グローバルマネジメント・プラットフォーム”とは、「人事プラットフォーム」「財務、会計プラットフォーム」「知財・法務プラットフォーム」「生産・物流プラットフォーム」「開発設計プラットフォーム」など、グローバルにある拠点が共有することで、コストが下がり、生産性が高まり、その一方で各地域独自の要素を加える余地があるもので無ければならない。

 

 “グローバルマネジメント・プラットフォーム”づくりのためには、事業部の戦略企画部門が主体となり、狙いとする事業戦略を実現するために、各機能部門と国内外の各拠点間の相互関係をデザインし、マネジメントすることが求められる。その“グローバルマネジメント基盤”により、事業全体のコスト競争力や生産性を向上させ、さらには相乗効果を生み出すことができるのである。
 このように、グローバルでの事業展開の成功のためには、参入市場で競争優位を構築するための“グローバル競争戦略”と、各機能部門や拠点の効果的な連携を促進する“グローバルマネジメント・プラットフォーム”の2つのグローバル戦略が必須であるといえる。

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