グローバル・マーケティングの攻略法
1.グローバル・マーケティングにおけるポイント
グローバル展開の大きなメリットは、規模の経済によるコストダウンと範囲の経済による売上の増大である。ターゲットの国や地域ごとに製品・事業を個別に構築していたのでは、現地に特化している企業と同じレベル以上の戦いはできない。また、共通化だけで差別化できない場合には、事業環境に合わせて製品・事業をカスタマイズする必要がある。
グローバル・マーケティングでは、市場セグメンテーション、商品、価格、広告・プロモーション、販売チャネルそれぞれについて、共通部分とカスタマイズ部分を戦略的に判断することがポイントである。
2.共通化戦略とカスタマイズ戦略
グローバル・マーケティングにおける共通化戦略とは、複数の市場セグメントにおいて共通のマーケティング活動を行うことである。共通の活動を行うために本国において中央集権的に戦略策定・意思決定が行われる。共通化戦略には、次のようなベネフィットがある。
- 原材料の一括調達や同じ製品の大量生産、物流システムのシンプル化、同じ内容の広告・プロモーションなど規模の経済によるコストダウン
- マーケティング・ノウハウや技術などの、無形資産の効率的な蓄積
- 同一の製品を中長期的に扱うことによる製品品質の向上
- 国境を越えた一貫性のある製品コンセプトによるグローバル・ブランドの確立
共通化戦略のデメリットとしては、各市場セグメントに細やかに対応しにくくなり、現地メーカーはじめ競合に差別化されてしまうという点である。また、その国独自の規格や法規制、商習慣の違いといった障害にぶつかり、事業成果が出にくくなるリスクもある。
そこでカスタマイズ戦略を検討する必要がある。つまり、それぞれの市場セグメントの顧客特性やニーズに合わせて、商品や価格、広告・プロモーション、チャネルの内容を変えるのである。カスタマイズ戦略は、本国一極集中での戦略策定ではなく、現地法人に権限委譲して決定する分権的な組織体制となる。カスタマイズ戦略は次のようなベネフィットが期待できる。
- 顧客ニーズにカスタマイズされた製品によって、顧客満足度が高い
- 顧客の所得や購買特性に合わせて、柔軟な価格、広告・プロモーション、チャネル戦略がとれる。
デメリットとしては、市場セグメントごとに適応していると、規模の経済が働かなくなるという点である。大規模なイノベーションを起こすための大胆な投資もしづらい。また、顧客がグローバル企業である場合、世界の各拠点で発信している製品や広告の内容が異なってしまい、顧客が矛盾を感じることになってしまう恐れもある。これはコーポ-レートブランドの破壊となる。
3.事例: サムスン電子のグローバル・マーケティング
共通化戦略とカスタマイズ戦略の組み合わせをグローバルレベルで行い、大きな事業成果を出している好例として、サムスン電子の携帯電話ビジネスが挙げられる。
サムスンは、韓国および欧米市場においてはハイエンドの携帯電話を供給している。そして携帯電話の基本部分は共通化しつつ、製品のブランド名やバッテリー、カメラの画素数といった付加機能は各国の文化的違いを考慮して変更するカスタマイズ戦略をとった。新興国市場においては、ミドルからローエンドの携帯電話によって市場を開拓したのである。
カスタマイズを行う際には、様々な切り口で市場セグメンテーションを行っている。例えば宗教という切り口がある。イスラム圏においては、コーランを電子ファイルとして内蔵しいつでも再生できる携帯電話を販売した。さらにメッカの方向を示す電子コンパス機能と祈る時間を教えるアラーム機能を搭載した。あるいはインフラの整備率という切り口がある。電力供給がまだ不十分であるアフリカにおいては、非常用懐中電灯を装備した大容量バッテリー携帯電話を販売した。インドにおいては、太陽光パネル付きの携帯電話を販売した。
サムスン電子はプロモーションにおいても共通化とカスタマイズ化を工夫している。共通のコンセプトで同じような映像や音楽を用いたCMをつくったうえで、地域ごとにキーワードやカラートーンを切り替えている。もちろん起用する俳優も変える。
携帯電話の販売チャネルも、販売する店舗の属性を地域ごとの戦略によって変えているのである。
日本製造業は海外展開を加速させているが、国内市場はもう限界なのでとりあえず海外の成長市場に行くという傾向はないだろうか。そのような安直な動きでは、グローバル規模のコンペティションを生き抜いていけない。
どのような市場セグメントをターゲットとするのか、そして共通化戦略とカスタマイズ戦略をどのように組み合わせていくのかという、差別性のあるマーケティング・シナリオをしっかり構想してから、海外展開のファーストステップを選んでほしい。